14話 大きな? 一歩
14話 大きな? 一歩
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーー
ゆり:
ひまわり、わたしさくらちゃんと話がしたい。
ーーーーー
送った、送っちゃった。
ひまわりに、さくらちゃんと話がしたいって。
……
やば、今更手が震えて来た。
まだひまわりに言っただけなのに、すでにちょっと後悔し始めてる。
やっぱり取り消しとかなしかな?
今ならまだ後戻りできたりする?
いや、何言ってるのわたし。
今自分で決めたばっかりだって言うのに、それはダメでしょ。
ひまわりやすみれ先輩、さくらちゃんのようになんてむりだけど、せめて前を向いて進もうって。
今決めたばっかりのこともやっぱなしなんて言ってたら、いつまで経っても変われない。
そんなの嫌だし、単純にカッコ悪い。
あ……、既読ついた。
もう後戻りできない。
大丈夫、わたしやれば出来る子だから。
そんな難しいことじゃない。
何も無理難題をこなそうってわけじゃないんだし、単純に昔すれ違っちゃった友達に謝るだけだから。
簡単なこと、誰でもできることだから。
だから、大丈夫。
……うん、大丈夫なはず。
ーーーーー
ひまわり:
ほんと!?
ーーーーー
わっ、もう返信来た。
……この短い文から容易にひまわりの笑顔を容易に想像できてしまう。
これはもう今更やっぱなしとは言えないよね。
いや、まぁ。
決めたことはちゃんと実行するんで問題ないんですけどね。
うん。
……
家帰る前にちょっと走ってこよっかな。
健全なる精神は健全なる体に宿るって言うし、体動かせばわたしのこの不健全な精神もきっと矯正されてくれるはず。
ひまわりに期待させるだけさせて裏切るとか、それ一番やっちゃダメなやつだから。
……、大丈夫。
ーーーーー
ひまわり:
……おねぇちゃん、無理してないよね?
ーーーーー
……
なんか今わたしが葛藤してることすら見抜かれてる気がする。
いや、当然か。
そもそもさくらちゃんと出くわしてそのまま逃げ出した結果の今なわけで。
それ以前に部屋に引きこもってたのをひまわりに外に出してもらってもいるわけだし。
簡単に想像つくよね。
もしかしたらあんまり本気で受け取られてないのかもしれない。
本気? 本当に、本気か?
いや、今は迷っちゃってるけど送った時は本気だったから本気ってことでいいの。
そんなふうに思われてるってこと自体が情けない。
でも、そう思われてるから今なら前言撤回しても許されるんじゃないかなってつい考えてしまう。
今ならまだ逃げられる。
でも、それはちょっとあったかもしれない期待を裏切る行為で、その先にあるのはどこまでも期待を裏切り続ける情けない未来でしかない。
逃げたら結局何も変わらない。
ひまわりもさくらちゃんもわたしのこと心配してた。
こんな情けないわたしのことを。
ひまわりにも、さくらちゃんにもずっと迷惑かけてるんだ。
そんなのって……
だから、
ーーーーー
ゆり:
大丈夫。
だから、お願い。
ーーーーー
せめて、これ以上迷惑をかけないために。
夢に向かって歩んでいる人の邪魔をしないために。
追いつこうなんて思ってない、ただ顔を上げてまっすぐに夢にチャレンジしてる姿を見ていたいなって。
ーーーーー
ひまわり:
……分かった。さくらちゃんに連絡しとくね。
ーーーーー
……
ふぅー
……
ーーーーー
ゆり:
一対一はちょっと、できればひまわりも一緒に居てくれると……
ひまわり:
もちろん、初めからそのつもりだよ
ーーーーー
……情けない。
本当、情けないおねぇちゃんだ。
でも、こんなんでもわたしにとっては大きな一歩だから。
誰に言われたわけでもなく、自分で前を向いて踏み出した一歩だから。
せめてこれからはもう少しまともな、かっこいいとは言わないまでもせめて情けないなんて思われないようなおねぇちゃんでありたいな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「た、ただいまー」
……
帰って来たはいいけど、なんと言うかちょっと気まずい。
ついさっき逃げ出したばっかりだし、こんなすぐ戻ってきてなんかねぇ。
さっき連絡はとったんだけど、それでも直接顔を合わせるのはなんか心がそわそわする。
というか、今更ながらだけど気まずい相手にあったからって逃げ出すとかわたしは子供か?
いや、まだ子供だけども。
子供ではあるけど、もう中学生だしなんならひまわりも中学生になるのに……
わたしって、
はぁ
ほんと、嫌になる。
情けなさすぎる。
ひまわりどこだろ?
普段帰ったらすぐ出てくるのに。
もしかして、あまりに情けないおねぇちゃん過ぎて愛想尽かされちゃった?
考えたくもない。
簡単に想像できてしまうから。
愛想尽かされるには十分すぎるぐらい情けないところを見せてきたと思う。
でも、今更だよね?
逃げ出すなんて情けないけど、もっと情けないとこばっかり見せてきちゃってるし。
今回で最後だから、せめてこれからはもう少しまともにならないと。
恥ずかしいおねぇちゃんなんて嫌だから。
って、ひまわり本当にどこ行った?
部屋かな?
……
あ、配信か。
そっか、そういえば元々今日配信する予定だって言ってたっけ。
配信を確認してみると、開始時間が予定よりかなり遅れてた。
これ、わたしのせいだよね?
わたしがいきなり飛び出したりなんてしたから、それどころじゃなかったんだ。
また迷惑かけちゃってるし……
いや、これからだから。
これからはなるべく迷惑かけないようにって話だから。
これでさらに配信の邪魔するのはありえないし、おとなしく見て待ってよっかな。
普段のひまわりも可愛いけど、Vtuberをしてるひまわりはそれはそれで違った魅力がある。
葵ってキャラを演じているのを見るのはそれはそれで可愛いというか、ちょっとこれは素直な見方じゃないのかもしれないけど。
Vtuberって自分の理想を演じる人も多いって見たけど、ひまわりもそうなのかな?
僕っ子で、アニメ声で、リアルではちょっと浮いちゃいそうな子。
考えてみたけどしっくりこない。
多分、そう言うんじゃないんだろうな。
ひまわりの理想って僕っこでアニメ声でリアルではちょっと浮いちゃいそうなVtuberをするってとこまでが理想なんだろうね。
それがしっくりくる。
理想の自分を演じているわけではなくって、理想の自分が演じているキャラを演じてるんだ。
なんとなく、そう思う。
だって、とっても楽しそうだし。
これは見ていてハマる人の気持ちもよくわかる。
ーチャット
リリー:10,000円
『あ、スーパーチャットありがとう♪』
『って、10,000円!? そんな大金……え? おねぇちゃん!?』
あれ?
なぜバレた?
別に邪魔するつもりではなく、反応してもらいたかったわけでもなく、単に楽しく見させてもらってるから視聴料のつもりでスパチャしただけなんだけど。
って、このアカウントリリーのやつじゃん。
この前配信しながらコメント打てるようにって作ってもらってそのままだった。
これ、結構危ないかもだよね。
今回はひまわりの配信にコメントしただけだから問題ないけど。
意識して気を付けないとだなぁ。
ひまわりがネットでこうやって活動してて、わたしがリリーというキャラで葵の姉として存在してる以上炎上なんかしたら間違いなく引火しちゃう。
迂闊なことはできないよね。
今回のだって、コメ欄の話題がリリーにそれちゃってるし……
今はひまわりのゲーム実況を見る時間でしょうが、勝手にリリーで盛り上がるんじゃありません。
家族ネタは人気だって言ってたけど、ここまでなのか……
本人放置してチャット欄が盛り上がるって相当、でも制御もあんまり効かないのはかなり厄介なのでは?
ひまわりもなんか困ってそうだし、ただわたしが何かしても逆効果でしかないよね。
配信終わったら後でごめんなさいしよう。
『今呼んでもおねぇちゃんは来ないよー、忙しいからね』
『リリーおねぇちゃんとはまた今度コラボ予定してるから、それまではお預け♪』
あ、またあるんだ。
って、これだけ家族ネタ人気ならそれはそっか。
迷惑かけてばっかりだからね、少しでも役に立ててるなら嬉しいな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
配信終わったー、今日も面白かった。
やっぱひまわりは天才だね。
これは誰もが知る大人気Vtuberになる日も近い、間違いない。
配信終わったし、もういいよね?
さくらちゃんのことひまわりと話したいし、なによりひまわりに直接会いたい。
葵の配信見るの楽しいんだけど、声聞いてるせいでひまわりに直接会いたくなっちゃうのが難点だよね。
登校中アーカイブとか見てると家に帰りたくなる。
まぁ、ひまわりも学校だから家に帰っても誰もいないんだけど。
というわけで、お邪魔しまーす
「ひまわり、お疲れ〜」
「はぁ……、っておねぇちゃんびっくりした」
部屋に入るとひまわりがぐでーっと伸びていた。
配信って結構疲れるのかな?
まぁ、お客さんで好きにやらせてもらったわたしと違って色々気にしながらやってるだろうし当然か。
数百人もの人が自分のことを見ている。
それを意識しながら、どう見られてるかを気にしながら配信するのか。
今日すみれ先輩と一緒にギター弾いたのも視線あって結構緊張したのに。
わたしは数百人の視線なんて想像も出来ないけど、ひまわりや他の配信者たちはそれを想像した上で配信してるのかな?
大きな箱を埋めるぐらいの観衆の前、そりゃ疲れるよね。
精神的にも、体力的にも、
「もう、おねぇちゃん。入るときはノックぐらいしてよね」
「ごめんごめん、すぐにでも会いたくって。ひまわりももう中学生だもんね」
「いや、そういう意味じゃないよ!?」
「?? どういうこと?」
「……な、なんでもない」
急に元気になったと思ったらなんでもないとはこれいかに?
まぁ、なんでもないっていうなら深くは追求しないけど。
「今日の配信も面白かったよ」
「本当? 良かった。でも、おねぇちゃんに見られてるって思うとなんかちょっと恥ずかしいかも」
「なんでよ、数百人ぐらい見てたよ?」
「そうなんだけど、なんか他の人に見られてるのとおねぇちゃんに見られてるのは違うっていうか」
「そっか」
そういうもの?
まぁ、確かに知ってる人に見られるのって結構違うか。
わたしもあの黒歴史がもし誰か知り合いに見られたらと思うと……ぶるぶる。
多分バレないと思うけど、バレないとしても想像で身震いが、
「そうだ、スパチャしちゃったけど大丈夫だった?」
「うん、ありがとね」
スーパーチャット、直接わかりやすい形で応援できるのはいい機能だと思うんだけど、これ前後の会話ぶったぎっちゃうのなんとかならないかな。
無視するのも手なんだろうけど、お金もらってるのに無視ってのも気が引けるしね見てる方としても気になっちゃうし。
特に今回みたいに関わりがあるってあからさまに分かる様な相手からのだとねぇ……
まぁ、そこらへんひまわりが考えてないわけないし、わたしが考えても仕方ないことだと思うけど。
仕事にするって意味ではお金ないとダメだし、仕事にしないまでも活動を続けてく上でお金は大切だ。
お金があればやれることの幅が広がるし、やりたくもない仕事に取られる時間もなくせるのだから。
「でも、おねぇちゃんこそお金」
「ふん」
金の心配は無用、これが目に入らぬか!
「通帳はいいから」
「えへへ」
これ全部ひまわりのためのお金だからね。
まぁ、お金あげるだけなら直接あげる方がいいんだけど、ほらサイトによる中抜きとかされないし。
でもさ、普通にお金をあげるのとスパチャはちょっと違うんだよね。
違った良さがあるっていうか、スパチャってコンテンツそのものを楽しんでるっていうかさ。
配信の流れを切っちゃうみたいに言っててあれだけど、その切ること自体がちょっと嬉しかったり?
わたしのために……みたいな?
「……大丈夫そうだね」
「お金なら全然余裕だよ?」
「そうじゃなくって、さくらちゃんのこと」
「……うん」
そうだよね、ずっと心配してくれてたんだもんね。
間取り持っててくれたんだもんね。
わたしが仲直りできるとも限らないのに。
ほんと頭が上がらない……
「私ね、心配だったの」
「……迷惑かけて、ごめんね」
「そうじゃなくって、もしかしてもう帰って来ないんじゃないかって」
「?」
どゆこと?
もう帰ってこないって。
まるでわたしが、
「そんなわけない」
「でも、そういう顔してた」
「そう、かな?」
ひまわりが今にも泣きそうな顔をして、
あ、ほんとにそう思わせちゃったんだなって。
そんなアレで家出なんて……ないとはいえないか。
ひまわりから見たらそれこそそうだ。
でも、行く当てなんてないし。
そもそもひまわりを置いてどこかに行くわけない。
そんなことするわけないし、出来るわけない。
わたしにとってここが帰ってくる場所なんだから。
「あの時と同じ、どこか遠いところに行っちゃうんじゃないかってそんな気がして」
「……」
「あの時と違っておねぇちゃんお金も持ってたから、本当に……」
「心配させてごめん……」
そんなに心配させちゃったのか。
そっか、ごめんね……
きっと、ひまわりから見たわたしってとっても危なっかしいもんね。
突然引きこもったり、家から飛び出してっちゃったり……
そりゃそうか、心配だよね。
ずっとひまわりに頼りっぱなしだ。
「おねぇちゃんのバカ」
ひまわりが抱きついてきた。
頼もしいひまわり、でも体はわたしより小さくて……
ぎゅっと抱きしめる。
わたしの大切なモノ。
そうだよね。
わたしがおねぇちゃんなんだから、しっかりしないと。
「ご、ごめん。突然」
「別に、いつでも甘えてくれていいんだよ。ちょっと頼りないかもだけど」
「もう……」
恥ずかしかったのかすぐに離れられてしまった。
残念。
でも、そんなとこもかわいい。
「あ、そうだ。おねぇちゃん、返事きたよ」
「え?」
「さくらちゃんから」
あ、そうだった。
わたし話すって言ったんだ。
いまから変な汗出るけど、でももう決めたことだから。
わたしおねぇちゃんだから。
「……それで、どうだった?」
「今月末来るって」
「あ、……結構先だね」
ちょっと安心した。
今日あんな急に来たから、てっきり明日とか言われかねないかと。
良かった、心の準備をする暇がある。
いや、決意鈍らない?
大丈夫?
……そこは頑張るしかない。
「もっと早く会いたいけど、一日空けられるのがここなんだって」
「一日……」
え?
そういう感じ?
軽く話して、昔のこと謝ってさようならじゃだめ?
「半端になるのが嫌だからって」
「そっか……、」
大丈夫かな、わたし。
ちょっと怖いんだけど。
半端って何?
もしかして、怒られたりする?
わたしが急に避けたからさ、何言われても自業自得だけども。
さくらちゃんそんな子じゃないって知ってるけど、そういうことではなく。
「その日ひまわりは」
「大丈夫だよ。おねぇちゃんより優先する用事なんてあるはずないでしょ」
「ひまわり!」
かっこいい!!
思わず抱きついちゃった。
さっきの抱きしめたのとは違う、わたしがひまわりの胸に頭を埋める。
こうするととっても安心する。
「さっきまでカッコつけていつでも甘えてって言ってたのに、同一人物とは思えないね」
「ひどい、でも好き」
「よしよし」
なでなで落ち着く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(多分)伝説になるバンドの初ライブ
0回視聴 1分前に投稿
good bad チャット 共有 報告 切り抜き 保存
aあa チャンネル登録
チャンネル登録者数 11人
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
運命に見放された少女 哀上 @429Toni
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。運命に見放された少女の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます