第57話 アニマルバトル
俺のことなど構わなくていいので、二人にはボイトレに集中してほしい。つーか、なんで麗奈さんも俺に触れるんだ。そんなに彼氏さんとやらに俺の声は似てるのだろうか。
「綾奈ちゃん、ツンツンしてるように見えて年下には優しいから、あんまり怯えなくていいよ」
「そうなんですね。ってか、綾奈が麗奈さんの本名なんですか?」
「あ、バラしちゃった。こういう場では名義で呼び合うべきなんだけど、つい本名で呼んじゃうんだよね」
「普段は仲がいいから……?」
「たぶん、そうなんだろうね――いやいや、私と綾奈ちゃんは全然仲良くないよ!」
慌てたように否定するスノウちゃん。
なんだろう、普段は犬猿の仲だったりするのか。
でも実はお互いを認め合っているような?
人気VTuberと人気歌い手がそういう関係だったとしたら、尊いと思うオタクも多いだろうな。
「余計な話してんじゃないわよ、吹雪」
こちらに麗奈さんこと綾奈さんが戻ってきた。
大きな胸の下で腕を組みながら、スノウちゃんを睨む。
「綾奈ちゃんこそ、琉衣くんの声がどうとか余計な話してたくせに……というか、私の名前!」
「あんたが先にバラしたんだし、おあいこ」
「ああもう! いい琉衣くん? くれぐれもネットで私たちの名前をバラしたりしないでね?」
「分かってます。そこらへんの事情は色々と大変だろうと思ってますので」
中の人の素性をネットで晒すなんて俺はしない。
そんなことをする理由もないしな。
もうレッスンは終わったのか、唯菜と白亜はやり遂げたような満足感のある表情で席についた。綾奈さんはスノウちゃんこと吹雪さんの隣に腰掛ける。そして本日の成果を話した。
「二人の歌唱力についてだけど、まあ良かったんじゃない? 私が教えることも大してなかったし、やりたいようにやれば百万再生ぐらいはいけるでしょ」
「百万再生って普通に歌ったらいけるようなものなの? 綾奈さんレベルの歌い手だけの話じゃなくて?」
唯菜も普通に綾奈さんと本名で呼んでいた。
まあ、もともと唯菜は彼女の本名を知っていてもおかしくない。名義で呼んでいたのは俺がいるからなのかもしれないし。
「実力と知名度が備わってる歌い手なら、それくらいはね」
「綾奈ちゃんは動画出すたびにミリオン余裕だもんね。広告収入もたくさんありそうで羨ましいなぁ?」
吹雪さんが少し嫌味を込めて綾奈さんに絡む。
やっぱり二人は険悪な一面もあるのか、綾奈さんも見下したように吹雪さんに向けて溜め息を吐いた。
「そうね、あんたの猫かぶったムカつく歌ってみた動画の何倍も再生数あるし、そりゃ収入もたくさんよ」
「うわ、聞いた皆? この嫌な女のディスりと収入自慢を」
「あはは……吹雪ちゃんと綾奈さんって、仲悪かったり?」
ギスギス感が漂ってきた中で唯菜が口を挟む。
吹雪さんと綾奈さんは、ふんと鼻を鳴らしお互いを見ないよう目を逸らした。
「こいつとは馬が合わないというか、ライバルというか」
「綾奈ちゃんは大好きだった男の子を私に取られた負け犬なの。敗北わんわんだから、よく私に噛み付いてくるんだよ」
「この性悪女……私が負け犬だったら、あんたは泥棒猫でしょ。あとで人のものは盗まないよう躾けてあげるわ」
「わー怖いなー。白亜ちゃん助けてー」
綾奈さんのキツい目で射抜かれた吹雪さんは白亜に助けを求めたものの、とうの白亜は二人の小突き合いを気にせず持参のお菓子を食べていた。ほんと白亜って度胸あるよな。
吹雪さんにもたれかかられた白亜は、クッキーをぽりぽり齧って言う。
「スノウって猫かぶってたの?」
「いやいや、かぶってないからね? 綾奈ちゃんの言うことは信じちゃダメだよ」
「そうなんだ」
「そうそう。私はいつもありのままだよ」
「どの口でそう言ってんだか……いっそ尊敬するわ」
呆れた様子の綾奈さんである。たぶん猫かぶってんだろうなぁ吹雪さん。似たような女子がちょうど俺の隣にいるし。
「どうして私を見るのかな琉衣くん。もしかしてウルトラ美少女の唯菜ちゃんが可愛いなって再認識したり? やだぁ、皆がいる前で意識しないでよぉ」
「はあぁ~~~……」
「かなり本気の溜め息!?」
「唯菜とスノウって猫かぶり仲間なの?」
「白亜ちゃんまで何言ってるの!?」
無垢な同期にまでイジられて涙目になる唯菜だった。
ゲーム配信中のVTuberとマルチプレイした後日、クラスで人気者の美少女に絡まれた 夜見真音 @yomi_mane
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