08、覚醒した強大な精霊力
にぶい銀色だった刀身がまばゆい光を放つ。
「おお、すげぇ!」
俺は歓声を上げた。だが、いよいよ目も開けていられぬほど発光したところで――
パキン
冷たい音を立てて、親父からもらった
「うわぁぁ、父ちゃんごめん!!」
一瞬前の喜びは消え失せて、俺はまた泣きそうになった。
『言わんこっちゃない。そなたの精霊力は規格外なのじゃ。ほかの竜人族の魔力など軽くしのぐじゃろうて』
飛び散った
「それって―― 俺、魔法使えるようになったってことか!?」
『そりゃあ魔法くらい使えるじゃろうて』
事もなげに言う。
「よっしゃー! 俺もう魔力無しの無能じゃないんだ!!」
俺はガッツポーズで思いっきり叫んだ。
『泣いたり笑ったり忙しい子じゃのう。その角や羽が気に入らぬのなら、魔法で隠してみてはどうじゃ?』
「えっ、でも俺そんな呪文知らない……」
というか今までほとんど呪文を覚えてこなかった。だって竜人族の村では誰でも使えるような簡単な術――たとえば明りを灯す術さえ使えなかったのだから。
『呪文とは精霊たちに呼びかけて力を借りること。そなたは自身が精霊力を持っているのだから、呪文など必要ないじゃろう。イメージするだけでじゅうぶんじゃ』
「そうなのか?」
『自分の身体に関することと、水魔法についてはそうじゃろう。そなたが受け継いだのはわらわが持つ水竜の精霊力じゃからな』
ためしに目を閉じて呼吸を整え、いつもの自分の姿を想像してみる。
『おお、成功じゃ。人族の少年のような姿になったぞ』
なんとはなしに残念そうなばーちゃん。しかし手足は今まで通りなめらかな白いうろこに
『じゃがこの神殿から出るには翼が必要じゃぞ。上へ上へと飛んで行けば着くはずじゃ』
俺はもう一度目を伏せ、翼を思い描いた。
『そうじゃ、低層階から出口までは
「いろいろとありがとな、ばーちゃん!」
防御魔法処理のほどこされた布で竪琴を包み、
「なあ、ばーちゃんはここから出られないのか? その氷のいましめ、水竜なんだから解けないのかよ?」
彼女は目を閉じて悲しそうに長い首を振った。
『わらわの持つ水の成分と融合して離れられぬよう術をかけられてしまったのじゃ。これを解くには伝説の聖剣でも持って来ないことには無理じゃの』
「そっか。じゃあ俺の精霊力を封印したニセ聖女が分かったら、次は伝説の聖剣を探し出してばーちゃんを助けに来るからな!」
『ふふふ、いい子じゃの。わらわは自分の末裔がそなたのようなやさしい子で嬉しく思うぞ』
俺はふわりと浮き上がり、ばーちゃんに手を振った。
「えへへ、なるべくすぐ戻ってくるから待っててよ!」
銀色のたてがみをゆらして、ばーちゃんが白い首を振ってうなずくのが見えた。
ダンジョンの深いたて穴は、最下層から第三層の最奥の部屋につながっていた。
錆びた鉄の扉に手をかざし、
「開門」
と唱えるだけで扉があいた。魔法ってすげぇ。いや、普通はここまで便利じゃないのか。――などと思っていたら……
「グオォォ!」
目の前にいきなりオークが立っていた。
やべっ、油断した! 開ける前に歌っておくんだった!
「ギャーッス!」
雄叫びをあげたオークが巨大な斧を振り上げた。
「水よ!」
叫んだ俺の手の中に、つるぎの形をした水が生まれる。驚いたことに水のつるぎはオークの振り下ろした重い斧を受け止めた! 相手が一瞬ひるんだ隙にもう一声。
「水よ、この者を包みたまえ!」
目の前の敵が全身すっぽり水に包まれるところをイメージする。
果たして想像した通りになった。どこからともなくあらわれた大量の水に呑まれ、オークはじたばたと苦しげに太い手足を動かした。鼻と口をすっぽりと水に包まれ、呼吸を阻害されているのだ。
「無駄に苦しめてもかわいそうだな」
俺は右手を伸ばすとオークの左胸めがけて刺さる剣を思い描いた。
「凍れる
鋭いクリスタルに串刺しにされ、オークは動きを止めた。
「……本当に俺が魔物を倒せたのか?」
自分でも信じられない。
だが俺の目の前でオークの巨体は灰になり、
カラン
と音を立てて魔石が地面に落ちた。
「魔法が、使えるようになってる……」
俺はなるべく心を落ち着けて、ゆっくりとした動作でダイヤモンドのように輝く魔石を拾い上げた。
「それも普通の魔法じゃない。呪文詠唱もなく、イメージしたものが瞬時に具現化するんだ!!」
それからは無駄にモンスターとエンカウントしたくないので小声で歌を口ずさみながら、ばーちゃんの言う通り
「なんでこんなところに魔石が散らばってるんだ?」
それは第二階層に上がる階段の前にあった。魔石は冒険者の成果物で、ダンジョンにもぐる理由の一つでもあるから、放置するなんてあり得ない。
「これ、イーヴォが腰に下げてたヤツにそっくりじゃねぇか」
近くに落ちていた革袋を拾い上げる。それは魔物の鋭い爪に引き裂かれたかのように紐が切れ、大きく破れていた。
俺は魔石を拾い集め革袋で包むと、壁のつる草を拝借して口を縛り
「まさかあの無敵の強さを誇るイーヴォとニコが、第三層の魔物ごときに苦戦して逃げ出すわけないしなぁ」
俺は首をひねって、とりあえず第二階層へ続く階段をのぼっていった。
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次回、ギルドへ戻ったジュキエーレは見る影もないパーティメンバーたちに再会します。ジュキはまだ、元仲間が最弱だったことを知らない……
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