2.初めての剣術稽古で。
「よーし、ライム! 今日から剣術の指南をしてやろう!!」
「はい、お父様! よろしくお願いいたします!!」
時は流れて、俺はあっという間に四歳になっていた。
この人間の身体に慣れるのにも、それだけの時間があれば十分だ。俺はすっかり人としての暮らしに順応し、スライムなど魔物との文化の違いも理解していた。
人間の中でも、とりわけ貴族に生まれた子供の多くは【王都立コーネルス学園】という場所に通うらしい。そこで素晴らしい成績を修めた学生は、王国の中でも重要な役職へと就くことが叶うという話だ。
今日はそんな輝かしい未来へ向けて、最初の剣術稽古。
学徒だった頃、剣術が得意だったという父の指導のもと、俺は木製の剣を構えていた。父も同じく、しかし片手で軽々と。
場所は屋敷の中庭で。
一見して、子供に基礎を教える父親、という図に相違なかった。
「それじゃ、好きなようにかかってきなさい!」
「分かりました!」
周囲の使用人たちも、みな微笑ましく俺たちを見守っている。
いかに天童と名高いライムであっても、いきなりリネスと対等に渡り合うなどと思ってもいなかった。俺だってもし、観衆の一人ならそう思っただろう。
しかし、俺は知っている。
このライムという身体には、あり得ないほどの才能に恵まれていることを。
「はっ……!!」
だったらこの機会に、一度試してみるのも良いだろう。
そう考えて、俺は一気に悠々と構える父へと向かって距離を詰めた。そして、
「な……!?」
自身の持つ木剣をリネスのそれに叩きつける。
驚きに目を見開く父だが、さすがに大人と子供の筋力差は大きい。いかに俺が身体能力に恵まれていたとしても、そればかりは埋め難いのだ。
だったら、この潤沢な魔力をもってして己を強化してしまえばいい。
しかし、それではあまりに芸がない。だから、俺は――。
「後ろに気を付けてくださいね、お父様?」
静かに、彼へそう告げた。
そして何事かと思い後方を見た父に、突き付けられたのは――。
「そ、そんな……!?」
――もう一本の木剣だった。
リネスの後方にいたのは、俺と瓜二つな子供だ。
その少年は父の首元に木剣をあてがって、黙ったまま動かない。その様子を見て、俺はこう宣言するのだった。
「俺の勝ちで、良いですね? ――お父様」
「……あ、あぁ」
何が起きたのかと。
いまだに状況が呑み込めないまま、リネスはそう答えるのだった。それを聞いて、俺はふっと腕に込めていた力を抜く。
すると父の背後にいたもう一人の俺も、姿を消した。
「ライム……これは、いったい?」
「えへへ。ちょっと自分の『分身』を作ってみました」
まったく状況が分かっていない父に、俺はそう笑って答えるのだ。
つまるところ、スライム時代に培った技能を応用してみた、ということである。そんな説明はさすがに省いたけど、今の説明だけで十二分に驚きは与えられたようだった。その証拠に、唖然とする周囲をよそにリネスは――。
「す、すすす、凄いぞ!? ライムは天才だぁ!!」
俺の身体を抱きかかえて、そう叫ぶのだった。
ほんの少しくらい気味悪がられると思ったのだが、どうやら杞憂だったらしい。周囲の使用人たちも、つられて拍手を送ってくれた。
そんな歓声の中で、俺は順調に力を自分のものにしていく。
学園に入学するときは、だんだんと近づいてきていた。
最弱のスライム、最強の賢者に転生する。~雑魚だからと仲間に見捨てられたけど、今度はむしろ頼られて困ってます~ あざね @sennami0406
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