29、蜘蛛伯爵の本性あらわる?

<お前の姉クロリンダをあずかった。返してほしくば造船所の東にある廃教会の庭まで一人で来い>


「いや、返してほしくないし」


 レモは手紙に向かって一言そう告げると、元通り封筒に入れてしまった。


「さ、食べましょ!」


「いいのか?」


「当ったり前じゃない。行くわけないでしょ?」


 さっそく揚肉団子ポルペッテを頬張りながら微塵みじんも気にしていない様子のレモに、


「これ、蜘蛛伯爵からじゃねぇかと思ったんだけど――」


「私もそう思うわ。『一人で来い』っていうのは、最強銀髪ツインテ美少女たるジュキちゃんを連れてくるなってことでしょうからね」


「その言い方やめて?」


 俺の抗議も意に介さず、レモは声をひそめた。


「このまま魔術剣大会を勝ち進めば、どのみち対決することになるわよ」


「だよな。きっと人目のないところで戦いたかったんだろうけど」


「そうね――」


 レモはしばし遠くの空を見つめていたが、ぽつんと言った。


「あいつに試してみたい術があるのよね。師匠からの手紙を読んで、ふと思ったの」


「危険なことはするなよ?」


「へーきへーき。私にはジュキエーレ様っていう最強の守り神がついてるから」


 いたずらっぽく笑って、俺の肩にこてんと頭を寄せてきた。


「ジュキくん、ここにいたんだね! 決勝戦に間に合うようにと思って、聖石仕込んだマント持ってきたよ!」


 ちょっとハスキーな声に振り返れば、ドワーフ娘のドリーナさんがうしろに立っていた。


「レモネッラ嬢に頼まれたジュキくんの服は替えも含めて、きみの部屋に届けてくれるよう使用人さんに頼んだから」


「わぁ、ありがとう!」


 俺は彼女から白いマントを受け取ると、さっそく羽織ってみる。留め具のところに蒼い聖石が輝いている。


「ジュキ、とっても似合うわね!」


 レモがきらきらとした笑顔でほめてくれた。


「すごくかっこいいわ! いつもかっこいいけど。うふふっ」


「レモネッラ嬢、うれしそうだなあ」


 ドリーナさんがにやにやしながら眺めている。


「お昼食中、失礼します!」


 アリーナに司会者が戻ってきて、大声を張り上げた。


「第二回戦の対戦表を組みましたので、発表します! 第一試合……」


 次々と読み上げられる名前に、レモがやや緊張した面持ちで耳を傾けている。そして――


「最終試合、人族ラーニョ・バルバロ伯爵対同じく人族の騎士見習いレモネッロ・アルバーニ」


「なっ」


 俺は思わず声をあげた。レモは不敵な笑みを浮かべ、


「思ったより早く直接対決の時が来たわね」


 落ち着いた声で言い放った。




 午後、第二回戦が始まるとしばらくして、レモはまた変装するために姿を消した。


 そしてついに最終試合。


「二回戦で私に当たるとは運がなかったな、少年」


 蜘蛛伯爵は対峙したレモに勝ち誇った笑みを向けた。


「そういうことはボクと戦ってから言ってよ、おじさん」


 レモも余裕の笑み。俺の防御術がかかっている以上、レモが攻撃を受ける確率は限りなくゼロに近いから当然かもしれないが。


「試合開始!」


 司会の声と同時に、蜘蛛伯爵は両手の指をレモに向けた。


「第一回戦でも使っていた神経毒の攻撃かの?」


 うしろでユリアのじいさんがつぶやく。


 ――水壁強化! プラス逆流!


 俺はレモの身体にまとわせた精霊力に、さらに力をこめた。


「ぐおぅっ!?」


 客席からは毒の軌跡を視認できないので、伯爵が突然苦しみだしたように見える。


「あの小姓ペイジ、まさかはね返しおったのか? なかなかやるのう。ユリア、お前の婚約者にあの少年はどうじゃろう?」


 ユリアが答える前にルーピ伯爵が、


「父上、自分で出した毒が本人に効くものなのですか?」


「モンスターの場合で考えれば、体内では袋や管などの器官に閉じ込めて毒を保持することで自分の身体を守っておる。外から攻撃されれば効果はあるじゃろう」


 前伯爵が秀逸な解説をしてくださるが、息子も孫もポカンとしている。伝わってねぇな、こりゃあ。


「じゃがあの伯爵は人族じゃ。服の下にでも毒を隠し持っていたと、わしは考えておる。進化した人間などと言っておったがハッタリじゃろう」


 ただのハッタリなら良かったんだがな。アリーナでは蜘蛛伯爵が腰のあたりから、レモに向かって糸を繰り出した。実際は腰じゃなくて――とか考えちゃいけねえ。


 ――水よ、氷の刃と化して断ち切れ!


 俺の意思に従って、レモに伸びてきた糸は寸断された。


「おおおお! あの騎士見習い、若いのになかなかやるな!」


 客席にどよめきが起こる。レモは唱えていた呪文を完成させたようだ。


清浄聖光ルーチェプリフィカ!」


 やわらかい光が闘技場をふわりと包む。


「なんで聖魔法……?」


 観衆が怪訝な顔をしたのもつかの間、


「うっ、うぐぅっ――」


 蜘蛛伯爵が胸をかきむしって苦しみ始めた。


「ボクのもくろみどおりだ。あんたには聖魔法が効くらしいね」


 レモがくすっと笑った。


「どういうことだ? なぜあの伯爵は聖魔法で苦しむ?」


 ルーピ伯爵が身を乗り出す。


「通常、聖魔法が効く相手は不死者アンデッドやゾンビだが、彼は生きている人間にしか見えぬのぅ……」


 白いあごひげをなでながら考え込む前伯爵の言葉に内心、あいつ顔色悪いけどな、などと思っていると、


「本当はもう死んでる人ってことぉ?」


 ユリアがちょこんと首をかしげた。


 そういえばレモの師匠は、かつてラーニョ・バルバロ氏は助かるはずのない大怪我を負って、大量に出血したと書いていたっけ―― 手紙の内容を思い出して、背筋が寒くなる。


 レモはさらに大きな聖魔法の詠唱に入ったようだ。


「させるか!」


 顔面蒼白を通り越して全身黒ずんで見える蜘蛛伯爵が、レモに向かって剣を振り上げた――!





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レモネッラ嬢ピンチ?

いよいよ戦闘本格化!?

そういえばクロリンダ嬢はどうなったんだ?


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