第19話 嫌いなわけでは

「失礼します……」

 扉を開けて中に入ると、そこには前と変わらぬ光景が広がっていた。

 ジジジッ

 シュミットが熱心に何かを溶接している。相変わらずすごい集中力だなぁと思いつつ、彼女の背中に声をかけた。

「あのぉ……」

「…………」

 反応がない。どうやら、聞こえてなかったようだ。

 もう一度、今度は大きな声で話しかけてみた。

「すみません!」

「あぁん? 何だァ?」

 ようやくこちらに気づいたようだ。

「えっと、ベルさんいますかね?」

「てめぇ、生きてたのか?」

 私の質問に答えることなく、自分の質問をぶつけてくる。

「えっ……まぁ、はい……」

 その態度に戸惑いつつも、私は何とか返答した。

「チッ……」

 彼女は舌打ちすると、再び作業へと戻る。

 なんだろう……すごく感じが悪い。というか、私嫌われてる? いや、まあ装備をボロボロにしたし、しょうがないのかな……。

 とにかく今はベルさんを探すのを優先しよう。

 私は彼女を諦め、その場を離れようとした。

 そのとき、彼女がポツリと呟いた。

「おい、ベルフなら奥にいるぞ」

 その言葉を聞いて驚く。まさか彼女から教えてくれるなんて……。

 彼女は不機嫌そうな表情のまま、作業を続けていた。私に教えるのが嫌だったわけじゃないのだろうか? 

 私は彼女に感謝しつつ、言われた通り奥の第二武器庫へと向かうことにした。第二武器庫の前まで来て、指紋認証をする。

 そして、ゆっくりと扉を開けた。

 ガチャ ギィイ

「ベルさん……?」

「ん? アスティ。支部長との話は終わったのかな?」

 そこには地面に座り、自分の盾の整備をしているベルさんがいた。

「はい、終わりました。それで、あの……実は私、リーダーになったんです」

「リーダー? それは良かったじゃないか」

 彼女は手を止め、優しく微笑む。

 私はそれに苦笑いで返すしかなかった。

「いえ……それが……その……全然良くなくて……むしろ悪いと言いますか……大変といいますか……最悪です」

「どういうことだい?」

 彼女は不思議そうに首を傾げる。

「その……私、リーダーが何なのかわかってないんですよ」

「ああ、なるほど」

 私の告白に彼女は納得したように相槌を打った。

「それで……リーダーって何をするんでしょう?」

 私がそう尋ねると、彼女は少し考えてから口を開く。

「リーダーの仕事は、メンバーに指示を出すことだね」

「……それだけですか?」

 思っていたよりも簡単な仕事に拍子抜けしてしまう。

「うん、それだけだと思うよ。ペチュニアもそれくらいしかしていなかったし」

 ベルさんは平然と答える。

 リーダーって言うくらいだから、もっと大変な仕事を想像していたんだけどな……。これならなんとかなりそうだ。

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エフェメラル=ホープ 〜少女は希望を前に想いを散らす〜@休載 司原れもね @lemo_tsuka

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