07、ラピースラ・アッズーリと魔石救世アカデミー
「ラピースラ・アッズーリ教授の経歴については、私は詳しく知らないのだが、過去には女子修道院にいらっしゃったそうだ」
確かにラピースラは修道女だった。千二百年前の話だが。
「教授はあまり過去の話をされないのだが、どうも修道院で名付けられ育てられたらしい。それで昔の聖女――聖ラピースラと同じ名だとおっしゃっていた」
それは嘘だ。何せ本人なのだから。
「私がアッズーリ教授に出会ったのは『魔石救世アカデミー』という学会においてだから、それ以前の彼女について知っていることは少ないのだ」
「魔石救世アカデミー?」
レモが眉をひそめ、オウム返しに尋ねた。帝都の魔法学園に三年近く通っていたレモでも知らない団体のようだ。
「魔石が持つ様々な力を探求する研究機関だ」
ちなみに魔石とは、魔物や魔獣を倒すと得られる宝石の一種で、内部には魔力が凝縮されている。
俺たち亜人族は大人なら誰でも基礎的な生活魔法を扱えるが、魔力量の少ない人族の間では魔石が重宝されている。明かりを灯したり火を起こしたりできない者でも、魔石をセットするだけでそれらを可能にする魔道具が流通しているのだ。とはいえ都市部と農村では事情が異なるだろうし、社会階層によっても歴然とした差が存在するはずだ。
そのため相対的に見て、誰もが魔力を持つ亜人族の地域――
「ラピースラ・アッズーリはそこの教授に収まっているってこと?」
レモの問いに、伯爵は
「アッズーリ教授はアカデミーの創立者にして代表だ」
ラピースラ・アッズーリめ、ロベリアの身体に乗り移ったまま好き放題やってやがんな。ヤツがわざわざ設立した団体ってことは――
「その魔石救世アカデミーってのは、魔神アビーゾ復活を目指してたりすんのか?」
「はぁ?」
伯爵め、心底バカにした顔で俺を見やがった。
「何を言っているんだね、君は。我々のアカデミーは、魔石が秘めたさらなる可能性を追求するために結成された学術団体だ。そんなおとぎ話みたいなことを目指すわけなかろう」
隠し事をしているふうには見えないけど、どうなんだろうな? 正直言って俺は、心の汚い大人がつく嘘なんて見破れる自信ないんだよな。判断に困ってちらっとレモを見やると、レモはひとつうなずいて見せた。
「魔石救世アカデミーね。覚えておくわ。次の質問、
「アッズーリ教授から
――やはり。
ダンジョン『古代神殿』に封じられている水の精霊王であり、俺の祖先のホワイトドラゴン――ドラゴネッサばーちゃんは、封印を解くには聖剣でも持ってくることだ、と話していた。そしてラピースラ・アッズーリは、精霊王の末裔である俺ならドラゴネッサばーちゃんの封印を解く力があると言ったのだ。
ラピースラ・アッズーリは、俺が聖剣を手に入れる前に自分が押さえようと考えているに違いない。
「ゆえに私はこんなところで捕まっては困るのだ。貴族とはいえ罪を犯した者が、伯爵令嬢の婚約者を決める剣大会に出られるとは思えんからな」
身動きできないものの、口調だけは威厳を保っているバルバロ伯爵。
「じゃあなんで罪を犯すんだよ? おとなしくしてりゃぁいいだろ」
至極当然な質問をした俺に、
「まさかアッズーリ教授を苦しめた銀髪ツインテ美少女が一緒だとは思わなんだ。アルバ公爵家令嬢だけなら聖魔法の使い手だろう? 私の敵ではないと思ったんだが――」
怪訝な顔でレモを振り返り、
「お前は本物のレモネッラ嬢か?」
「本物だけど? また
「い、いえ……」
ビビっておとなしくなる伯爵。攻撃魔法を禁じている聖ラピースラ王国の公爵令嬢が、肉体強化魔法で暴力振るうなんて想像していなかったんだろう。
「なぜアッズーリ教授は、聖剣を欲しがっているんだ?」
今度こそ魔神アビーゾに関する話が聞けるかと期待して、俺は尋ねた。
「アッズーリ教授は魔石だけでなく、魔道具や伝説級の武器についても研究しておられる。その一環で聖剣を調べられるようだ」
うーむ、うまいこと筋が通ってるな。アカデミーの連中もラピースラ・アッズーリにだまされているのか? まあ実際に「魔神アビーゾ復活を目指す団体」なんて立ち上げたら、本気にしてついてくるのは「夢は世界征服」とかほざいてる子供だけな気もする。
「もし魔術剣大会に勝ったら、本当にユリアと結婚するつもり?」
レモが魔法学園時代の後輩ユリアを心配して訊いた。
「それも悪くなかろう。バルバロ家当主の座と騎士団長の職は弟にゆずればよい」
そんな簡単に事が運ぶものか、貴族社会に
「いいわ、最後の質問よ。私の命をねらった理由はなに?」
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「レモをねらった理由はそりゃ、ラピースラ・アッズーリの魂を浄化・・・って、この伯爵はラピースラ・アッズーリが魂だけで別の人間に乗り移ってるって知らないんだっけ?? こいつ、どうやって説明するつもりだ??」
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