ⅵ、冒険者パーティ結成!

 俺は意を決して口を開いた。


「イーヴォ、ニコ。俺たち四人でパーティを組まねえか?」


「「「えっ」」」


 男三人が息を呑み、


「ジュキちゃん、いいの!?」


 姉が心配そうに顔をゆがめた。


「うん、ある程度、経験値をためるまでの臨時パーティだよ」


「そうね、最初から理想のパーティが組めるわけじゃないわよね」


 自分のことのように思いつめた顔をするねえちゃんに、俺はニッと笑いかけた。


「俺はまずスタート地点に立ちたいんだ。きっとこの道を歩いて行く先に、俺の理想の仲間たちがいると思うから」


 俺は子供の頃見た夢を思い出していた。木漏れ日の踊る街道を、俺は心の通じ合う誰かと手をつないで歩いていた―― いつかきっと、そんな仲間と巡り合うんだ。


「甘いですよ、ジュキエーレくん」


 だがサムエレが水を差した。


「君はおとなしく村に帰った方が幸せになれる。こんな野蛮な男とパーティを組んでも――」


「んだとぉ!?」


 イーヴォが怒りの雄叫びを上げた。


「誰が野蛮だっつぅんだ、てめえ!」


「ひぃぃぃ」


 聖職衣の胸ぐらをつかまれたサムエレは、情けない声を出した。


「俺様とパーティを組むのが嫌だっつぅのか、てめぇは!? 俺様のためにゃぁ聖魔法を使いたくねえってか? えぇ?」


「ま、ま、まさか!」


「ふんっ、面白くもねえ。俺様のパーティに入れてやるってんだから、ありがたく入りやがれ、クソが」


 イーヴォに投げ捨てられて、長身だが細身のサムエレがよろよろとカウンターに倒れかかったとき、受付の奥にある棚からアンジェリカが戻ってきた。カウンターの上にギルド登録メダルを四枚並べ、


「なんてパーティ名で登録する?」


 俺は身を乗り出した。


「考えてきたんだ! ――キャッ」


 イーヴォにうしろから髪をむんずとつかまれて、俺は思わず悲鳴を上げた。


「魔力無しはすっこんでろ。パーティ名はリーダーの俺様が決める」


「いつイーヴォがリーダーに決まったんだよ」


 後頭部をさすりつつ弱々しく不平を申し立てる俺に、イーヴォは指の間に残った俺の銀髪を払い落としながら、


「うるせーっ! 俺様は『グレイトドラゴンズ』のリーダー、イーヴォ様だ!」


「え~、グレイトドラゴンズ? ダサイよ。『雲海にこだませし古代竜の咆哮』がいいな」


なげぇんだよ!」


 イーヴォは一言で切り捨てた。


 なんてことだ……。作詞作曲が趣味の俺が繊細な感性を生かして、この上なく詩的で風流なパーティ名を考案したってのに!


「イーヴォ、あんたジュキちゃんをいじめたら承知しないから」


 ねえちゃんは羽ペンをさらさらと動かしながら、綿紙コットンペーパーに視線を落としたまま釘を刺した。


「ギルマスに言いつけてあんたのギルドポイント、素行不良で没収してもらうから覚悟しなさい」


 イーヴォをきつくにらみつけたねえちゃんは、俺には別人のような笑顔を向けてメダルを手渡してくれた。


「最初はFランクからのスタートよ」


 メダルには、「ヴァーリエ冒険者ギルド」の刻印と、Fの飾り文字が入っている。俺は念願だったギルドのメダルを、そっと指でなでた。


「ジュキちゃん嬉しそうね。目を輝かせちゃって」


 ねえちゃんはいつくしむように目を細めた。


 隣ではイーヴォがガッツポーズで、


「よっしゃー! ダンジョンもぐるぞー!」


 野太い叫び声をあげた。


「ほら、なんつったっけ、この近くで有名な――」


「ダンジョン『古代神殿』ですか」


 固有名詞が出てこないイーヴォに、サムエレが助け舟を出す。


「盛り上がってるところ悪いけれど」


 今度は姉が水を差した。


「ダンジョン『古代神殿』は一番浅い第一階層でもDランク指定。Fランクのあなたたちはまだ挑めないわ」


「どうすりゃいいんだよ!?」


 いちいち食ってかかる暑苦しいイーヴォに、ねえちゃんは嫌そうな顔でのけぞって、


「クエストをこなしてギルドポイントをためて、ランキングシステムをのぼっていくのよ」


 壁の掲示板を指差した。


「あそこに依頼が張ってあるわ。あなたたちが受けられるのはFもしくはEの印がついているもの。でも最初は危険がないようにFランクの依頼を――」


 ねえちゃんの言葉が終わらぬうちに俺は掲示板に向かって駆け出した。


「こら、ジュキちゃん! 人の話は最後まで聞きなさい!」


 カウンターから姉が叫んでいるがどこ吹く風で、俺は素早く掲示板に視線を走らせた。


「EかF、EかF――」


「あっ、あのゴブリン討伐のやつ!」


 追いかけてきたイーヴォが右上を指差した。


「よっしゃ!」


 俺はジャンプして掲示物をつかむと、着地の勢いではがした。


「俺たちの最初の仕事はこれだっ! 家畜の鶏を襲うゴブリンたちの討伐依頼!」


 ゴブリンって最弱の魔物のイメージがあるけれど、それでもモンスターと戦えるんだ!


「ケッ、依頼の管理はリーダーの役目さ!」


 どでかいイーヴォがうしろから腕を伸ばし、俺の手から依頼文書を抜き取った。


「あっ、返せよ!」


「へへーんだ! 追いついてみろ、チビ妖怪!」


 ギルドの出口に向かって走り出したイーヴォを追う俺の背中に、ねえちゃんの怒声が響いた。


「ちょっと待ちなさい、あんたたち! それEランククエストでしょ!? 最初はFランクのを――」


 ねえちゃんの声を背中に残し、俺はイーヴォを追って建物から走り出した。


「イーヴォさん、待って下さい~!」


「ジュキエーレくん! 走らないで!」


 ニコとサムエレも追いかけてくる。


 いよいよ俺の冒険者生活が幕を開けたんだ!




 ─ * ─




次回はいよいよ初クエストです。

作品フォローしていただけると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る