異聞 桃太郎
十余一
異聞 桃太郎
昔々のその昔、
当時の人々はその険しい山林と平らかな海に挟まれた僅かばかりの台地に、細々と暮らしていた。
事の始まりは水辺に流れ着いた一
いったい何処から来たのか、証跡足りえる物の一切を欠いている。ただ、赤子のスッと通った鼻筋と意志の強い目がただならぬ雰囲気を漂わせていた。
赤子を拾った男もまた、海から流れ着いた者だった。燃えるような赤い髪に虎狼のごとき鋭い眼光を携えたその男の名は
身の丈六尺三寸の大男に抱かれた小さな赤子は泣くこともせず、無邪気に笑っていた。
温羅からもたらされた様々な技術によって吉備国は大いに発展することとなる。
一帯の山脈から取れる砂鉄が精錬され上質な鉄が量産された。鉄製の農具で山林を切り開き、氾濫を繰り返す暴れ川には数万という矢板を打ち込み流れを制する。また武具も鋳造され軍事力も格段に増した。
そうして受け入れられた異国の一団が、吉備国の民と縁を結ぶのにもさほど時間はかからなかった。温羅は当地の神職の娘である
宿禰は轟々と火を噴く炉が、賑やかな
繁栄を極めた吉備国は、まさしく楽土であった。
しかしその安寧も長くは続かない。強大な力を持ってしまった吉備国を驚異に思った大和政権は、
両軍は吉備の穴海の畔で、入江を挟み相対する。
指揮を執るのは第一の皇子
そして立ちはだかるのは海を渡り来た皇子。その顔はまるで鏡に写したようだった。凶兆として存在を
こうして隆盛を誇った吉備国は平定され、温羅は悪逆非道の鬼として後世に伝えられる。後に桃太郎として語られることになる五十狭芹彦命は、勝利と共に自分と瓜二つの首を掲げ帰った。
異聞 桃太郎 十余一 @0hm1t0y01
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