黄金羊さんを送り届ける!

 え?

 羊さん夫妻を置いてきたら、速やかに帰るように?

 変な約束とか、願い事を言っちゃ駄目?

 そんなことしないよ?

 牛さんも貰えることになっているし。

 え?

 悪役妖精が何?

 え?

 連れて行くの?


 すると、悪役妖精と、近衛兵士妖精ちゃん達が五人ほど飛んでくる。

 中には黒風こくふう君と白雪ちゃんも混ざっている。


 ???


 なんで?

 別に、イメルダちゃんを連れて行く訳でもないのに……。


 わたしがそんなことを言っていると、しかめっ面の悪役妖精が〝何でも良いから、さっさと行くぞ!〟と身振り手振りをしている。


 なんで、この妖精はピリピリしてるのだろう?

 そこまでして、付いてくる意味なんて無いと思うけどなぁ~

 あ、羊さん夫妻を守るためかな?

 確かに、サーベルタイガー君とか集団で狙ってくる魔獣がいたら面倒くさいし、それを考えると、付いてきてくれるのはありがたいか。


「よろしくね」

と言うと、悪役妖精はため息を一つ付くと、近衛兵士妖精君達に指示を出し、黄金羊さんを取り囲んだ。



 家畜運搬車を引きつつ結界を抜けると、木々の隙間から白狼君達が顔を出した。

 ただ、ご機嫌斜めな悪役妖精がギロリとめると、慌てて首を引っ込めた。

「ちょっと、睨むこと無いじゃない!」

と言っても、悪役妖精は〝相手にしてる暇は無い〟と面倒くさそうに手を振った。

 そうかもしれないけどさぁ~


 もっとも、そんなことではへこたれないのが白狼君達だ。


 わたし達と距離を置きつつ、付いてくる。

 そんなことをやるぐらいなら、自分で狩りをした方が早いと思うけどなぁ。

 などと考えつつ、川を越え森を抜け、草原を駆ける。

 草原で赤ライオン君がこちらを見てきたけど、気にせず先を進む。


 ん?


 視線を感じ、上空に目をやると、巨大赤羽根鷲きょだいあかはねわし君だった。

 昨日と同じ三羽だ。

 彼らはこちらに鋭い視線を送っていた。

 ひょっとしたら、黄金羊さん達に狙いを定めているのかもしれない。

 そうなると、面倒だなぁ。


 彼らは空高く飛んでいる。


 つまり、彼らが襲いかかってくるタイミングを待たないと、こちらとしても倒すことが出来ないのだ。

 小さいコル兄ちゃんであれば〝空駆け〟で追いかけることも、追い払うことも出来るだろうけど、わたしには無理だ。

 鬱陶しく上空を飛び回る彼らに、意識をさかなくてはならない。


 わたしがどうにか追い払えないだろうか?

 などと考えていると、悪役妖精が抜剣した。

 そして、剣先を巨大赤羽根鷲きょだいあかはねわし君に向けると、振るった。

 途端、巨大赤羽根鷲きょだいあかはねわし君が「ぎゃ!? ぎゃ!?」鳴きながら、吸い寄せられるかのようにこちらに向かって落ちてくる!?

「え!?

 嘘!?」

 思わず叫んだわたしの前に、近衛兵士妖精の黒風こくふう君と白雪ちゃんが立ち、剣を振るった。

 切り刻まれた巨大赤羽根鷲きょだいあかはねわし君の羽根や肉片が地面に振り落ちる。


 うわぁ~!

 グロい!


 いや、それより……。

「今、どうやったの?」

 悪役妖精に訊ねる。

 ケルちゃんみたいに失神させた訳じゃなく、巨大赤羽根鷲きょだいあかはねわし君の体を、ブラックホールみたいに引っ張り寄せている感じがした。

 原理が気になる。

 だけど、悪役妖精はニヤリと笑い〝内緒だ〟という様に身振り手振りをした。


 ケチ妖精め!


 後方にいる白狼君達に〝食べて良いよ〟とジェスチャーをしつつ、先に進む。

 町に近づくにつれ、軍隊雀ぐんたいすずめ君の姿を見かけるようになる。

 彼らもこちらをチラリと見るが、怯えたように離れていく。

 まあ、どうでもよい。

 先に進む。


 しばらくすると、草原一帯に金ピカが広がっているのが見えてくる。

 こうやって見ると、恐ろしいほど目立つなぁ。

 領主様に見られると、かなり面倒くさい事になりそうだ。

 早めに、離れて貰う方が良い。

 家畜運搬車にいる羊さんの負担になら無い程度に急ぎ、駆けている。

 ん?

 あ、コウモリ羽根の彼が飛び上がった。

 多分、近づいてくるわたし達存在に警戒したんだろう。

 ただ、わたしに気づいたようで、すぐに下に降りた。

「あの子は良い子だから、攻撃しないでね」

と悪役妖精に注意すると、何故か渋い顔をした。

 そして、諦めたように頷いてみせる。


 いや、そういうの感じ悪いから!


 などとやっていると、黄金羊さんの集団から、先ほどの羊飼いさんがニコニコしながら出てくるのが見えた。

 側には例の牛さんもいる。


 わたしが手を振ると、手を振り返してくれる。


 羊飼いさんの前まで行くと「お待たせ!」と言いつつ、家畜運搬車をゆっくり止める。

 羊飼いさんが嬉しそうに家畜運搬車に近づいた。

「やあ、お帰り」

 家畜運搬車に声をかけると、我が家にいた黄金羊さんは〝仕方がないから帰ってきた〟というように、「メェ~」と鳴いた。

 わたしが家畜運搬車から降ろして上げると、他の黄金羊さんも近寄ってくる。

 我が家にいた黄金羊さんは、それに構わずこちらに視線を向けた。

 こちらというか、わたしが降ろした白羊さんの方で、彼女は落ち着かない様子で立っている。

 羊飼いさんが「彼のつがいなら、君も僕たちの家族だ。歓迎するよ」と声をかけると、少し安心した様子の白羊さんは、我が家にいた黄金羊さんの元に早足で近づき、寄り添った。

 わたしが「元気でね」と手を振ると、我が家にいた黄金羊さんはこちらを一瞥し〝お前もな〟というように「メェ~」と鳴いた。

 そして、白羊さんと他の黄金羊さんの中に入っていった。

 羊飼いさんはそんな様子を優しく見守りつつ言う。

「ありがとう。

 大切な家族を連れてきてくれて」

「気にしないで。

 成り行きだしね」

 羊飼いさんは我が家にいた黄金羊さんに視線を向ける。

「あの子が毛を刈らせたんだね」

「うん、仕方がないからって感じで」

 わたしがそういうと、羊飼いさんは楽しそうに笑った。

「君のことをよほど気に入ったみたいだね」

「そうなのかなぁ~

 いつも、やたらと偉そうだったけど……」

と言いつつ、短い間だったけど、一緒に暮らしていた黄金羊さんとの別れは、ちょっと寂しい。

 向こうはどう思っているかは分からないけど。

 あ、それよりだ。

 わたしは籠を降ろすと、壺を取り出す。

「はい、これさっき言っていた蜂蜜酒、少ないけど」

 羊飼いさんはパッと表情を明るくする。

「いいのかい!?

 貰っちゃって」

「いいよ、また作れば良いし」

 ホクホク顔の羊飼いさんは、壺を受け取る。

 そして、鼻を近づける。

「う~ん、なかなか良いものだ!」

と少し、恍惚とした顔になる。


 この人も、相当の酒飲みらしい。


「一気に飲みすぎないようにね」

と一応注意するも笑いながら「大丈夫! 大丈夫!」とか言っている。

 この辺りも、我が家の酒飲みに通じるものがある。

 いや、酒飲みって、皆、こんな感じなのかな?

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