第23話 バトン、つながった

「……そういうものなの?」

「そうよ。自信、持ちなって。いい? 初めてでここまで行くの、凄いことよ」

「段々と、それは分かってきたけど……まだ、自信を持つまでにはなれない。自信を持てるように――書き上げた作品を、『私だけの物語です』って自信を持って言えるように、今は、もっと色々なことを知りたくって、たまらない。

 結局さあ、完全に自分の力だけでなんて、無理なのよね。当たり前のことだけで、それが分かっていなかった。だって、私、色々な人の本を読んで、影響を受けているに決まってるんだもの。悦子さんの影響を一番、受けているだろうし。何もかも、選評を読んで、思い知らされたってところ」

「取り入れられることは全部、入れていいんだよ。それらをどう組み換え、自分の想像、空想を足して、新しい話にするかってのが、問題なんだから」

 津村が言った。励ましの言葉のように。

「にしても、あたしにくらい、話してくれたってよかったんじゃないの。投稿して、いいとこまで行ったって」

 桃代が膨れてみせている。

「だって、桃代は津村君のこと、あんなに悪く言っていたから。小説を書いてみることにしたなんて打ち明けたら、どれだけ冷やかされるかと思っちゃって」

 恵美は舌をちょっと出して、照れ笑い。

「何とも……」

「じゃあ、図書部の先輩に言わなかった理由は?」

 桃代に代わって、今度は津村。

「もし、一年前、私が『小説を書いてみます』って、園田部長に話していたら、どうなったかなあって。直接、聞いてみないと確かなことは言えないけれど、多分、私が頼んだら、小説の書き方、教えてくれたんじゃないかなって。あの頃はまだ、自分の力だけでやってやるって思っていたから。だけど、園田先輩に打ち明けたら、ついつい、頼ってしまうかもしれない。それが恐くて、ね」

「ああ、それで」

 津村と桃代は納得したようにうなずいた。

「その様子なら、もう心配いらないね」

 と、苦笑混じりに津村。

「期待していいよね。僕の知らない物語、聞かせてくれることを」

「ええ。近い内に、きっと」

 言い切ることができた。

「あんたはそれを漫画にする訳か」

 邪魔者の立場にあると気付いたか、冷やかす桃代。

 対して、津村はまじめに返した。

「漫画よりも、8ミリで撮りたいんだよな」

「え、8ミリの方なの?」

「漫画は一人でも描けるけど、撮影はみんなでやる物だから。今の内に一つ、撮っておきたいんだよ。この冬休み辺りが、最後のチャンスじゃないかなって思えてさ」

「脚本の形式なんて、私、知らない」

「縁川さんは普通に書いてくれたらいいの。脚本に直すのは、他の人の役目」

「他人って」

 誰がいるのだろうと聞き返す。

「まさか、津村君……じゃないよね」

「書けないことはないけど、もっと適役がいるはずだぜ」

 秘密めかす津村。

「分かんない。誰?」

「君のお兄さん」

 津村のあっさりとした物言いに、恵美はぽかんとしてしまった。

「――そうか。そうよね」

 自分の声が明るくなるのが分かった。

(これがきっかけで、兄貴が立ち直ってくれたら、言うことない)

「私、頼んでみる。ううん、絶対、引き受けてもらうから」

「頼もしいね。あとは、野上さんに出演してもらって」

「ユキに? あれって、本気だったの?」

 桃代が目を丸くしていた。

「本気も本気。当然、縁川さんの書く内容によるけど、ぜひ、出てほしい。あ、縁川さんと片山さんも、出てくれるよね? 女優にはつてがないもんで」

「わ、私は書くだけで……」

 恵美が怖じ気づく横で、桃代は呆れ顔で、ため息をついた。

「美術部の仕事もお忘れなく。文化祭が終われば、あんたが部長だからねっ」

「そこは何とか、片山さんのお力で……」

「知るか!」

 ここが美術部の展示室だということも忘れ、桃代は大声を出した。静かに見物していた数名が、何事かと振り返る。

(書く気にはなったけど……前途多難かも)

 先行きに不安を感じた恵美。

 けれども、津村達のやり取りを眺めていると、不安はどこへやら、愉快なものに思えてきた。


――『F&Mシリーズ第一弾』終わり

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