閑話 ある絡繰り箱の話 二

 帝都北方の防衛都市から遠く離れた山の地下。

 採掘場さいくつじょうのように迷路を作る洞窟どうくつの最奥はの無い不自然に白い壁で補強ほきょうされていた。

 人がったと思われる洞窟にもかかわらず道を知らぬ者では辿たどく事すら不可能な程に特定の通路を進む必要があるのがこの白い通路だった。


 純白の通路の奥、現代技術とは思えない継ぎ目の無い絡繰からくりが乱立している。


 ハモンの国の地下、白装束しろしょうぞくの死体がいくつも転がる遺跡だ。


 壁の反対側には、そんな椅子の様な台を観察する位置に複数の椅子や絡繰からくりが置かれていた。

 その内の一つが火も無く光っている。硝子玉がらすだまの様な材質の絡繰りは発光しながらも占い師がもちいる水晶玉の様に文字を浮かび上がらせている。


『本施設で製造したナノマシン移植武装、付喪神つくもがみに変化を確認。武装名、罅抜ひびぬきの『個体名ハモンの道具に成りたい、彼以外の接触をこばむ』という方向性に反した事象が発生。罅抜ひびぬきの刀身により個体名ハモンが負傷。流体金属である罅抜ひびぬきの刀身に個体名ハモンの血肉を吸収』


 絡繰からくりの画面には一振ひとふりの刀と少し幼いハモンが表示される。

 その横では文字が動き始めた。


『上記の事象より罅抜ひびぬきの流体金属操作ナノマシン内に多数のエラーを確認。個体名ハモンの道具で在る事、個体名ハモンの血肉を求める欲求からの二律背反が発生。以上の事から罅抜ひびぬき内ナノマシン、個体名ユズハは自己破綻じこはたんを回避する為に個体名ハモンの血肉が提供された際に別能力の発現を設定。血肉が提供された際には流体金属の一部を一時的に巨人型へ変化させる能力を獲得。形状は個体名ハモンの意識に残る個体名ユズハの服装に合わせはかま姿』


 画面に表示された刀に変化が起きる。

 刀身が短くなり、男二人分の全高を誇る袴姿の女巨人が表示された。両手は無く、薙刀なぎなたの様に長柄ながづかの刃がそでから生えている。


 人型でありながら人ではない異形の巨人。

 罅抜ひびぬきが刀から別の存在に変化した事を知る者は居ない。

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妖刀使いの少年、刀の扱いに困る 上佐 響也 @kensho

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