第6話 エンディング
それからしばらく経って、友人から彼女が亡くなったと連絡を受けた。その連絡が来たとき、私はすごく驚いた。そして、ああやっぱりかとも思った。
葬式で彼女と再会した時、私は安心した。
これでやっと終われるんだと。
私は彼女の顔を見て笑った。
彼女は舌を出して笑っていた。
「バレちゃったね」
何も言わなかったけど、私には彼女がそう言ってるように思えた。
その夜、夢を見た。
テーブルの上には大きな皿が乗っている。
私はおなかが減っている。
フォークとナイフを手にしながらちょうだいちょうだいと私は喚く。
料理が出てきた。新鮮なお肉だった。
誰かが言った。
「それは貴女の愛した人の肉ですよ」
私は迷わず噛み砕きのみこんだ。
大きな皿の上には、彼女の頭が乗っていた。
私は怖かった。彼女を、自分を。
私たちはひとつになりたかった。だから怖かった。
どちらかがどちらかを食べてしまう結末が怖かったの。
だから私は彼女と離れた。
彼女を見ていると、時々感じていたの。
彼女の柔らかな胸に爪を立てたい。赤い舌を吸って、絡めて、味わいたい。
もっと近くにいきたい。もっと近く、深くに、触れて沈めて刻みたい。
ああ、なんて愛しくて愛らしくて美味しそうなんだろう。って。
好きになることは悪いことですか?
好きを表現する方法をこんなことしか持っていない私たちは悪ですか?
これは私たちの世界なんです。私たちだけの世界なんです。
私は、彼女を愛している。
食べちゃいたいくらいに。食べられてしまいたいくらいに。
好きで好きで、愛しているから、ひとつになりたい。
この感情は、間違いなんですか?
恋に溺れたっていいじゃない。二人で溺れられるなら。
私の中には彼女がいる。世界で一番愛する彼女が。
愛って貪欲なの。それは空腹に似ている。だから埋めたい。おなかいっぱいになりたい。
だから食べるの。愛する人の愛ごと、ぺろりと食べてしまうの。ほら。これで満たされた。
小説のラストはこうだった。二人は生まれ変わって今度は一人の人間として自分を、相手を愛そうと約束する。今度こそ離れないと、手を繋ぐ。
愛し合った二人は海に沈んで心中した。
こんな、ラストだった。
夢の中の私はナイフとフォークを置いて彼女にこう囁いた。
「さようなら」
初めてのキスは、血の味がした。
どんなに王子様がキスをしても、お姫様はもう目を開くことはなかった。
「ごちそうさま、愛しい貴女」
「i」の中には 犬屋小烏本部 @inuya
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