03、石化魔眼には屈しない!

 動けない俺に、炎のライオンが飛びかかる。精霊力の結界は魔法攻撃なら防げるが、鋭い爪に喉を引き裂かれては大変だ。歌えなくなっちまう!


「水よ、大河となりて行く手をはばめ!」


 咄嗟に叫ぶと目の前に濁流が現れた。ライオンは一瞬ひるんだものの、勢いよく水に飛び込んだ!


「凍れ!」


 瞬時に凍りつく川。もちろんライオンも道連れだ。


 だがその上を二体のガーゴイルが飛んで来る。さらに奥からはドシンドシンと足音を立てて、槍斧ハルバードを手にした金属製の巨人が向かって来る。


「水よ、敵影てきえい包みててつきたまえ!」


 ガーゴイルと巨人をにらみつける。


 ピキピキッ!


 まずガーゴイルの翼が凍りつき、動きを止めた。


 ドン! ドスン!


 ガーゴイル二体が相次いで大理石の床に落下し、一体は羽を、もう一体は尻尾を損傷した。金属製の巨人も凍りついて、動きを止めている。だがその表面は赤く光り、どうやら熱を発している模様。


 川の中にとじ込めた炎のライオンも、自らの炎で氷を溶かしている。


「レモ、あのライオンみてぇな燃えてる魔獣、さっき見たか!?」


 竜眼ドラゴンアイの視線はモンスターたちに固定したまま、うしろで目を閉じているはずのレモに尋ねる。


「ええ。ちらっとしか見てないけど、魔物図鑑に載ってた炎獅子フラムレオンによく似ていたわ」


 さすがレモ。魔法学園の試験対策に魔物図鑑を丸暗記したと見える。


「あいつの熱耐性は体内にも及んでいるのかな?」


 先ほどの一斉熱湯攻撃は、燃える体毛に蒸発させられて効かなかったのだ。


炎獅子フラムレオンへの必殺技は、かみ殺そうと大口開けて飛びかかって来たら、口の中に魔法弾をぶち込むって習ったわ。体内なら火魔法も効果があるってことよね」


 自信を持って答えるレモの声を聞くと、力がみなぎってくる。


「よし」


 俺は倒し方を決めた。


「水よ、集まりて雲となり、いかづちを帯びたまえ!」


 俺の呼びかけに応じて、広間の天井に灰色の雲が集まってくる。


 ライオンはブルブルっと身を震わせ、凍った川から飛び出てきたところ。


「ガオー!」


 野生動物そのものの雄叫びを上げ、襲いかかろうと力をためる魔獣へ、  


「落ちろ!」


 俺は分厚い雲を見上げて命じた。


 ピカッ、バリィィィン!


 爆発音と共にライオンめがけて雷が落ちる。


「グ、グオォォォ……」


 苦悶の叫びをあげて動きを止めた魔獣の体内に、意識を集中する。


「汝が体内流れし水よ、沸き立ちて灼熱となり、内側より焼き尽くせ!」


「グギャァァァ!!」


 体表に熱耐性があるからといって、内蔵を熱湯にさらされてはひとたまりもなかったようで、その姿は黒い霞になってかき消えた。


 カラン、カラン……


 真っ黒い魔石が床に転がる。


 だが息つくひまもなく、すでに氷の呪縛から自由になった巨人が、馬鹿でかい槍斧ハルバードを振り回して向かってくる。先ほどの炎獅子フラムレオンのような俊敏さはないものの、ガーゴイルの魔眼のせいで両脚が石化した俺には脅威だ。


「海よ、我を助けたまえ!」


 サンロシェ修道院が浮かんでいた帝都近くの海を思い出して祈る。


 一瞬の静けさののち、


 ドドドド……


 大波が宙をはしる音が近づいて来た。


 開け放したままの窓から、


 ザッバーン!


 波音をとどろかせ、潮風の匂いを連れて、海水が巨人をたたいた。


 ドォォォン!


 金属の巨体はもんどり打って、大理石の床に転がった。


 俺のななめうしろで、先ほどの中年男が息を呑む音がはっきりと聞こえた。


「一体お前は何者だ!?」


 うわずった声で尋ねる男に、


「彼は水の精霊そのものよ」


 レモが自慢げに告げる。


 違う違う、俺は竜人族とセイレーン族のハーフだって!


「レモ、なんか全身金属っぽく光る巨人――」


 うしろを振り返らずに尋ねようとすると、


青銅巨人タロースだわ!」


 間髪入れずに答えが返って来た。


「ガーゴイルやゴーレム同様、動力になっている魔石を破壊するまで止まらないのよ」


 いわゆる自動人形のたぐいか。


「その魔石、どこにあるんだ?」


「制作者は青銅巨人タロースの身体のどこかに魔石を隠すの」


 弱点なら当然隠すよな。


「魔石を見つけなきゃ倒せねぇってわけか?」


「硬化魔法のかかった青銅製の肉体を火魔法で溶かして、魔石を露出させるのが攻略法ね!」


 いかにもテスト勉強で丸暗記しましたって口調で、元気に答えてくれた。


 えーっと火魔法の呪文は―― 焦った頭で記憶の奥底から引っ張り出そうとしていると、


「聞け、青銅巨人タロースよ!」


 突然、男が叫んだ。


「お前の熱でガーゴイルたちを解放せよ!」


 その言葉に従い、ガーゴイルに抱きつく青銅巨人タロース。その身体が赤く光り出す。


「くそっ、お前は黙ってろよ!」


 思わず首だけ振り返ってにらみつけると、俺の意思にこたえて海水の中から小魚が数匹飛び出し、男の口の中に飛び込んだ。


「むぐっ、むぐぐぐ!」


 氷が溶けて自由になったガーゴイルが一体、飛んでくる。男に構っている暇はない。羽が割れたガーゴイルは床を走って近付いてくる。


「海よ、我を守れ!」


 叫ぶと、海水が俺を中心にぐるぐると円を描き出した。俺を襲おうとしたガーゴイルは、うず潮に巻き込まれて叩き落とされる。


 そのたび大理石の床にひびが入るが、ガーゴイル自身も耳や爪などが欠けてゆく。しかし痛覚がないのか、全く意に介さず襲ってくるのだ。


「凍れるやいばよ、我が意のままに駆けよ!」


 うず潮の外側に出現した氷剣が、ガーゴイルを縦横無尽に切り刻むが――


 翼が、足が、頭が、それぞれ別個に突進してきた!


「うわぁぁぁ!」


 波ではばまれているとはいえ、思わず叫び声を上げる。


「レモ、ガーゴイルってどうやったら倒せるんだ!?」


 ダンジョンでもよく出会っていたが、歌って眠らせて素通りしていたのだ。


「ガーゴイルも青銅巨人タロースと同じく生物じゃないわ。痛覚もないから魔石を破壊しない限り襲ってくるの」


 羽を破壊されたガーゴイルも床を蹴って迫り来る上、そのうしろには青銅巨人タロースの姿も見える。


 ああもう、動けないってぇのに!


「雲よ、こいつらに雷落としてくれ!」


 天井に向かって叫ぶと、


 ピカッ、ガラガラドーン!


 爆音とともに落雷が起こるが、効いたのは青銅巨人タロースのみ。感電して一時的に動かなくなった。石製のガーゴイルは変わらず向かってくる。


「凍れるやいばよ、愚かなる存在もの切り刻みたまえ!」


 俺の呼びかけに応じて氷剣がひらめく。だがガーゴイルだった石つぶては細かくなっただけで止まる気配がない。


「おいおい、魔石ってどこにあるんだよ!?」



 ─ * ─



切り刻まれて小石になっても止まらないガーゴイル。

どうやって倒すのか!?

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