羊飼いさんとのお話2
「え?
いいの?」
常に牛乳が取れるなんて、凄すぎるんだけど!
わたしの問いに、羊飼いさんは牛さんの背を撫でながら頷く。
「色々あって、一緒に居るんだけど……。
元来、この子は余り旅を好まないみたいなんだ。
だから、君の家で落ち着いて暮らしたほうが良いと思ってね」
羊飼いさんの言葉に、牛さんは〝その通り!〟というように「モォ~!」と鳴いた。
「本当に良いの?」
とわたしが念を押すと、牛さんは頷きつつ、わたしの腕に頬ずりをする。
それなら、我が
「じゃあ、よろしくね!」
と肩辺りを撫でて上げると、〝こちらこそ〟と言うように「モォ~」と鳴いた。
なんだか、凄く落ち着いた雰囲気の牛さんだ。
わたしが牛さんの首を撫でていると、羊飼いさんがニコニコしながら言う。
「ただ、注意点が一つあるんだ。
君の場合は無さそうだけど、例えば乱暴に扱ったり、締めて肉にしようとすると、消えて無くなっちゃうんだ。
そうなると、絶対に見つからないから気をつけてね」
「え?
そうなの?
そんなつもりはないから大丈夫だけど、変わった子だね」
まあ、ここは異世界――そういう牛がいても不思議じゃないかな?
なんて考えていると、羊飼いさんがわたしの側で匂いを嗅ぐように、鼻を動かした。
「君……。
蜂蜜酒を飲んでいるのかい?」
「え?
ううん、飲まないよ。
ただ、ママの為に作って上げたりはしてるけどね」
とはいえ、蜂蜜酒を作ったのは昨日だ。
よく、そんな匂いを嗅ぎつけられたなぁ~
あ、服に匂いが付いているのかな?
セーラー服っぽいこの服は、毎日は洗ってない。
一応、腕を鼻に近づけてみる。
う~ん、そんな匂いなんてしないけどなぁ~
なんて考えていると、羊飼いさんは「う~ん」とか言いつつ、何か言いたげにする。
蜂蜜酒が飲みたいのかな?
「蜂蜜酒、あげ――」ようか? という言葉に食らいつくように「良いのかい!?」と顔を近づけてくる。
その目はキラキラ輝いていた。
「う、うん……。
そんなには、無いけど、ね」
わたしは上半身と共に、心も引きつつ、頷く。
この羊飼いさん――我が家の酒飲みと同じ雰囲気がある!
わたしは「まあ、取りあえずここで待ってて!」と言いつつ手を振り、家に向かって駆け始めた。
結界を抜けて、我が国に到着する。
我が家前では、何故か、黄金羊さんと白羊さんが玄関の前に立っていて、その側には荷車が置かれていた。
しかも、その荷車、いつものものでは無かった。
多分羊さんを運ぶ用みたいで、柵と屋根が付けられていた。
荷車というより、家畜運搬車って言った方が正しいかな?
白雪ちゃんから連絡が言ったのだろうと思うけど、用意が半端なく早い!
羊さん用の家畜運搬車、その脇には、物作り妖精のおじいちゃん達が一仕事をしたって顔で満足げにしている。
わたしに気づいた妖精姫ちゃんがこちらに飛んできた。
そして、プリプリ怒りながら、何やら身振り手振りで言っている。
なんとなく、〝迂闊!〟とか〝警戒心が足りない!〟とか言っている感じがするけど、話し声が聞こえないのでよく分からない。
ここまで来る間、白雪ちゃんからもよく分からないことでお説教を受けたけど、そんな風に言われる様な事なんて、してないと思うけどなぁ~
そんなことを考えていると、家の玄関から、龍のジン君を体に巻き付けたイメルダちゃんが出てきた。
側には、近衛兵士妖精の潮ちゃん達が飛んでいる。
イメルダちゃんは少し困惑した感じに訊ねてくる。
「ねえ、妖精ちゃん達がいきなり羊を連れていったんだけど、何かあったの?」
なので、羊飼いさんとの話をする。
イメルダちゃんは少し渋い顔になる。
「羊2匹、しかも黄金の毛の子を含めてだと、牛一頭では釣り合いが取れないと思うんだけど……」
「まあ、そうかもしれないけど。
元々、我が家では持て余してたじゃない」
「そうかもしれないけど……」
と言いつつ、イメルダちゃんは黄金羊さんに視線を向ける。
そして、ため息を付いた。
「そうね、仕方がないわよね」
すると、黄金羊さんがわたしの側まで歩いてくる。
お別れをしに来たのかな?
などと思ったけど違うらしく、何やら「メェ~メェ~!」鳴いている。
なんとなく、〝仕方がないから、わたしの毛を刈らせてやろう〟と言っている感じがした。
わたしが背を撫でながら「いいの?」と訊ねるも、黄金羊さんは〝良い〟と言うように頷いた。
お礼のつもりなのかもしれない。
であれば、断るのは違うと思う。
「ありがとう」と優しく首元を撫でてやると、わたしの方に流し目を送りつつ〝光栄に思え〟と言うように「メェ~」と鳴いた。
黄金羊さんの毛を貰った後、家に入り、ゴロゴロルームを覗いた。
中には、ヴェロニカお母さんと末の妹ちゃんがいた。
可愛らしい末の妹ちゃんはお昼寝中で、ヴェロニカお母さんはそれを見守りつつ、刺繍をしていた。
わたしに気づき、ニッコリ微笑むヴェロニカお母さんを手招きする。
ヴェロニカお母さんは頷くと、静かに立ち上がり、近くにいる妖精メイドのスイレンちゃんに「少しお願いね」と断りを入れた後、こちらに来る。
わたしは、先ほどの起きた話をした後、羊飼いさんに黄金羊さんを返す話をした。
ヴェロニカお母さんは少し目を見開き、顎に手を置き考え込んだ。
そして、わたしに頷いてみせる。
「その方が、
あの羊はかなり特殊な子だから、下手に持っていると面倒ごとに巻き込まれかねないから」
「やっぱり、そうだよね」
「しかし、黄金の羊を何百匹も飼っているその方……」
そこまで言うと、ヴェロニカお母さんは首を横に振った。
「下手に詮索しない方が良さそうね。
サリーちゃんも、
「そうなの?
実はちょっと気になっていたから、黄金羊さんを返す時に、聞いてみようと思ったんだけど……」
わたしが言うと、ヴェロニカお母さんは厳しい表情になる。
「駄目よ、サリーちゃん。
世の中、知らなくて良いことは沢山有るの。
恐らくだけど、その羊飼いの人は〝そういった〟類いの方だと思うわ」
そうかなぁ~
普通に良い人そうだと思ったんだけどなぁ。
だけど、ヴェロニカお母さんはそうは思っていないらしく「絶対に駄目よ!」と念を押してくる。
なので、わたしとしても「うん」と頷くしかなかった。
寝室で眠るシャーロットちゃんを見舞いつつ、妖精メイドのウメちゃんに買ってきたばかりの薬を渡す。
羊夫妻は妖精ちゃん達が家畜運搬車に乗せてくれていた。
わたしに気づいた妖精姫ちゃんが飛んできた。
そして、身振り手振りをする。
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