48、聖剣の騎士、皇帝の前でも無駄に目立つ

「はーい! ご紹介にあずかりましたユリアでっす!」


 元気に答えて皇帝の前にトテトテ走り出たユリアが、かわいらしく膝折礼カーテシーをした。


「あのね、陛下。わたし狼人ワーウルフ族なの。だからすぐに気付いたんだ。オレリアン様が眠り薬入りの紅茶を出してくださったこと!」


 身を乗り出した皇帝が何か言い出す前に、予定通り俺が進み出る。


「陛下、ユリア嬢の話を補足します。自分は聖剣の騎士ジュキエーレ・アルジェントです」


「その者の発言を許そう!」


 堂々と宣言したのは皇帝ではなく宰相。文句を言いたそうな皇帝は放置して、


「ユリア嬢のお陰で我々は、眠り薬に口をつけずにすみました。しかし座らされたソファの下には仕掛けがあって、床が真っ二つに割れ、我々は落下しました。そこでは三匹のモンスターが待ち受けていたのです」


「それはどのようなモンスターであったか?」


 昨日練習した通り、騎士団長が質問してくれる。


「巨大な甲殻類系モンスター、グール、食人花でした。食人花を抜くと、その根が大量の魔石を抱えていて、瘴気を放っていました」


「ふむ、お前たちが持ち帰った六狗女怪スキュラは出てこないのだな?」


 騎士団長がうまいこと誘導してくれる。


「スキュラは、床の下で三体の魔物を倒したあとで、一般会員によって檻に入った状態で連ばれて来ました。オレリアン殿下が操るたぐいまれな空間魔法によって、我々三人はスキュラと共に亜空間に閉じ込められたのです」


 俺の証言に謁見の間が騒がしくなる。そこかしこで、


「眠り薬に亜空間だと?」


「やはりうわさ通り第一皇子はご乱心か?」


 などと、ささやきあうのが聞こえる。


「その話はおかしいぞ!」


 皇帝がついに反論した。


「亜空間に閉じ込められたのなら、お前たち三人はなぜ今ここにいるのだ?」


 しかしこの問いは逆効果だった。冒険者たちの一団が、


「陛下は第一皇子が空間魔法を使ったことは認めていらっしゃるのか」


「亜空間を作り出す魔法は禁術なのに」


「禁止されているのは我々庶民だけってわけか」


 小声ではあるが、怒りあらわに話し出した。


「発言をお許しいただけますか? わたくしは聖ラピースラ王国アルバ公爵家のレモネッラと申します」


 優雅な足取りで、レモが御前に進み出た。


「許可しよう」


 勝手に許可する宰相。皇帝がにらみつけるのを無視して、レモはふわりと膝折礼カーテシーをした。


「わたくしはアンドレア・セラフィーニのもとで新魔術の創造を学んでおりました。彼から受けた知識を生かして、亜空間を破る術を発明したのです」


「いや、それはさすがに――」


 皇帝は口ごもった。レモのうしろに立つセラフィーニ師匠を気にしている。師匠は先帝のお気に入りで今も騎士団に友人が多いから、その弟子を侮辱しにくいのだろう。


「私一人では到底、力が及ばなかったでしょう」


 レモは謙虚に目を伏せてから、手のひらで俺を示した。


「亜空間にはこちらのアルジェント卿――聖剣の騎士様も一緒に閉じ込められたのですわ。私が開発したのは、聖剣にかける術でした」


「「「おお――」」」


 謁見の間にどよめきの波が起こる。主に騎士団と冒険者連中が身を乗り出しているようだ。


「そして私の魔力量ではとても無理だったでしょう」


 なぜかレモはその場でくるりと回り、皇帝に背を向けると集まった人々に話しかけた。


「水の精霊王である白竜の力を引き継ぐ彼だからこそ、なし得た偉業です!」


「すごいぞ、聖剣の騎士!」


「精霊王の力だって!?」


 大騒ぎになっちまったじゃんか! こんなの打ち合わせになかったぞ!? 


「現代に現れた白竜なのか」


「それであの神々しい姿なんだな!」


 誰かが手を叩き始めたせいで、拍手が伝播していく。


「輝かしい白い肌に銀の髪――まさに白竜だ!」


「きっとドラゴンに変身できるんだろうなあ!」


 そんなわけあるかーっ!


「皆の者!」


 宰相がビシッと喝を入れた。 


「陛下の御前であるぞ! 静まりたまえ!」


 嵐が去った後の海面のように、ざわめきが引いてゆく。ぐったりとした皇帝が玉座から立ち上がろうとすると、騎士団長がすかさず発言した。


「偉大なる陛下のお力で、このように危険な魔石救世アカデミーを抑えてはいただけませぬか」


 皇帝は親指と人差し指で眉間を押さえながら、


「息子のオレリアンに外部理事として監視させておる」


「恐れながら伺いますが、ではオレリアン殿下が責任を取って下さるのでしょうか?」


 玉座の下にうやうやしくひざまずいたまま、騎士団長が不敵な問いを発した。



 ─ * ─



正面から切り込んだ騎士団の問いに、皇帝はなんと答えるのか?

次話『追いつめられるアントン帝』

もはやオレリアン第一皇子をかばっている場合ではない!

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