第7話「話したいことがたくさんあるんだ」最終話
目を開けたとき、視界には木々が飛び込んできた。
森……いやそれにしては周りが騒々しい。
「ここは……?」
「母さんが言ってた公園って場所じゃないかな。
向こうに明かりが見えるよ、行ってみよう」
乗り物を木々の中に隠し、周囲を観察する。
木々の合間を抜けると、眩しいほどの光が飛び込んできた。
空に届きそうな大きな四角い箱……ビルって言ったか、馬車の代わりに走る四角い乗り物、皆が手に本のような薄っぺらい物を持ち独り言を話している。
アビーが作った街灯より、明るい光が無数にある。
見たこともない奇天烈な服を着た人たちが、何かに追われるように早足で歩いている。
街道に出たらしい。
「これがリコの住んでいる世界……?」
しかし人が多い。
村の祭りにだってこんなに人が集まったりしないぞ。
リコの住んでいる街の名前を聞いておくべきだった。
日本……としか聞いてない。
こんなにたくさんの人の中からリコを見つけるのは、砂漠に落ちた針を探すようなもの。
いや……だが諦める訳にはいかない。
アビーの為にも、この中から絶対にリコを見つけなくては!
「父さん!
母さんを見つけたよ!」
アビーが俺の服を引っ張る。
「えっ? もう?!」
こんなに早く見つかると思っていなかったから、まだ心の準備が出来てないのだが。
息子の手を引かれ、連れて行かれた先に……懐かしい顔があった。
サラサラと流れる烏の濡れ羽色の髪、黒檀のような瞳、年よりも幼く見える顔、小柄で華奢な体。
四年経過しても全然変わっていない。
「リコ……」
「母さん……!」
リコの瞳が驚きに見開かれる。
突然見知らぬ親子が目の前に現れてそんなことを言われたら……誰だって困惑する。
「あの、ごめん。
初対面でこんなこと言われても面食らうと思いますが……俺たちはその決してあやしいものでは……!」
俺たちの世界服はリコがいる世界でも何百年か前の異国で着られていた服に似ているらしいから……そんなに辺ということもない……と思いたい。
「……バカ」
「えっ?」
「初めましてじゃないでしょう?
何年一緒に暮らしたと思ってるのよ」
リコがすねたような口調で言う。
「リコ……記憶があるのか?
神に記憶を消されたんじゃ?」
「ああ、あたしを勝手に日本に連れ帰った自称神様ね!
あたしの記憶を消そうとするから、顔を引っ掻いて腕に思いっきり噛みついてやったわ!
そしたら彼、逃げるように姿を消したのよ!
全く逃げる前に私をコルトとアビーのいた世界に返しなさいっての!」
リコは眉間にシワを作りプリプリと怒っていた。
リコの記憶は神に消されてなかった?
「良かった……!
本当に良かった……!」
「ちょっと、コルトなんで泣いてるの……!?」
「母さ〜〜ん!」
「アビー大きくなったわね!
成長しても泣き虫のままね」
アビーがリコに抱きついた。
アビーはリコが消えた日に一度泣いただけで、それから一度も泣いていない。
そのアビーがリコに抱きつき声を上げて泣いている。
「ねぇ、どうやってこっちの世界に来たの?
自称神様を捕まえて締め上げたとか?
それとも城に攻め込んで王家の秘術を盗んだの?」
「どっちも違うよ」
王家の秘術の書かれた本はアビーの眷属がこっそり持ち出してくれた。
読み終わったあとはちゃんと返したので泥棒ではない……はず。
「とりあえず寒いからどっかのお店に入ろうよ。
あ、ちょうどハンバーガーショップがある」
ハンバーガーショップ?
以前彼女が行きたいと言っていたお店のことだろうか?
「お月見が近いから期間限定ハンバーガーが食べられるかも!?
奢ってあげるわ!
温かいコーヒーとポテト付きでね」
そう言って彼女はウィンクした。
「ありがとう」
俺もアビーも君に話したいことがたくさんあるんだ。
――終わり――
もしよければ★から評価してもらえると嬉しいです!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「彼女を愛することはない〜王太子に婚約破棄された私の嫁ぎ先は呪われた王兄殿下が暮らす北の森でした」こちらもよろしくお願いします!!
「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」完結 まほりろ @tukumosawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます