第4話 小鳥で羞恥

「しばらくうちで世話する事になったピィさんです」

鬼怒川が鳥かごを丸いちゃぶ台に置くと、竜児は目を輝かせた。

「しばらくっていつまで?!」

ちゃぶ台に体を載せるようにして、小鳥と目線を合わせる。名前の通りピィピィと、小鳥は鳴いた。

「ピィちゃんっての?」

「ピィさんです」

「なんでさん付けるんだよ。ピィちゃんでいいだろ?」

「……坊ちゃんはちゃんで大丈夫です」

「よし!」

満点な笑顔を向け、楽しそうに餌入れに餌を、水入れに水を入れだした。

ここの所竜児の表情が曇りがちな事に鬼怒川は気付いていた。そんな時に動物が出てくるテレビを見ながら実家で飼っていた犬の名を呼ぶのを聞き、手頃な動物を手配した次第だ。

犬だと散歩の手間がある。室内飼いにするにはこのアパートは狭すぎる。それ故に選んだのがこの鳥だ。

嬉しそうな竜児の顔に、思わず鬼の鬼怒川の顔も緩む。

「いつまでいるの?ピィちゃん」

「あー……坊が気に入るならずっとここに置いても」

「ダメだよ。誰かに飼われてたんだろ?その人が帰ってきたら返してあげないと」

「……坊も……」

鳥籠に竜児が手を入れると、ちょんと指に飛び乗る。キョロキョロと見回す鳥を見つめる瞳は慈愛に満ちていた。

同じように親父に愛されていた坊を連れ出したのは本当に良い事だったのか。

「え?何か言った?」

「いいえ。ああ、そろそろピィさん籠に戻して貰えます?」

「え?もう?なんで?」

「今日は抱きたくなりました」

「──!なっ、なんっ……」

狼狽える竜児から鳥を受け取ると、鳥かごの扉を閉めた。不満そうにピィと鳴くがそんなもの鬼怒川はどうでも良い。

今は目の前の何も知らない男が、今からどんな声で鳴くのかしか興味が無い。

「いつもはそっちからくるくせに」

「いつもと違うことされたらビビるだろうが!」

「ええからはよ脱げや」

鋭い目線での命令に、ボタンに手をかけた。しかしひとつ目のボタンを外したところで動きが止まる。

「どうしました?」

「……ピィちゃんが見てる」

「……見られながらは恥ずかしい?それとも興奮します?」

「しねーよ!」

「んー……じゃあちょっと、今だけはピィさんこっちにいてもらいましょうか」

そういうと鬼怒川は鳥かごを移動させ、その上から脱いだばかりのジャケットで目隠しをした。

「こんでええやろ」

竜児が小さく頷いたのを合図に、2人の影は重なっていった。

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坊ちゃんを見守る鬼怒川さん 花田トギ @hanadatogitogi

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