69★切り札の正体【初のイーヴォ視点】

(イーヴォ視点)




 俺様とニコは劇場だっつー建物の中にいた。俺様たちのいる部屋は仮眠室だとかで、劇場って感じはしねえな。遠くから聞こえてきた音楽も今は、やんでいる。


 俺様たちは、クロリンダの護衛として馬車で連れて来られたのだが、肝心なクロリンダは硬そうなベッドの上で寝息を立てている。


 宮殿の兵士は、こいつの持っているギフトが危険だから睡魔スリープで眠らせておくとか言いやがったが、意味が分からねえ。最強とうたわれる俺様に危険なものなど存在しねえっつーの。


 ノックもなしに扉が開いて、魔法騎士団の制服を着た男が二人現れた。


「クロリンダ嬢の出番だ」


 固い表情で言った中年男は―― 師団長だったか。部下らしい若い男がベッドに近付き、


覚醒ソレイユ


 何か魔法をかけるとクロリンダがいきなり目を開いた。


「ここはどこかしら?」


「クロリンダ嬢、ここは帝都中央にある皇后劇場です。今から衣装に着替えていただきます」


「まあ! アタクシ女優にスカウトされたのね!?」


 劇場と聞いただけでその発想力。眩暈めまいがするぜ。


「どうぞこちらへ」


「でも困りますわ。アタクシ公爵令嬢ですのよ。女優なんて商売女のすることですもの」


 さっそく出たな、妄想の上に組み立てられる気持ち悪い発想。


「ご安心ください。衣装を着て一瞬、舞台に立つだけですから」


「あらっ、アタクシ歌だって歌えますのよ! ラーララーッ」


「うるせっ」


 突然始まったけたたましいリサイタルに、俺様は思わず耳をふさいだ。


「ララーララーッ! ルルルー!!」


「お静かに……」


 困り顔の師団長に引っ張られて、歌いながら廊下を去ってゆく。


「すげぇ音痴」


 歩く騒音を見送って、俺様はボソッとつぶやいた。声が汚ねえわけでもないのに下手くそって、なかなかないぞ。


「俺様たちも行くんだろ」


 部屋の扉を閉めようとした部下の男に、俺様は慌てて尋ねた。


「いいえ、あなた方はここで待機していてください」


「なんだと?」


「劇場内では火魔法が禁止されているんです。ニコラさんの使う土魔法も、帝都の主要な建物内部では構造物を破壊する魔法として、使用が制限されています」


 淡々と答えやがる男の腕を、俺様はむんずと鷲掴わしづかみ、


「俺様は光魔法だって使えるぞ。クロリンダに悪霊が乗り移るんだろ? 俺様の出番じゃねえか」


「聖魔法については、聖ラピースラ王国の聖女候補だったレモネッラ嬢がいらっしゃるので」


「んだとぅ!? あのピンクブロンドがヅラだとでも言うのかっ!?」


 俺様がすごんでやると、


「頭皮を光らせるだけが聖魔法ではありませんっ!」


 俺様の手を振りほどき、廊下を走って逃げやがった。


「クソがっ!」


 俺様は扉の前に取り残された。


「おいニコ!」


 振り返ると俺様の忠実な子分は、壁を走って逃げまわるゲジゲジをからかって遊んでいる。


「俺様たちもホールに行くぞ」


「え~、土魔法が認められてないんじゃ、おいらやることないっスよ」


 やる気のない声出しやがって。


「使用制限だけだろ。建物の床を突き破ったりしなきゃいいんだよ」


「わざわざ危険な目に遭わなくても、おいらたち依頼料もらえるんスよ?」


「うるせー、この腰抜けがっ!」


 一喝するとニコはおとなしくなった。ここはもう一押しだな。


「おめえは帝都で活躍したくねーのか? 自分の力を見せつけたくねえのかよ!?」


 ニコは首をすくめて黙っている。


「行くぞ」


 とがった耳を引っ張って立たせる。


「あいたたた、イーヴォさん、勘弁勘弁!」


 廊下に出ると、また音楽が聞こえ始めた。


「終わったわけじゃなかったのか」


「イーヴォさん、クロリンダがどこに連れて行かれたのか分かるんスか?」


「衣装着て舞台に立つって言ってたんだから、この音楽がする場所に決まってんだろ」


 俺様の言葉に、ニコはもの言いたげに目玉を動かした。大方おおかた、音の出所でどころが分からねえとか言いたいんだろう。


「探すんだよ、バカヤロー!」


 げしっ


「いてぇ」


 一発殴ってやるとニコはおとなしくなって俺様についてきた。


 よっしゃ、全ての扉をくまなく開けてやるぜっ!




─ * ─



果たしてイーヴォたちは、オペラが終わる前にホールを見つけられるのかな?


次回はジュキくん視点に戻ります。

『ケルベロスが現れた!』

第二幕にもモンスターが乱入するようです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る