06、刺客は最強コンビに命乞いする

 俺は跳ね起きると同時にカーテンをひらき、靴も履かずに黒いうしろ姿に斬りかかった。


「ぐわぁっ!」


 相手がのけぞったところで、


「氷の結晶よ、いましめとなれ!」


 動けないよう縛り上げる。


「従者め、そっちにおったか!」


 男の悔しそうな声から察するに、今夜は先に護衛の寝込みを襲おうとしたものらしい。


光明ルーチェ!」


 魔力光を天井に放り投げたレモが、


「やっぱりあんたね」


 さして驚くふうでもなくつぶやくのを聞くと、俺に背を向けたままの男は予想通りバルバロ伯爵なんだろう。


「俺たちと一緒に船長室まで来てもらおうか」


 氷の鎖を引っ張ろうとしたとき、


「それはできぬ相談だな」


 グルグル巻きになってるくせに偉そうな伯爵が、


っ!」


 と瘴気を吐いた。


「うわっ」


 竜眼ドラゴンアイを開けたままだった俺は思わずのけぞった。こんなことできるなんて、普通の人間のはずがない! まあ、精霊力を放出できる俺が言っても信憑性……(以下略)


「さらばだ、諸君!」


 逃がすわけないじゃん。


「氷のいましめ強化版!」


「うおうっ」


 扉の前で動けなくなった伯爵が、


「な、何者だ…… お前は――」


 ゆっくりと首だけをこちらに向けた。俺が次の呪文を唱えるまで猶予ゆうよがあると信じていたんだろう。


「ん? 女だと……? はっ、お前があの―― アッズーリ教授がおっしゃっていた――」


 また出た、アッズーリ教授。


「銀髪ツインテ美少女か!?」


「おっさんの口からその単語は聞きたくないっ!」


 反射的に叫ぶ俺。


「くっ、男装して従者に化けておったか!」


 逆だっつーの。だが女装した俺を知ってるってことは、アッズーリ教授ってのがあのラピースラ・アッズーリだと見て間違いないだろう。ちょっとかまかけてみよう。


「あんたはラピースラ・アッズーリの命令で俺たちを殺しに来たのか?」


「私を見逃してくれるならその問いに答えよう」


 人目を避けて襲ってくるだけあって、捕まると困るようだ。だがアッズーリ教授のファーストネームがラピースラであることを、訂正する様子はない。


 そのとき――


烈風斬ウインズブレイド!」


「がぁっ」


 うしろからレモが風の術で斬りかかった! おとなしいと思ってたら呪文唱えてたのか……


 レモは腰に手を当て、居丈高いたけだかに言い放った。


「三つの質問に答えるなら見逃してもいいわ。ただしスルマーレ島に着いてからも私たちを襲わないと、あんたの貴族の矜持とやらにかけて約束すること」


 意外にも交渉に応じる姿勢を見せるレモ。伯爵は涙目で、


「じゃあ何ゆえ攻撃したし……」


 ブツブツ不平を言っている。


「あんたが今朝、私の大切なジュキを傷付けたからよ!」


 いや俺、ぼーっとしてたから傷付いたってほどでも―― あ。俺の悪口を言われて傷付いたのはレモのほうなんだ。


「俺のいとしいレモを悲しませたあんたは許せねえ」


 俺は氷のつるぎを伯爵の鼻先に向けた。


「ええっ、どういうことだ!? あんたらめんどくさいよ……」


「瘴気を放って俺の結界を破るなんて魔物に決まっている。バルバロ伯爵の名をかたったモンスターめ、今ここで剣のつゆとなって消えよ!」


 上段に振りかぶったつるぎが振り下ろされんとする刹那、


「うわー待った待った待った!! 私は今お前たちと戦うわけにはいかぬのだ! 三つの質問に答えるから見逃してくれ、命だけはっ!」


「みっともないわねぇ。貴族の矜持とやらはどこに行ったのかしら?」


 レモが意地悪な目をする。それから俺の方に向きなおり、


「どうする? こんなこと言ってるけど」


「レモの気が済んだなら」


「オーケー。じゃあもう一発、嵐暴蹴ストームキック!」


「ぐわふぅっ」


 レモの魔術強化された回し蹴りが伯爵の股間をとらえた。動けない相手にも容赦しないレモ、熱い正義の心がたぎってしまったんだろうな。


「それじゃあ質問するわ」


 魂が抜けかかっている伯爵に構わず、レモは口をひらいた。


「ひとつ、あなたが言うアッズーリ教授っていうのは何者なのか。ふたつ、あなたが帝都から多種族連合ヴァリアンティ自治領に来た理由を正直に話しなさい。最後に、二日も続けて私を襲った理由は何なのかしら?」


「うう…… 分かった。まずはアッズーリ教授についてだな」


 伯爵は痛みに顔をゆがめながら話し始めた。




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次回、明らかになる真実!


「と言ってもこいつ、本当のことしゃべるのか?」

「いやそもそも、本当の事知ってるのか?」


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