【高槻の手記】イカロスの翼

 名を上げることは、無数の思惑の坩堝に身を投じることに等しい。そこでは、利用され、貶められ、騙され、罵られるのだろう。

 瀬田は言っていた。米原藤吉郎が自分たちを利用していた、と。一発当てようとしていた僕たちは、無意識のうちに誰かにとって都合よく利用される存在になってしまっていたのだ。僕はその時に、この≪名探偵チャンネル≫の行く先が急に不安になってしまった。

 鷺市警察署の署長にお墨付きをもらった。それはチャンネルを成長させるためには良いことだったのかもしれない。では、それがより大きな組織と関わり合うようになったとしたら……? 例えば、反社会勢力に目をつけられるようになってしまったら……?

 僕たちは恐ろしい世界に足を踏み込んでしまったのかもしれない。そして、もう二度と引き返せないところまで来てしまっているかもしれない。そう思うと、これから先どうすればいいのか、途端に怖くなってくる。

 瀬田は言っていた。物事の落としどころが重要なのだ、と。では、このチャンネルの最終的な落としどころはどこにあるのだろうか? 瀬田はそのことを少しでも考えているのだろうか?

 ひたすらにこの街で起こる事件んを解決し続けるというのだろうか。この先の人生をずっと? いつか飽きられて、僕たちは需要のないガラクタになる。

 どんどん突き進んで、でかいヤマを解決したら、パーッとやめてしまうのもいいかもしれない。伝説になって生きるのだ。だが、そのでかいヤマとは?

 うだつの上がらない日々から脱して、僕たちはどこへ行こうとしているのだろうか? そんなことなど、初めは考える暇などなかった。運良く少しは知られるようになって、僕の日々は少しずつ変わった。僕の姿はちょくちょくWeTubeに映ることがある。だから、たまに街で僕に声を掛けてくる人も出てきた。不思議な気持ちだ。有名人になったかのような。それからというもの、僕は常に誰かに見られているような感覚を抱え続けるようになった。

 連続放火事件が解決して、その感覚はより強くなった。警察関係者の自宅が放火されているという事実に、僕は震えた。ベッドで眠って、火の中で目を覚ますという夢を見るようになった。息苦しくて、熱くて……目覚めてみると、ただ毛布にくるまっているだけだ。そして、自分が無呼吸症候群なんだと自覚させられるだけだ。

 高く飛べば、遠くの人にも自分の姿が見える。高ければ高いほど、僕は多くの人に認知されていく。頭上には太陽があって、僕が背負った蝋の翼は溶けてしまう。毛布にくるまっているから熱いのではない。無呼吸症候群だから息苦しいのではない。飛ぶのは時間がかかるが、落ちるのは一瞬だ。

 瀬田にはまだ言えない。鼻で笑われるかもしれないし、今のこの状況を彼は居心地よく思っているかもしれない。それを奪うようなことをするのは、胸が痛い。

 だが、心に刻んでおかねばならない。自分がどこへ向かっているのかを。

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今どきの探偵は縛りプレイで推理配信するもんです 山野エル @shunt13

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