最弱のスライム、最強の賢者に転生する。~雑魚だからと仲間に見捨てられたけど、今度はむしろ頼られて困ってます~

あざね

オープニング

プロローグ 最弱の生涯、その終わり。






『冒険者だ! 冒険者がやってきたぞ!!』

『逃げろ、駆け出しだが将来有望な冒険者だ!!』




 ある街の外れにある小さな森の中で、俺たちは必死に逃げていた。

 理由は単純、冒険者が自分たちの住処にやってきたから。おそらくはギルドからの討伐依頼かなにか、だろう。二束三文にもならない、そんな依頼のために、俺たちスライムはいとも容易く殺されてきた。

 だけど、今回もどうにか逃げ切ってみせる。

 そう思っていた。しかし、




『おい、お前はそこに残れ!』

『え……?』




 仲間がふと、そう言う。

 俺は意味が分からずに止まり、周囲の仲間を見回した。そうしていると、また別の仲間がこう言うのだ。




『そうだ、お前! 囮になれ!!』




 信じられない。どうして、そんなことを……。

 そう思って言い返そうとすると、他のスライムたちも各々にこう叫ぶのだ。



『お前はこの中でも、とびっきりの雑魚だ!』

『足手まといなんだよ!!』

『だったら、最後くらい役に立て!!』



 お前は弱いのだから。

 だから、自分たちを逃がすために働け、と。



『う、ぐ……!?』



 言い返したかった。

 それでも言い返せないのは、それが事実だからだ。

 俺はたしかに、このスライムの中で最も弱い。魔力だって桁外れに少ない。足手まといという言葉は、まさに俺のためにあるような言葉だった。



『おい、急げ! きたぞ!!』

『あ……!』



 そう考えていると、ついに終わりはやってきたらしい。

 仲間たちが散っていく中で、俺はその場にただ一匹だけで取り残された。そして、




「よ、よーし! やるぞー!!」

『ひっ……!?』




 一人の少年冒険者が、剣を構えて迫ってくる。

 俺はなにもできず、ただ恐怖に後退るのみだった。



「ええーい!!」

『う、わ……』



 そして、いとも容易く一刀両断。

 意識が遠退き、死が近付いているのが分かった。

 冒険者の少年はそんな俺に目もくれず、次の標的を探している。つまり、それだけ俺は取るに足らない存在だった、ということ。

 それが、悔しくて仕方がない。

 どうして自分は、こんなにも弱く生まれてしまったのか。



『くそ、ぅ……!』




 ――だから、願った。

 次がもしあるなら、その時はより強い存在に。

 誰にも負けない才能を手にして、誰にも負けない努力を重ねて。




 そこまで考えた瞬間に、俺の意識は途切れたのだった。









 ――王都のとある貴族の家に、赤子の産声が響き渡った。




「あぁ、なんて元気の良い子なのかしら」

「本当だ。それに、これは祝福の紋章じゃないか」




 若い男性に抱きかかえられた子の肩には、一つの紋章が刻まれている。

 それは、選ばれし者にだけ与えられる神からの寵愛の証だった。



「きっと、この子は素晴らしい人生を歩むわ」

「間違いない。あぁ、なんて楽しみなんだろうか」






 そんな夫婦の会話に、赤子は小さく反応を示す。

 そして、こう思うのだった。




『え、俺は……どうして?』――と。





 

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