13、聖剣の騎士、女騎士となる?

「ん……? それで俺はどこで――」


「ジュキは私と一緒に一つのベッドで寝るのよ?」


 しれっと言い放つレモ。……そぉぉぉいう作戦かぁぁっ!


「さ、早く服を脱いで」


 なんとか言ってくれよ、と思いつつ姉を振り返ると、あっけにとられて固まっている。


「あのなあ、レモ」


 俺は片手でこめかみを押さえつつ、


「同じ部屋のベッドでねえちゃんが寝てるってのに、何するつもりなんだよ」


「ナニするって――やましいことは何もないじゃない! だって私、ジュキのご両親にもちゃんと挨拶したもん!」


 言いつのるレモを無視して、


「ユリア、あんたレモせんぱいと一緒に一つのベッドで寝られるか?」


「わーい! わたしレモせんぱい大好き!」


 ここですかさずレモに向きなおり、


「ほら、かわいい後輩が大好きって言ってくれてんのに、突っぱねるのかな~?」


「うっ、ジュキったら悪知恵が働くんだから!」


 あんたほどじゃねーよ。


「ジュキちゃん、明日から旅に出て疲れるんだから、私のベッド使って」


「いいって、俺はソファで」


「そうなの……? 本当に優しい子! ぎゅっ」


 うわぁ~! レモとユリアの前で思いっきり抱きしめるな!


「ねえちゃん、子供の頃とは違うんだから……」


 小声で抗議すると、


「ジュキちゃんは十年前と変わらず、かわいいわよ!」


 でもねえちゃんは発育してるんだってば! 自覚ないのかよ!?


 色々あって疲れたので、その夜俺はソファで寝たにもかかわらず熟睡した。




 そして翌朝――。いよいよ帝都に向けて出発する日だ。覚悟を決めねばならない。第一皇子と敵対? ラピースラ・アッズーリといよいよ決戦? そんなのは些細なこと。それより問題なのは――


「ジュキちゃ~ん! 女の子のお洋服に着替えましょうか~?」


「ジュキ! 今回は帝都まで旅することを考えて、動きやすいように女騎士のコスチュームを選んだわ!」


 姉とレモが満面の笑みで俺の前に立った。


「女騎士?」


「そう!」


 レモが元気に答える。


「昨日、閉店間際の防具屋に駆けこんで買ってきたのよ! 女騎士なら腰に剣を差しててもおかしくないでしょ?」


 確かに、姉がソファに並べているのは白銀に輝くミスリル製の胸当てや肩当て。服屋じゃなくて防具屋に行ってきたとは。まあこれなら、あんまり女性的なデザインじゃなくて着やすいかな?


 ――なんて思っていた時期が俺にもありました。


「何この胸当て! 形が女の人のおっぱいじゃん!」


 ミスリル製アーマーは薄いとはいえ金属だから、俺の身体に沿うわけもなく。胸当ての中はスッカスカなのだが――


「こんなの――本当に女の子になっちゃったみたい……」


 複雑な気持ちでうつむくと、


「これなら聖剣の騎士ってバレないでしょ?」


 得意げなレモ。そうだよな、俺のためを思って選んでくれたんだよな。受け入れようとした俺だが、姿見に映った自分の姿に慌てて目をそらして首を振った。


「やっぱり恥ずかしいよっ! ヘソ出てるじゃん……」


 ミスリル製の華奢な胸当ては、上半身の一部しか覆っていないのだ。


「ちゃんと薄い布がかかってるからいいじゃない。その布もミスリル繊維が織り込んであって防御力があるんだって」


 よほど自分のチョイスに自信があるのか、レモが自慢げに解説する。


「防御力はどうでもいいけどスケスケじゃん!」


 悲鳴を上げる俺に、姉がすました声を出した。


「シースルーって言うのよ」


 都会ぶって訂正しないでほしい。俺はふくれっ面で、


「うっすら腹直筋が見えて、いかにも男が女装してるみたいだよ」


「ジュキちゃん、女騎士を舐めちゃだめよ。女性とはいえ日々鍛錬を積んでるんだから、それくらいの腹筋はあるはずよ」


 くっ、正論で返しやがって。


 俺はため息をつきながら手足を見下ろす。うろこの生えた腕や足はかろうじて、白絹のような素材で覆われているが――


「なんかこの生地も肌に吸い付くように薄いし」


「それもミスリル繊維が――」


 防具屋の店員よろしく、またレクチャーを始めたレモをさえぎって、


「防御力の話じゃなくて、身体の線が出すぎて嫌だって言ってるの」


 俺が目を据えると、


「ジュキの綺麗な体つきが分かるように、それ選んだのよ」


「はぁ?」


 俺が怒りを含んだ声で問い返すのも構わず、


「美しいものはどんどん見せてアピールしていくべきだからね」


 レモは、うんうんとうなずきながら持論を展開する。


 腰回りを覆うプレートは前後左右で四枚に分かれているのだが、足を動かしやすいように広がっているのでミニスカートのようだ。そこから、ぬっと足を出すのは俺的には抵抗がある。


「ジュキの太もも、程よく筋肉が張ってていいわぁ。じゅるり」


 レモがとろんとした目でながめてるし。俺はため息をつきながら、


「ねえ、きみは今も俺のこと好きでいてくれてるの? こんな格好してる俺を、異性だって思える?」


「はぁっ!?」


 今度はレモが訊き返す番だった。


 うしろでねえちゃんがボソッと、


「好きじゃなきゃあんな目つきで見ないって」


「ほんとほんと。昨日の夜もレモせんぱい、ジュキくんと寝たがって大変だったし」


 ……ユリアまで。


 言われてみればそうだけど、不安だよ! ただでさえ俺は身体もあまり大きくないし、声も子供っぽいし、性格だってイーヴォみたいに好戦的じゃないんだ。


「ジュキ、不安にさせてごめんなさい」


 レモが立ち上がって、俺の前に進み出た。


「私は、回りくどいことは嫌いなの。だから率直に言うわね」


 彼女の魅力的な瞳が、まっすぐ俺を射た。




─ * ─




おねえちゃんの前で、レモが愛の告白を!?

次話、帝都に向けて女騎士コスチュームで旅立ちです!

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