君の手に触れた時。
依田総
プロローグ
「好き。って、今は言いたくない…。」
激しい雨の音に消されるような声で、今にも泣き出しそうな君が呟く。
時折、窓から見えた夜の景色が、どこか切なくて、悲しくて。
もしも、明日、地球が滅亡しても、今だけは永遠のように感じるくらい僕と君の瞳が見つめ合っていた。
キスをしようと、シャンプーの香りに導かれて、自然に閉じた僕の瞼と反射的にそっぽを向いた君の仕草に一瞬だけ時が止まる。
困惑した沈黙の思考に、降り続く雨がそれを否定していた。
濡れた肩まで伸びた髪を撫でることしかできなくて、君の震えた唇と零れた涙が、もう後戻りができないことを、頭の悪い僕に教えてくれる。
「好きだよ…。」
雨音だけが頼りの静寂に包まれた暗闇の中で、君には聞こえてただろうか。
答えが返って来ないことに、苦しさと後悔が混じる感情。
そんな思いを消したくて、ごめんね。と強引だったかな。
君との初めてのキスは、少しだけ唇に触れ、もう一度だけ。と二回した。
遅れてきたエアコンの生温い風に当たらないように包まれた毛布に二人。
辺りに散らかされた二つの白いバスローブ。
恥ずかしい。と消された照明器具たち。
窓から入る街灯の光だけを頼りに、手探りで君を求めていた。
言葉にできない不安に襲われる度、何も見えない世界で、二人の身体は何度も重なった。
君の手に触れた時。 依田総 @yodasou
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