第6話「たとえ彼女の記憶の中に俺がいなくても」
二年前、幸せに暮らしていた俺たちの前に突如「神」を名乗る人物が現れた。
神と名乗る男は、
「一生大切に扱うっていうから王族に聖女召喚を許可したのに。
こんな山奥のボロ小屋に捨て置くとはね。
かわいそうに、そこの男にむりやり手籠にされ、子供を産まされたんだね」
「ちょっと!
神様だかなんだか知らないけど、勝手なこと言わないでよ!
あたしはコルトの事もアビーのことも大好きなんだから!!
彼らはあたしのかけがえのない存在なの!
家族なの!
あたしは一生ここで……」
「大丈夫だよ、私が元の世界に戻してあげるからね。
ここでの忌まわしい記憶を消してね」
男はリコの言葉を遮り、リコの肩を掴むと……次の瞬間には姿を消していた。
「父さん、母さんにとって僕たちっていらない存在だったのかな……」
リコが消えたあと、当時三歳だったアビーは瞳に涙をいっぱいためてそう尋ねてきた。
「そんなわけあるか!
母さんが最後に言った言葉を聞いてなかったのか?
リコは俺たちのことが大好きだ、かけがえのない存在だ、家族だって言ってただろ!」
☆
あれからアビーはとりつかれたように、時限を越える乗り物を作っている。
「そのためには適度な休息と美味しい食事も必要だぜ。
チーズと干し肉を買って来たから上で食べよう」
「うん」
飛行機の番を雷竜に任せ、俺たちは階段を上がった。
「ねぇ、父さん。
もしもだよ、母さんが記憶を失ってて、僕たちと再会しても何も思い出さなかったら……」
「そんなもしもの心配しても仕方ねぇよ。
そんときはリコが俺たちのことを思い出すまで、向こうに住みついてやる」
「うん、そうだよね。
絶対に母さんに思い出してもらおう!
でも、父さん向こうの世界でできる仕事あるかな?」
「心配すんな。
リコが言ってたんだ。
『あなたの木彫りの置物良く出来てるわね!日本でも高く売れそうだわ!』ってな。
だから向こうの世界に行っても父さんはやっていける!」
「それって、母さんが父さんに気を使っていったお世辞なんじゃ……」
「ゴフッ……」
飲んでたスープが吹き出しそうになった。
まだ幼いのに痛いところをついてくる。
☆
季節が二回巡った頃、アビーが時限を超える乗り物を完成させた。
リコがいなくなってから四年が経過していた。
アビーには「絶対にリコに俺たちの事を思い出させる」と言ったが、本当は不安が八割以上を占めている。
俺たちと再会してもリコが何も思い出さなかったら、リコが他の男と結婚していたら……嫌な考えが脳裏をよぎる。
それでも俺はリコを諦められない。
「行こう、父さん」
息子が俺の手を引っ張った。
アビーに不安を悟られるわけにはいかない。
「ああ行こう。
帰ってくるときは三人だ」
時限を超える乗り物に乗り込むと、アビーがスイッチを入れる。
眩しいくらいの光に包まれ、俺たちは別の世界にいた。
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