羊飼いさんとのお話1
そして、目の前まで来たわたしに訊ねる。
「君……。
良くここまでこれたね?」
ん?
ああ……。
確かに、魔獣がいる林に女の子が一人でいれば驚くかな?
「わたし、こう見えて強いんだよ?
狩りもするし」
と応えると、羊飼いさんはおかしそうに笑いながら「そうなのかい?」とか言っている。
余り信じられていないのかもしれない……。
いや、まあ、良いけど……。
それよりも、話さなくてはならないことがあるのだ!
側にいる黄金羊さんを指さしながら訊ねる。
「あのね、もしかして、こういう金色の毛をした羊さん、1匹はぐれてない?」
すると、羊飼いさんは目を丸くしながら頷いた。
「確かに、1匹はぐれてるけど……。
どこにいるのか、知ってるのかい?」
「うん、実はうちにいるの」
そして、黄金羊さんがうちに来たいきさつを話す。
上手く話せたとは思えないけど、羊飼いさんは「うんうん」と相づちを打ちながら、根気よく聞いてくれた。
話し終えると、羊飼いさんは苦笑する。
「気まぐれで、落ち着きのない子ではあったけど、そんなことをやっていたんだね」
気づくと、わたしの周りを取り囲んでいた黄金羊さん達も、苦い顔(推定)をしながら「メェ~メェ~」と言っている。
我が家にいる黄金羊さんはなかなかの問題児のようだ。
「もし、ここで待っててくれたら、連れてくるけど」
「え?
良いのかい?」
「うん、やっぱり仲間といた方が良いと思うし。
あ、ただ、
あれだけ仲の良い羊さんを別れさせるのは可哀想だ。
ただ、この羊飼いさんが連れている羊さんは黄金の毛をした子しかいない。
町の牧場主さんみたいに、ひょっとしたら嫌がるかな? と思って訊ねたんだけど、羊飼いさんは困ったように眉を寄せた。
「いや、あの子が選んだ子なら、僕としても大歓迎なんだけど……。
ただ、申し訳ないんだけど、僕は人間の――しかも、お金など持っていないんだ」
「ん?
ああ、いいよ、お金は」
わたしが手を横に振る。
そもそも、羊さん夫妻が離ればなれになるのが、なんとなく嫌で買い取っただけだし、2匹が幸せになれば、それで良いと思った。
そんなわたしに対して、羊飼いさんは「そうかい?」と言いつつ、呆れた感じに微笑んだ。
そして、何故かチラリと斜め上に視線を向けた。
ん?
わたしもそちらを見たけど、ただ、青空があるだけだった。
「老婆心ながらに言わせて貰うと――」と羊飼いさんの声に視線を戻す。
羊飼いさんは苦い顔で言う。
「そのように、対価無しに物を与える姿勢は余り褒められたものでは無いよ。
特に君のような〝立場〟の者に取ってはね」
ん?
確かに、むやみに物を与えるのは良くないのは分かる。
多分、ママに知られたら怒られそうでもある。
でも、わたしの〝立場〟ってなんだろう?
そのことを訊ねたかったけど、羊飼いさんは話を進める。
「僕としては君から無償で何かを得るのは〝避けたい〟所だ。
そうだな……。
君は山羊乳の代わりが欲しかったんだったよね」
「ん?
うん、そう」
わたしが頷くと、羊飼いさんは「ちょっと待ってて」と後ろを振り向き、黄金羊さん達の中を歩いて行った。
どうしたんだろう?
そんなことを考えていると、周りにいた黄金羊さん達がわたしの側に近寄ってくる。
そして、〝撫でて!〟という用に腰や背中に頬ずりをしてくる。
家にいる黄金羊さんとは違い、人なつっこい子達だ。
「よしよし!
これで良い?」
と柔らかな毛に埋もれた背中や首筋を順に撫でて上げると、気持ちよさそうに「メェ~!」と言っている。
可愛い!
そんなことをやっていると、上空でバタバタという音が聞こえてきた。
視線を向けると、黒い何かが飛んでいるのが見える。
身長は二メートルよりいくらか大きそうだ。
巨大なコウモリの羽根を持ち、顔や体は蟻っぽい、見たことのない生き物だ。
足は四本……いや、手と足って感じかな?
それぞれの先には鉤爪といっても良いほど鋭い爪の生えた指(?)が付いていた。
魔獣? かな?
ひょっとして、黄金羊さん達を狙ってる!?
ただ、体を強ばらせたわたしに、側にいる黄金羊さんが〝問題ないわよ〟という様に「メェ~!」と鳴いた。
他の黄金羊さんも同じく、怯えた様子もない。
角が小さいから、雌なのかな? 一番、年配そうな黄金羊さんが「メェ~メェ~!」言いながら首を振る。
え?
知り合いなの?
え?
違う?
仲間?
そうなんだ!
飛び回る、そのコウモリ羽根の彼(?)はわたしに一瞥した物の、気にせず、黄金羊さん達の上空を飛んでいる。
時々、離れそうになる黄金羊さんを列に戻るように促しているようにも見えた。
牧羊犬みたいなことをやっているのかな?
そんなことを考えていると、コウモリ羽根の彼が飛んできた。
そして、わたしの側に着地する。
風がブワリと吹き上がり、スカートがまくり上がりそうなのを慌てて押さえた。
まあ、中にはスパッツっぽいのを履いて入るけど、一応ね。
地面に立った蟻顔の彼は、顎をカチカチ鳴らしつつ、わたしを見ている。
そして、屈むように上半身を降ろすと、頭をこちらに向けてきた?
え?
何?
困惑していると、頭をわたしに擦りつけてくる。
撫でろって事かな?
黒い頭を優しく撫でて上げる。
さわり心地は、堅くて、冷たいけど、金属っぽくない。
不思議な感触がした。
コウモリ羽根の彼は気持ちよいのか、嬉しそうな雰囲気で顎をカチカチ鳴らせている。
見た目はあれだけど、可愛らしい!
そんなことをやっていると、「これは珍しい」と言う声が聞こえてきた。
視線を向けると、羊飼いさんが目を丸くしていた。
「その子は気難しい子で、僕以外にはなかなか懐かないんだけど……。
君のことは気に入ったみたいだね」
そういいつつ、羊飼いさんは嬉しそうに微笑んだ。
羊飼いさんの大事な家族なのかもしれない。
わたしでいうケルちゃんかな?
あ、そうだ!
「この子を町に入れる場合は、気をつけて!
従魔登録が必要だから」
そういいつつ、コウモリ羽根の彼の――その首に視線を向ける。
首には何も付けられていない、つまり、登録はしてないと言うことだ。
一応、その辺りの説明をして上げると、「知らなかった、ありがとう」と羊飼いさんはにこやかにお礼を言ってくれた。
そして、「あと、羊たちを購入したお金の穴埋めだけど――」と自分の後ろに手を伸ばす。
そこには、牛さんが立っていた。
前世では実際の牛さんを見たことは無いけど、資料や画面越しに見ていた牛さんより一回り小さく見えた。
頭の方が白い毛で、体の部分は薄茶色の毛をしていた。
ちらりと大きな乳房が見えたので、どうやら雌のようだった。
羊飼いさんが話を続ける。
「この子でどうだろうか?
常に乳が取れる子だから、君の家で飼うにはちょうど良いんじゃないかな?」
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