終幕 祝賀会の中
ハモンは帝都が獣の大群に襲われた当日の記憶が
イチヨの
だがその辺りから記憶に
次の記憶は寝起きだ。
腕の中のイチヨも浴衣姿でハモンはその背を抱いていた。
何も可笑しな事は無い筈だ。
しかし起きたイチヨは妙に顔が赤いし店の遊女や娘達には距離を取られた。
ハモンが酔った勢いで何かやらかしたのだろうが誰も真相を教えてくれない。知らぬという事の恐怖を見せつけられた様な気分だった。
帝都はお祭り騒ぎだ。
詩人の
住民は
ハモンの顔を知る者は限られている。それだけに帝都住民から白革羽織を見て流行りに乗ったにわかと思われるのが面倒だった。
ただし、悪い面ばかりでもない。
帝都大通りを北へ進むと皇帝が住まい
ハモンには皇居に描かれた巨大な龍の
そんな広場で開かれた帝都防衛の祝賀会でハモンの白革羽織は
帝国では公共の
だが傭兵には決まった色が無く羽織を被っていれば良い。その為か先日のハモンにあやかって白い羽織の者が多い。お陰でハモンが目立つ事もない。
ハモンが小柄な事も幸いした。
巨獣オオクニの首を裂いたと言われてハモンの様な小柄な少年剣士を連想する者は居ない。広場前に集まった群衆も大部分が白い羽織の大柄な傭兵達へ視線を向け誰が
祝賀会は討伐に参加した者達へ
授与式は
ハモンが帝国式の礼儀作法を知らぬ為にユウゲンが代表者として巨獣オオクニ討伐の表彰を受けた。
皇居を背にする様に置かれた装飾の多い椅子に腰掛ける四十代程度の男が皇帝らしい。その左右には有力な貴族だろう
司会者らしい女の指示に合わせ兵達が
何の意味が有るのか分からぬ礼や手拍子が続き、何も分からぬ内に授与式が終わる。ユウゲン以外にも数名の武功を立てた者が皇帝の前にかしずいて短剣やら硬貨やらを受け取っていた。
授与式は
後は交流会となり皇居前広場に設営された
貴族らしい着物姿の参加者は見当たらないが黒革羽織や群青革羽織の姿は見えるので
「兄様兄様、
「あらあら、お兄様に色だけでのうて模様まであやかりはったんですねぇ」
授与式の後にハモンはイチヨと
イチヨは普段通り赤茶のショートジャケットだがスイレンも
今日のスイレンはイチヨだけで人混みに入るのは危険だと同行している。
二人の言葉に吊られてハモンが
一見するとハモンは羽模様の白革羽織で流行りに乗った様に見える。だがよく見れば羽織の節々に汚れを落としたり糸の
その為か
ふと長身で仮面の岡っ引きという目立つユウゲンに人が
ハモンはこういった場でユウゲンが目立たない事に疑問を覚えて周囲を見渡した。直ぐに女顔の大男と目が合い快活な笑みを浮かべた大男が近付いて来る。
「ようよう
「あらぁゲンさん、ワッチは勝てへん勝負はしない主義よ」
「はっは、こりゃ野暮だったな。
好き勝手に話し始めた二人に白けてしまうハモンだが構えば調子に乗るので放っておいた。イチヨと適当にお好み焼きを買い二人で食べ始める。
「あぁっ、
「自分で買え」
「ちょっ、こいつ
「終始こんな調子ですえ。大事なんはイチヨちゃんだけや」
「兄様、
「裏に貼り付いていたか」
スイレンの指摘など今更なのでハモンも気にしない。
イチヨは
ハモンが
「そうそう
「自分とは限らないだろう」
「ところがどっこい、
言われてハモンが周囲を見渡せば傭兵達の言葉を聞いたらしい者達が彼の様子を
人に囲まれるのを好まないハモンとしては嫌な状況だ。
「騒ぎになる前に帰るとしよう。イチヨ、何か買っていくか?」
「あら優し。ワッチには何かないんどす?」
「イチヨの面倒を見てくれて感謝する。何か
「イチヨちゃんとの
イチヨ以外の女に小物を
スイレンも冗談のつもりだったので肩を
「まあさっさと帰るのは賛成だが、
「ん?」
「自覚が
そんな物かと肩を
既に赤い
矢張り話題の羽模様や双角仮面を
ゲンが
「あら、お嬢ちゃんは
「うんっ」
「そうかいそうかい。少し前から羽模様は流行っていたんだが山崩しを倒す剣士様が現れたし早くしないと売り切れちまうよ。いやぁ、ユウゲンさんに似せた仮面も人気だし帝都は
直ぐにハモンがイチヨの肩に手を乗せて
別に必要の無い物を買う必要も無いのだ。
「あの、服に着けられる羽模様の飾りは有る?」
「おっと、耳飾りや髪留めも有るが服に着けたかったのかい。ちょっとお待ち……有った。
そう言って女店主が取り出したのは裏の金具で服に着ける
「耳とか髪だと自分で見れないから、それが良い」
「そりゃ道理だね。売り文句に使えそうだ。と言うかお兄さんはまるで噂の剣士様そのものだね。羽模様の白革羽織なんて
女店主は出店の
話の種にとゲンやスイレンを見てからハモンを見て傭兵達の話す特徴に合致する事に気付いた様だ。特に羽織が昨日今日買った新品ではなく使った
男物の革羽織や女物のジャケットは
「あまり騒がないでくれ。人混みは苦手だ」
「あ、ああ。いや悪かったね。その羽飾りは
「ん?」
「帝都を救ってくれた剣士様から
「そうか……では、別に一品買わせてくれ。この子と揃いだと有難い」
「ぷっ、あっはは。良いね、同じ品が有るよ。持ってきな」
ハモンが二つとも受け取って片方をイチヨの胸元に着けてやると嬉しそうに小さく踊り始めた。もう片方を自分の胸元に着けイチヨに見せてやれば抱き着いて来る。
小物売りの女店主に指摘される程にハモンの
騒ぎになる前に退散しようとハモンはゲンに別れを告げた。
「おう、また何か有ったらよろしく頼むぜぃ」
「何も無いのが一番だがな」
「兄様兄様、お揃いっ」
「あらぁ、ワッチは仲間外れ?」
「えっと、スイレン姉さんは……お好み焼き一緒に食べる?」
わざとらしいスイレンに流石は客商売だと肩を
ほとぼりが冷めるまで、腕の怪我が治るまでは
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