38、聖剣と共に再度ダンジョン最下層へ!

「騎士爵を授与する際は、騎士になる者の願いを一つ聞き入れることが慣例じゃ。ジュキエーレ殿、何か望むことはないかな?」


「大伯爵様、ユリア嬢の婚約者のことだけど――」


「おお、やはりユリアを愛してしまったか!」


「違う違う」


 ぱたぱた手を振る俺。


ちごうたか」


 前伯爵はがっくりと肩を落としてしまった。


「もうちょっと長い目で見てやって欲しいんだ。ユリア嬢がもう少し大人になって、本人の意思で決められるようになるまで」


「ユリア、十四歳だよ?」


 前伯爵のうしろからユリア嬢が、ぴょこんと顔を出した。


「十四歳!?」


 十一、二歳かと――。


「レモと変わらないのか」


 考えてみればレモと同時に学園に通っていたんだから、そんなに歳が離れているわけないよな。胸だけ見りゃあレモよりでかいし……


 俺のつぶやきをすかさずレモが聞きとがめて、


「私はあと二十日で十五だもん!」


 と主張した。だから今は十四だよね、と言いたいが、不毛な議論になりそうなので黙っておく。


 前伯爵がユリアに向きなおった。


「かわいいユリアよ、お前はどうしたいのだ?」


「わたし、レモせんぱいにおねえちゃんになってもらって、ジュキくんにおにいちゃんになってもらうの!」


 元気に答えるユリア嬢に、前伯爵は小さなため息をついた。


「まだ結婚相手を探すのは、ちと早すぎたかの」


「だからジュキくん、わたしのこと『ユリア嬢』って呼ぶのやめて? 妹のことそんなふうに呼ぶの変でしょ?」


「はいはい、ユリアさん」


「だぁかぁらぁ!」


 ユリアが俺の腕にしがみついてくる。重いんだって。


「レモせんぱいにするみたく、もっと気楽に話してよぉ!」


「ジュキエーレ殿、聞き入れてやってはくれんかの」


 じーさんからも頼まれてしまった。


「あ、はい。失礼でなければ」


「うちの孫は失礼とか分かる子じゃないから――」


 さりげなくひどいこと言ったし。


「してジュキエーレ殿、次の旅先は決まっておるのかの?」


「実は――、聖剣で試してみたいことがあるんです」


 俺はダンジョン「古代神殿」の最下層に封印されているドラゴネッサばーちゃんの話をした。


「本当にジュキエーレ殿には驚かされる。まさか信仰の対象となっている精霊王と会っていたとは――」


「そうよ! かわいい顔にだまされそうになるけど、ジュキってすごい人なんだから!」


 レモがうしろから抱きついてくる。


「それではダンジョンの近くの川まで、伯爵家の船でお送りしましょう」


 ざばぁっ!


「いえいえ、その役目はが引き受けよう!」


 広場の先の小運河から突然シーサーペントが顔を出した。


「しかしジュキエーレ殿、シーサーペントの頭に乗るより船の方が、確実に乗り心地が良いでしょうな」


「ですよね」


 迷わずうなずく俺。


「しくしくしく…… それではは竜王殿を護衛いたしましょう」


 ついてくるんだ……



 そんなわけで俺たちは、また木造帆船はんせんの旅に出た。となりをシーサーペントが並走しているので、とにかく目立つ。行き交う商船もびっくりである。海賊よけになって良いとも言えるが――


 目指すはヴァーリエ港。そこからダンジョン「古代神殿」までは歩いて半日もかからない。


 ようやく、ばーちゃんをダンジョン最下層から解放してあげられる!

 大きな木造船の甲板に立って、初夏の日差しにきらめく大海原を見つめる。腰から吊るした聖剣の柄をなでながら、俺は約束を果たせる満足感をかみしめていた。




─ * ─ * ─ * ─ * ─





次回は船旅――ではなく、二日後、船がヴァーリエに着くところまですっ飛びます。


船旅の話は「Ⅰ」で丸々やってるし。というわけでダンジョンまで向かいますよ~ なんと海の中から!


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