1.恵まれた環境と才能、そして願い。
「ライム、こっちよ。ゆっくりでいいからね?」
「あぁ、もう歩けるようになったのか!? なんという子だ!!」
――生まれてから数か月。
早くも歩き始めた俺を見て、両親は驚いた様子でそう言った。
人間の身体というものに慣れるのは苦労したが、しかしそれを補って余りある身体能力を俺は持っている。どうやらスライムとして死んだ俺は伯爵家の嫡男として転生し、ライムと名付けられたようだった。
そして、先ほども述べたように。
このライムという肉体は、驚くほどの才能に満ちていた。
身体能力を始めとして、潜在する魔力量も申し分ない。あるいは人間という種はおろか、あらゆる種の中でもトップクラスの才覚なのではないだろうか。
「あぁ、本当に凄い子だな」
「もしかしたら、明日には私たちの名前を呼ぶかもしれないわ」
「あはは! それはさすがに無理だろう、アリーシャ」
アンドレス伯爵家当主である父、リネスはふらふらと歩く俺を抱き上げるとそう笑った。母のアリーシャも、冗談だといったふうに口元を隠している。
そんな二人を見て、俺の中には少しだけ悪戯心が沸き上がった。
なので少しだけ、魔力で舌の筋力を補助して――。
「りねすとうさま、ありーしゃかあさま」
「え……?」
「うそ……!」
小さく、そう口にしてみた。
すると両親は驚き目を丸くして、互いに顔を見合わせる。
そしてすぐに、歓喜に満ちた表情になって俺の身体を包み込むのだ。
「あぁ、あぁ……! なんて凄い子なんだ!!」
「本当に、信じられないわ! この子はきっと、天才なのよ!!」
彼らは心の底から嬉しそうに笑っている。
どうやら俺は、スライムであった頃には得られなかった温もりを手に入れていたようだった。それに身をゆだねつつ、静かに考える。
これ程までに恵まれた環境、身体に生を受けたのだ。
だったら、やることは一つだろう。
「(絶対に、この力で成り上がってみせる……!)」
スライムだった頃では、あり得なかった願い。
ライム・アンドレスとして受けた生を目一杯に謳歌して、最強へと至ってみせるのだ、と。
そんな願いを胸に秘めながら。
しかし俺は、今しばらく両親の愛情に身を委ねることにするのだった。
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