54、光魔法を操る偽イーヴォ?

「イーヴォ・ロッシってそいつ、罪人ですよ」


 俺が二人に訴えると、


「そうよ。うちの王国で投獄したんだから」


「うちの領地でつかまえたのー」


 レモとユリアが口々に証言する。


 混乱した侍従は二人を交互に眺め、


「えー、レモネッラ嬢は聖ラピースラ王国の公爵令嬢、ユリア嬢はスルマーレ島領主の娘さんでしたな? どちらで捕まったのですか?」


「「両方です」」


 俺とレモの声が重なった。鼻白んだ侍従に、


「危険人物ですよ」


 と俺。レモもすかさず、


「宮殿に入れてよい者じゃないわ。姉と一緒に河川敷の橋の下にでも捨ててくるべきよ」


「大体、雇う前に犯罪歴とか調べないんですか?」


 つい口調がきつくなる俺。帝都まで来て、もうあいつらと顔を合わせることはないと安心してたのに。髪を伸ばして中性的な恰好で歌ってるところなんて、絶対に見られたくない。


「よほど怪しいと疑わない限り調べないよ」


 答えたのはギルマス。


「鑑定水晶で魔力値とスキルを見るだけだね」


 確かに俺が領都ヴァーリエのギルドに登録したときもそうだったか。


 ギルマスは肩をすくめて、


「帝都のギルドはとにかく冒険者の数が多いんだ。帝国中から一旗揚げようってやつらが集まってくるんだから」


「でも俺のステータスは皇后様に筒抜けだったよ」


「聖剣の騎士殿と一介の冒険者じゃ状況が全然違う。皇帝の勅令でハーピー便が極秘文書を運んだんだろう。聖剣を抜いた人物が現れるなんて、帝国始まって以来の一大事だからな」


 ギルマスに説得された形になって、黙り込んだ俺の代わりにレモが、


「でも百歩ゆずって乱視がひどくて悪霊が見えるとしても――ぷぷっ」


 笑いをこらえながら話を続ける。


「聖魔法が使えなければ悪霊に対抗できないわ。橋の欄干で作った模造聖剣でも出してくるのかしら。ぷぷっ」


 イーヴォには、中途半端な鍛冶の術を駆使して引っこ抜いた欄干を手に、魔術剣大会に出場した前科がある。


「ご安心を、レモネッラ嬢。イーヴォ・ロッシは光魔法が使えるそうです」


「嘘だろ? あいつのギフトは火魔法フオーコだけだったはずだぜ?」


 俺が横から口をはさむとギルマスはうなずいて、


火魔法フオーコも鑑定で出たけどもう一つ、彼のユニークなギフト<光輪グローリア>がある」


 何そのありがたそうなギフト。


「レモ、光輪グローリアって知ってる?」


 聖ラピースラ王国で聖女としての教育を受けたレモに尋ねる。聖王国は聖魔法が盛んで、表向きは攻撃魔法を禁止しているほどだ。


「聞いたことないわ。だけど私だって、全ての聖魔法を学んだわけじゃないから……」


 言葉とはうらはらに、その瞳には疑念の色がありありと浮かんでいる。


「ねーねー」


 ユリアが俺のマントを引っ張った。


「とりあえず見物に行こうよ。その偽イーヴォ」


「来てくださいますか!」


 目を輝かせたのは侍従。


「助かります! 我々ではクロリンダ嬢をどうにもできず参っていたので」


「仕方ねぇな」


 廊下に出る俺に続いて、


「そうね。本物だろうが偽物だろうがイーヴォがジュキをいじめたら、また私がぶっ飛ばすチャンスがめぐってくるし」


 ぽきぽきと指の骨を鳴らすレモ。本当に頼もしいなあ。


「わーい! イーヴォ、本物だといいなあ。頭が輝いてるんだよねっ」


 無邪気にはしゃいで廊下をかけ出すユリアを追いかけて階段を下りると、階下からクロリンダの感情的な声が聞こえてきた。


「どうして嘘をつくの!? あなたはアタクシを愛しているから、世界を救って死ぬ運命にあるアタクシを助け出すため、帝都の皇城まで来たんでしょう!?」


 相変わらず思い込みが激しいな。すっかり悲劇のヒロイン気取りである。


「ちげーよ、話の通じねえ女だな!」


 ふてぶてしい怒鳴り声は、やはりイーヴォのものとしか思えない。


「違わないわ! なぜ素直になれないの? アタクシが塔に幽閉されていたときも助けに来てくれたじゃない!」


「あれはてめえからをふんだくるため――」


「そののことよ! アタクシがあなたとの婚約を破棄したから払えとおっしゃたのでしょう!?」


 全然話が通じないなあと思っていると、階段を下りてきた侍従が腑に落ちた顔で、


「婚約破棄されたのはイーヴォ氏のほうでしたか」


「いや、婚約自体クロリンダの思い込みだろ」


 彼らに姿を見せたくない俺は、階段わきの壁に背をくっつけたまま小声で答える。


「えぇっ、婚約したと思い込んだ? そんなのあり得ないでしょう、常識的に考えて」


 正論を述べる侍従に、先頭を歩くレモが教えさとす。


「常識的に考えていたら、姉の行動は理解できないわよ」


 クロリンダの部屋に向かって、さっさと歩きだすレモのうしろから廊下をのぞくと――


 頭に赤いバンダナを巻いた男と、黒髪の小柄な男がクロリンダと言い争っていた。どう見てもイーヴォとニコだよな?


「ねぇ、髪のないお兄さんと、ちょっと小さなお兄さん」


 ひどい話しかけ方をしたのはユリア。イーヴォとニコが同時に振り返った。


「ああっ、てめえらは――」


 イーヴォがレモとユリアを指差すと同時に、


「まあ、レモネッラ! どうしてあなたが宮殿にいるのよ!?」


 クロリンダも非難がましい口調で尋ねた。


 俺は階段の一番下の段にとどまったまま、壁の陰から片目だけ出して様子をうかがう。レモとユリアの身に危険が迫ったら出て行こう。まあイーヴォ相手ならレモが無双するはずだが。


「お兄さんたち二人はうちの領地で罪――」


「オーホッホッホ!」


 ユリアがめずらしくまともなことを言おうとしたのに、クロリンダの高笑いでさえぎられた。


「レモネッラ、うらやましがりなさい! アタクシに惚れて惚れまくって追いかけて来てしまった男を紹介するわ!」


「だから違――」


 イーヴォの訴えもむなしく、


「光魔法を操る栄光の影術士、イーヴォ様よ!」


「光魔法なのに影術士ってどういうことよ?」


 まったく動じないレモ、さすが姉妹付き合いが長いだけのことはある。


「知らないわ! ルーピ伯爵が与えた称号ですもの」


「パパが!?」


 ユリアが驚愕の声をあげた。




 ─ * ─



次回『イーヴォ、栄光の禿術士と呼ばれし者』


一体イーヴォの身に何が起こったのか!? 次回、判明します!

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