第6話「たとえ彼女の記憶の中に俺がいなくても」




二年前、幸せに暮らしていた俺たちの前に突如「神」を名乗る人物が現れた。


神と名乗る男は、

「一生大切に扱うっていうから王族に聖女召喚を許可したのに。

 こんな山奥のボロ小屋に捨て置くとはね。

 かわいそうに、そこの男にむりやり手籠にされ、子供を産まされたんだね」


「ちょっと!

 神様だかなんだか知らないけど、勝手なこと言わないでよ!

 あたしはコルトの事もアビーのことも大好きなんだから!!

 彼らはあたしのかけがえのない存在なの!

 家族なの!

 あたしは一生ここで……」


「大丈夫だよ、私が元の世界に戻してあげるからね。

 ここでの忌まわしい記憶を消してね」


男はリコの言葉を遮り、リコの肩を掴むと……次の瞬間には姿を消していた。


「父さん、母さんにとって僕たちっていらない存在だったのかな……」


リコが消えたあと、当時三歳だったアビーは瞳に涙をいっぱいためてそう尋ねてきた。


「そんなわけあるか!

 母さんが最後に言った言葉を聞いてなかったのか?

 リコは俺たちのことが大好きだ、かけがえのない存在だ、家族だって言ってただろ!」






あれからアビーはとりつかれたように、時限を越える乗り物を作っている。


「そのためには適度な休息と美味しい食事も必要だぜ。

 チーズと干し肉を買って来たから上で食べよう」


「うん」


飛行機の番を雷竜に任せ、俺たちは階段を上がった。


「ねぇ、父さん。

 もしもだよ、母さんが記憶を失ってて、僕たちと再会しても何も思い出さなかったら……」


「そんなもしもの心配しても仕方ねぇよ。

 そんときはリコが俺たちのことを思い出すまで、向こうに住みついてやる」


「うん、そうだよね。

 絶対に母さんに思い出してもらおう!

 でも、父さん向こうの世界でできる仕事あるかな?」


「心配すんな。

 リコが言ってたんだ。

『あなたの木彫りの置物良く出来てるわね!日本でも高く売れそうだわ!』ってな。

 だから向こうの世界に行っても父さんはやっていける!」


「それって、母さんが父さんに気を使っていったお世辞なんじゃ……」


「ゴフッ……」


飲んでたスープが吹き出しそうになった。


まだ幼いのに痛いところをついてくる。






季節が二回巡った頃、アビーが時限を超える乗り物を完成させた。


リコがいなくなってから四年が経過していた。


アビーには「絶対にリコに俺たちの事を思い出させる」と言ったが、本当は不安が八割以上を占めている。


俺たちと再会してもリコが何も思い出さなかったら、リコが他の男と結婚していたら……嫌な考えが脳裏をよぎる。


それでも俺はリコを諦められない。


「行こう、父さん」


息子が俺の手を引っ張った。


アビーに不安を悟られるわけにはいかない。


「ああ行こう。

 帰ってくるときは三人だ」


時限を超える乗り物に乗り込むと、アビーがスイッチを入れる。


眩しいくらいの光に包まれ、俺たちは別の世界にいた。



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