01、ランクアップが止まらない
俺は最後尾から竪琴片手に、ささやくように歌いながらついてゆく。今日は精霊教会の創世神話だ。
「――はるか昔 この世界が
我らが四大精霊王はこの地を
空を清め 世界に光がふりそそいだ――」
色とりどりに発光する苔に
「――悪しき
奈落の底に眠りし暴虐なる魂よ
眠れ、眠れ、いついつまでも――」
ダンジョンに住む者たちだけに影響を及ぼすようイメージしながら歌う。
ふらふらと漂うようにあらわれた吸血コウモリたちに気付いたイーヴォが、
「
呪文を唱え始めた。
「紅蓮の
吸血コウモリは逃げるわけでもなく、地下神殿の高い天井付近にかたまって互いにからまっている。
「
イーヴォの右手から放たれた複数の火球が、コウモリたちに直撃した。バラバラっと落ちてきた魔石をニコが回収し、腰から下げた革袋に突っ込む。
イーヴォとニコがすべての敵を
「――二度とその恐ろしき目を見開くな
光届かぬ奈落の底で
底無き深海の
眠れ、眠れ、いついつまでも――」
サムエレのようにあくびをかみ殺しながらついていくのも嫌なので、ダンジョンの敵を
しばらくコウモリ狩りに専念したあと、
「これで全部か?」
「もう出てこないぞ」
「今回も楽勝だったな」
そんな会話を交わしながら、俺たちは初めてのダンジョン探索を終え、帰路についた。
ギルドに戻ってくると、イーヴォはまたカウンターにドンっと革袋を乗せた。
「これまた全部、魔石!?」
ねえちゃんの反応も、ここ数日で見慣れたもの。
「そうだよ。俺たち吸血コウモリ討伐に行ってきたんだから」
俺がいつものように答え、
「俺様たちの実力が、よーっく分かっただろ?」
イーヴォがまたふんぞり返った。
俺たちはまたすぐにランクアップして、Dランクになった。
そうして一年ちょっと経ったころには、「グレイトドラゴンズ」は念願のSランクに到達していた!
とりあえずのつもりで組んだパーティだったが、あまりに調子よく事が進むので、俺はほかのパーティメンバーを探そうなんて気は起こらなくなっていた。それどころかむしろ、ヴァーリエ冒険者ギルド史上Sランク到達最短記録パーティから振り落とされたくなくて、必死でしがみついている状況。このメンバーなら本気で上を目指せる。帝国一も夢じゃないのだ!
季節は五月。俺は半年ほど前に十六歳となり、背もちょっとだけ伸びた……気がする。
ダンジョン近くの酒場には、酒のにおいと葉巻の煙、それから男たちの体臭が充満していた。
「来たか、ジュキ。待ってたぞ」
分厚い木の板を張り合わせただけのテーブルで、腕を組んだイーヴォが偉そうにのたまった。
「座れよ」
隣のニコもイーヴォを真似て、腕を組んでいる。
「サムエレは?」
俺は、冒険者でごった返している酒場を見回した。
「あいつは呼んでねえ。お前を村に帰すって言ったら、あいつ自分も帰るって騒ぐだろうからな」
「え、今なんて?」
聞き間違えであることを祈りながら、俺は問い返した。人通りの多い領都が夕闇に沈むこの時分、すでに酔っぱらって大声で笑う
「この一年間、お前を見てきたリーダーの俺様が決めたんだ。ジュキ、お前に冒険者は向いてねえ」
「いやイーヴォ、俺を村に帰すだなんて勝手なこと言うなよ。俺の人生は俺が決めるんだから」
「生意気言うんじゃねえよ!」
でかい
「おめぇ一度でもモンスター倒したことあんのかよ!? いつもうしろで歌ってるだけ。俺様とニコしか戦ってねぇだろ!?」
「サムエレだって同じじゃん!」
エール臭い吐息から顔をそむけて俺は、不服を申し立てた。
「同じじゃねえ! あいつは治癒魔法や結界が使えるんだ! ま、今んとこ敵が弱すぎて結界の出番はねえけどよ」
「でも治癒魔法は役に立ってますよね!」
ニコが目を輝かせて補足した。
「イーヴォさんがオークの森で、近所の農民が仕掛けた野うさぎ用の罠にかかって足首に怪我を負ったときだって、イノシシ用の落とし穴に落ちて捻挫したときだって、ダンジョンのトラップにかかって毒矢が鼻の穴に命中したときだって、サムエレさんが回復してくれたんだ!」
「なんでおめぇは無駄なことばっか覚えてんだよっ!」
ごすっ
イーヴォの肘鉄がニコのみぞおちにめり込んだ。
「おぶっ」
変なうめき声をあげてニコがおとなしくなると、イーヴォは満足して俺に向きなおった。
「俺様のパーティに魔法の使えねえ無能はいらねえ。魔力量の多い竜人族のくせに魔力無しとか笑えねえよ。ギャハハハ!」
─ * ─
ジュキはSランクパーティから追放されてしまうのだろうか?
彼の返答は?
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