Ⅶ. むげんの懺悔
「わたしも彼に、何かを与えたかった……」
彼女は弱々しくそう呟いて、虚ろな瞳を濡らした。濡れた瞳は徐々に重い瞼に隠されてゆく。もう、齢が百を超えた彼女にとっては、声を出すだけで眠りが必要になるほど体力を使ってしまうのだろう。
女生徒は握っていた彼女の手を柔く撫でて、元の位置に戻してあげながらいつものように彼女を慰めた。
「……先生。でも、あなたも与えていたはずです。——彼に読み書きをお教えになったこと。きっと彼は先生からその教えを受け、先生と同じようにお思いになっていたことでしょう。〝あなたの名を一番に覚えて書き記したいほど嬉しい。愛おしい〟と」
女生徒は「明日は小中等部の子らが、先生のもとにお歌を届けに参るそうです。楽しみになさっていてくださいね」と彼女の耳元でゆっくり囁くと、鼻を啜りながら病室を後にした。
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