5:とある雨の日の放課後(前編)
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「やば、ねぇ雨降ってきた~! 傘持ってきてないよ~!」
はぁ~もう、せっかくの放課後だってのにさぁ! 宿題もないのに! サガる~!
「え、マ~? みんな傘ある?」
「アタシは置き傘あるわ」
「わたしは折りたたみ持ってるよ~」
「え、じゃあ傘ないのゆっかとるなだけ~? ずる! さかなの傘入れてよ」
「三人は無理だろ」
「ケチ~! んならもうダッシュで帰るしかないじゃん~」
「酸性雨でハゲるぞ」
「えー、やだ! てかハゲんの? それは話盛りすぎ盛り鴎外でしょ」
「いやマジマジ」
「うっそ、ヤバじゃん」
……なんか、さかなこが言うとマジに聞こえるわ。一応気をつけよ~。
「ね、さかなこ、今日バイトある?」
「ないよ~。ね」
「おう」
なぜかパンちゃんが、さかなこのスケジュール把握してる。たださかなこの膝の上に座ってるだけじゃなく、そこまで一心同体だったか。いやいつも通りか。
「るなもダンス教室な~い。動き足んな~い!」
「じゃあさ、雨止むまで、ちょっと待ってない?」
「わたしはい~よ~」
「まぁ、ヒマだしな。てか、今天気予報見たけど、まだ全然止まないっぽいぞ」
さかなこスマホの操作早すぎ。助かる。
てかそれよく見たら、パンちゃんのスマホじゃん? ちっちゃいゆるキャラが、背面の液体にぷかぷか浮かんでてかわいいスマホケース。共有率高くない?
「ん~、でも予報ってさ、外れるかもじゃん?」
「まぁ、それはある」
「じゃあるな、てるてるぼーず作ろ~っと。てか、朝は全然晴れてたのにね」
「もうすぐ梅雨だしねぇ~、憂鬱だよねぇ~。パンもカビちゃうよ~」
「それな、ダルすぎ。この時期特に髪うねるの、マジ萎える」
「ほんそれ。あでもさ~、ゆっかはあんましだよね。髪いつもすとーんて」
「そーなの。けど逆にさ~、前さかなこに巻いてもらったりとかしたことあるんだけど、すーぐとれちゃうんだよね~。髪質なのかな」
「いいなぁ~、羨ましいよ~」
「パンにゃ、お団子ほどくともっふぁもふぁだもんね」
「そうなの~」
「じゃあはい、パンにゃ。てるてるぽーずあげる~」
「わ~、ありがと~」
るなちがハンカチとヘアゴムで作ったてるてる坊主を、パンちゃんのお団子の上にのっける。二段アイスみたいでかわいいな。
「揺花」
「あ、露璃~、やほやほ~」
そんなことやってると、帰り支度を済ませた露璃が、あたしたちの席のとこまで来てくれる。
てかそう、次の席替えの時は、もっと近くがいいよね。あたしたち後ろの方で、露璃前の方だし。授業中とかも、なんか寂しいし。
「……帰らないの?」
「あんね、ワンチャン待ってたら雨止むのに賭けて、ちょっとだべってよ~って」
「あ、そうなんだ」
お、仕舞ってたメガネ、かけ直してる。これは付き合ってくれる雰囲気。
「ね、露璃は髪、自分で巻いてるの?」
「え? うん」
「へぇ~、すご。あたし、自分でやって火傷したことあるからさ~、ちょっと怖いんだよね」
「えっ、大丈夫……?」
「あぁ、今は全然だよ。結構前だし」
心配そうに、顔を寄せてくれる。いちいちマジで気にかけてくれるの嬉しい。あの香水、今日もつけてくれてるし。ダブルで嬉しいじゃん。
「つーさん優し~。てかなんか、頼れるお姉さんみあるよね」
「あ、それあたしも思ってた」
「そうなの……? 自分じゃよくわからないけど……」
あたしの彼女、頼れるし優しいし超かわいいって、ストーリーに載せていい?
「るなも優しくされた~い」
「お前、姉貴いるだろ」
「え~、それはそれじゃん。お姉とも、まーちゃんとも、ちょー仲いいけどさ。お姉は大学入ったばっかでまだ忙しそうだし~、まーちゃんは一応受験生だし~、甘えるタイミング考えるじゃん~」
「へぇ、るなでもそういう気遣いできんのな、意外」
「へっへ~、えらいからね~!」
「うんうん、るなちはえらちぃね~。あたしにはわかるよ~」
「すごいからね~!」
「クソ体力とかわいい以外、取り柄ねーけどな」
「わ、急に褒めるとかやば、さかなキモ~」
「いや褒めてはねぇよ。バカだし」
「え~、るなこんだけかわいいんだから、ちょっとバカの方がバランスいいっしょ~?」
「それは頷きすぎて頭とれる~。ね」
「えっ、私に振られても……」
いやでも、自分もフォローされる前提で頷いちゃったけど、そもそも露璃はかわいいのに賢いから、その説、普通に信憑性なかったわ。ごめんるなち。
「あ~……でもあたし、頭いい人好きだよっ。頼れるし、尊敬できるし、なんかすごいじゃん。あと一生懸命なのも好きっ」
「そうなんだ」
いや、そこは伝わってよ。そんな澄んだ目でまっすぐ受け止めるんじゃなくて、今の自分のことかも~って意識して、照れ照れしてよ露璃~!
「わ、ゆっか裏切りじゃん」
「ごめんるなち」
今は露璃を一番に褒めたいんだ、すまない。
「でも意外とかしこいかもしんないじゃん~!」
「意外でしかねーだろ。バランスどこいった」
「ギャップよギャップ~!」
くねくねしながら、薄っすい金髪をばっさ~ってかき上げる。露璃にお手本やってもらった方がいいよ、るなち……。
「その髪だって、いつもパサパサだしよ。酸性雨関係なかったわ」
「しゃーないじゃん。てか、ゆっかやさかなが、髪つやつやすぎん?」
「普通だよ。ヘアオイルいいのあるから、今度貸してやるよ」
「え、マ? 優しすぎん? ホントにさかなか……?」
「そういうの見てるとイライラすんだよ」
「美意識たか子ちゃんじゃん」
「低いよかいいだろ」
「それな!」
「あの、えっと……」
露璃、るなちとさかなこの言い合い見て、なんか不安そうにしてる。
「あー、気にしないで、いつもこんな感じだから」
「そうなんだ。じゃあ、その……仲いいんですね」
「はぁ……っ?」
いつも表情までばっちしキマってるさかなこが、そんなテンパった顔してんの、珍し。
「そうそう~、ケンカップルなんだよねぇ~」
「いや、カップルじゃねぇから。にゃごも余計なこと言わなくていいから」
「じゃ、パンにゃのことは、るながも~らいっ」
パンちゃんをさかなこごと抱きしめる勢いで、るなちが覆い被さって。
「お前にはやんねぇよ」
それをさかなこが、迷惑そうにぐいぐい押し返す。
「え~、なになに、さかな、パンにゃのこと好きすぎか~?」
「お前よかはな」
「はぁ~!? ちょっとショックなんですけど~!」
るなちがにまにましながら煽って、さかなこが嫌そうに流して、今度はるなちがぎゃーぴー騒いで……その間でパンちゃんは、いつも通りにこにこしてる。
見慣れたいつもの光景だけど、確かに露璃にとっては変なやり取りに見えるのかもしんないし。てか、今日はそこに、露璃がちょこんと添えられてるだけで、ちょっとテンポが違って見える。
それなのに、なんかもう全然、元々こういうグループだったみたいな雰囲気じゃん。いいね。
「なこちゃん、なこちゃん、素直になりなよ~」
「いや、なんも曲がってねぇし。るなのこと、別に嫌いではねぇよ」
「マ~!?」
「そこはるなち、そんな意外でもないでしょ」
「大丈夫だよ~、るなちゃんのこと、みんな好きだよ~」
「え~、嬉し、よかった~!」
「ふふ……やっぱり、仲がいいんですね」
「そーいうことっ」
露璃もわかってんじゃん~。
「だってさ? さかなこっ」
「委員長、天然かよ……」
「……?」
「うひひっ」
これはこれでおもろいから、このままにしとこう。別に仲いいのはホントだし、さかなこも諦めてるし、パンちゃんもなんか楽しそうだし。
「てゆーかるな、今気付いた。お腹ペコです!」
「急だなおい」
「あ、待って~、お菓子あるよ~!」
いつものんびりしてるパンちゃんからは、想像もつかない俊敏さ。
さかなこの膝の上で身体を捻っても揺るがない、安定感。
その本気、あたしらじゃなきゃ見逃しちゃうね。
「みんなで食べ比べしようと思って、いろんな種類のお菓子、いっぱい持ってきたの~。あ、今日のはチョコ系が多いかな~。先週デパートでやってたスイーツ展のも確保してあるよ~」
パンちゃんの異次元スクールバッグから、お菓子がどんどんあふれ出してくる。あとパン。まだあるの? これもう、うちの学校の七不思議でよくね? ってくらい、いつもいっぱい出てくる。
「わ、パンちゃんやば、めっちゃ持ってきてるじゃん」
「るな食べたい食べた~い、早く言ってよも~!」
「あの……先生が来たら、仕舞って下さいね……?」
「は~い」
露璃は相変わらずの真面目で。多分これ、この量、すぐに戻すの無理だと思うけど……。
「どれにするか迷っちゃって、いっぱいになっちゃったんだけど、食べきれるかな~」
「え、これくらい余の裕では?」
「るなちも意外と食うよね」
「バカ食うだろ。腹もバカなのかよ」
「任せて~! なんなら一番食うし!」
「いや期待してんじゃねーんだよ」
るなちとパンちゃんとあたしで、スイーツバカ食い三銃士を名乗れる自信ある。
「あ、これ見て~、ちっちゃいパフェみたいなチョコなの~。わたしのイチオシだよ~」
「わ、かわよ~」
「ね、おしゃれ~」
「……確かに、かわいいですね」
「この見た目だけでも、テンション上がるよね~」
「見るだけで胸焼けしそうだけどな……」
わいわい言いながら、パンちゃんがどんどん箱開けてくもんだから、みんなガンガン口に放り込んでく。自分でも遠慮な、って思うわ。でも遠慮しない。
「こっちのはね~、見た目もかわいいんだけど、味も食感もおもしろいんだよ~」
「うーわ、これ絶対いいとこのチョコじゃん」
「そ~。このブランドね~、どこかの王室御用達なんだって~」
「え、やば~、あたし王族になりたいかも~!」
「細かいことはいいじゃん~、うんまい!」
「はい、ゆっかちゃん、こっちのチョコも、あ~ん」
「わ~い、んあ~……んむっ」
「どーお?」
「んむんむ……んん~! うますぎ! 比べても一位決めらんないわ~」
ただでさえ足りない語彙力がチョコみたいに溶けた。
「露璃はこの中だと、どれが好き~?」
「え、えっと……」
主にあたしとるなちとパンちゃんがむさぼり食ってて、露璃とさかなこは若干引き気味で。
でも、そんな二人にも、パンちゃんは容赦しないのだ。
「ふふ~。みみちゃんもど~ぞ~」
「えっ、あ、どうも……じゃあ、いただきます」
お菓子配りモードのパンちゃんは、誰にも止めらんないからね。露璃も同じ釜のメシを食おうぜ! あ、同じ釜の菓子? 釜……?
「はい、なこちゃんもど~ぞ」
「あぁ……じゃあ、いっこだけ」
「え~、もっと食べていいよ~」
「いや、我慢だ……そのお菓子食べた分だけ、ブスになると思うんだよ……!」
「やば、自分に厳しすぎじゃん」
「さかなストイックすぎ~」
「そうなの~、なこちゃんアスリートなんだよ~」
「自分のためだよ。かわいいアクセに見合うように、自分磨きするわけ。だろ?」
「正論すぎて頭とれた」
「え、でもさー、るなは十分かわいいし、美しさもあるくない? だから食っても大丈夫くない?」
「きれいどうこう語る前に、痩せるとこからな」
「え~! 理想の話ぐらいいいじゃん!」
「大丈夫、るなちは十分細いよ、さかなこが最強すぎるんだよ」
るなちは、露璃とおんなじくらい背高いし、身体鍛えられてて、なんか健康的に引き締まってる感じ。
さかなこは、そもそも顔ちっさいし手足ほっそいし、なんか二次元みたいなバランスなの努力家すぎ。
どっちもそれぞれの良さがあると、あたしは思ってる。
あと、パンちゃんはパンちゃんで、ふわっとしたシルエットなのに出るとこ出てて、包まれたい魅力あるし。
まぁ、露璃はあたしにとって、その全部を兼ね備えてるわけだけど……あれ、これあたしが一番ちんちくりんじゃん……?
「でも、うまいチョコの魅力には、抗えないんだよなぁ~……」
ま、かわいくないとこ隠すより、かわいいとこ見てもらいたいしね! そういうことにしておこう。チョコうまい。
「……榊さん、すごいですね。自分の理想について、ちゃんと考えられてて。尊敬します」
なんか露璃は、普通に感心してたし。この輪の中でこのノリは新鮮じゃん。てか露璃も十分すごいよ。
「え、あぁ、いや、なんか普通に感心されると調子狂うんだが……」
「おいおい、照れんなよさかな~」
「うるせえ……」
さかなこ、こう見えて意外と自己肯定感低めだから、ちょいちょいヘラってて。だからこその、この徹底した自分武装なわけで。
それをさ、露璃みたいな嘘つかない人にさ、素直に肯定してもらえたら、承認欲求満たされてくの、めっちゃわかるよ~。さすがにメイクでも誤魔化せないっぽい。
「つーさんはさ、なんか色気あるよね。チョコ食う仕草も、ちょっとえっちじゃん?」
「え、えぇ……そう、なんですか?」
「めっちゃわかる~!」
「揺花……?」
「あっ、いやいや、いい意味で! 変な意味じゃなくて!」
「もぅ……」
なんで言い出しっぺのるなちじゃなくて、あたしがジト目で睨まれてんの!?
いや、でも、その表情も、なんかえっちじゃん……!
「てか言い方だろ。雰囲気落ち着いてるからなんじゃねーの?」
「それな~」
「なこちゃんも、落ち着いてるよ~?」
「さかなはテンション低いだけっしょ」
「うるせえよ、お前が下げてんだよ」
「うっそだ~、ウケる」
「マジかよ……」
うんうん、確かに下がってる。逆に、テンション高いさかなこも見てみたいけど。いや想像つかないけど。
「てかさてかさ~、そんなテンション低い話じゃなくて、みんななんかおもろい話なーい?」
「だから急だな」
「最近の話じゃなくてもいいしさ~。おもろいコイバナとかないの~?」
「このメンツでコイバナて……そう言う、るなはどうなんだよ」
「お、訊いちゃう? へいらっしゃい!」
「接客やば。ラーメン屋かよ。おすすめは?」
「こないだモールに新しく入ったお店のアクセが、ちょ~いい感じで~」
「いやコイバナのおすすめ出せよ」
「仕込み中で~す! お客さんからどうぞ!」
「そんなヒマあるか。バイトと添い遂げてるわ」
「わたしはね~、好きなパンとかスイーツの話ならできるよ~」
「えー、みんなコイバナの在庫なさすぎじゃん! 店員さん、もっと他にないんですか!?」
「店員お前じゃねぇのかよ」
「あ~、ここになければないですね~。パンとお菓子のおかわりならありますよ~」
「わ~ん、ある意味甘~い」
「それでいいのかよ……」
「ん~、じゃあさ~……」
言いながら、るなちは周りをきょろきょろ見渡して。教室にはもう、あたしたち以外、ほとんど誰も残ってない。
「ゆっかとつーさんは? ちゅー何回ぐらいした?」
「え? えっと、確か……」
「いやいやいや! 露璃はなんで答えようとしてんの!?」
「えっ?」
真顔からの自然な流れすぎて、そのまま話聞いちゃいそうになったわ。思わず椅子から立ち上がっちゃった勢いで、チョコ吹き出すかと思った。
「あ、ごめんね……。でも、その……付き合ってるって、自信を持って言えないのは、嫌だなって思って」
「あ、うん、それは確かに、そうなんだけど……」
自信持ちすぎなのも、それはそれじゃね? 露璃、結構極端なとこあんじゃん……真面目すぎか。まっすぐなとこ、かわいいとこだけどさ。
「だから、変に隠すのは、違うのかなって。だよね……?」
「うん……え、あたしに合わせてくれてる?」
「ううん。最近は、自分でもそうしてたいなって、思うようになったから」
あぁ、さっきまでと全然違う、その穏やかな笑顔を見たら、自信満々なの誰だってわかっちゃう。
はいみんな、これがあたしの自慢の彼女です。安心して下さい、あたしのことが好きすぎます。
「うわつよ~。こっちが照れるんですけど~」
「ノロケじゃん。え、委員長そんなキャラだったっけ?」
てかね、今あたしがね、一番照れてるんすわ。
「あの……そもそも、女子同士で付き合ってるの、変じゃないですか……?」
「え、おもろくな~い?」
「おもろい……ですか……?」
露璃はそこ切り込むんか。ホント真面目がすぎる。そしてるなちは軽い。
「こんなこと気にするの、変かもしれないんですけど……恋人って普通、異性じゃないですか?」
「え、今更……?」
あたしも特に気にしてなかったわ。軽い? 露璃は重い女の方が好きとかある……?
「それはほら、洗脳されてるんじゃん?」
「何にですか……?」
「え、世界?」
るなち天才すぎる。そこ全人類気付くべき。
「だから~、全然変だなんて思わないってーかさ~」
「そうそう~、わたしも変とか思わないよ~」
「それに、人から見たらくっだらない悩みとかでもさ、自分にとってはめっちゃ重要ってのとか、あるでしょ?」
「あ、はい……」
「だから全~然っ、人がガチで考えてることに、なんか~とか、そんなこと~とか、その程度~とか、うちらはそーいうの言わないよっ。ネタ以外でねっ」
「ま、こっちも言われたくねーしな」
「それな~。悩みも好きなことも、人それぞれだし~、男の子より女の子の方が好きって子だって、結構いるしね?」
「わたしは、なこちゃんも、ゆっかちゃんも、るなちゃんも、みみちゃんも、み~んな好きだよ~」
「マ~!? パンにゃ~! 嬉しいじゃん~!」
「わたしたち親友だもんね~」
「ね~!」
「いや、アタシまで一緒にすんなよ……まぁ、いいけど」
「あはははっ」
別にこれ、気ぃ遣ってくれてるとか、そういうのでもないんだよね。
なんか普通に、自然に、当たり前にしてくれるこの感じ。やっぱなんか、過ごしやすい。
あたしの好きなこの空気感を、露璃にもそんなふうに感じててもらえたら、嬉しいんだけど、どう……?
「ってことで~、二人のことは普通に応援してるよ~! だから時々、おもろいコイバナ聞かせてね!」
「は、はい……!」
露璃は、なんだかちょっと、ほっとしたような、荷物が少し軽くなったような、そんな顔。
あたしまで、気持ちが軽くなったみたいな、そんな気がしちゃう。
「最後のが本音かよ。てかるな、さっきから遠慮なさすぎじゃね?」
「え、ごめ~ん。思ったことすぐ口から飛び出ちゃうの~、大声で~」
「困りすぎだろ」
「あはは……こーいうノリなの、みんな」
「……うん」
思えば、露璃が自分からこういう話するのも、今までの露璃の性格からしたら、かなり意外なことなんだよね。
それだけ露璃も、自分で前に進んでるんだ。その証拠。
やっぱり、そんなかっこいい露璃が好きだし、側にいたい。
そんならあたしも、もっと側にいたいって思ってもらえるような、そんなあたしになれるように、頑張ってかないとじゃんね!
「あ、やっぱうるさかった~? つーさんごめんね~」
「いえ……こういう輪の中で過ごす自分、少し前までは、全然想像つかなかったんですけど……こういう過ごし方も知れて、よかったなって思ってます」
なんとなく、みんなとの間に壁があるかもな~って思ってた雰囲気も、いつの間にかなくなってて。
こーいう緊張がほぐれた素直な露璃も、やっぱ好き。
「え、やば、つーさん今いいこと言ったくない? エモくない?」
「うるせえよ、お前が騒ぐと台無しだよ」
「てかつーさんさぁ、うちらにもタメでいーよ!」
「あ、あたしもそれいいと思うけど、露璃どう?」
なんか流れのついでみたいになっちゃったけど、まぁ、改まって取り決めるもんでもないような気もするし。
ぶっちゃけ、その流れで露璃と一緒にいられる時間がもっと増えるかも、また新しい露璃の一面を見られるかも、って考えると、あたし的には超嬉しいんだけど。
「え……っと、じゃあ、その……これから、少しずつということで」
「え~、よかった~。せっかくならさ、もっと仲良くなりたいじゃんね! んぎゅ~!」
「え、あの……!」
露璃の気持ちのハードルが下がったの、多分、その場のみんな、感じ取ってて。
そうなったるなちはというと、リードから解放された大型犬みたいな勢いで、いきなり露璃に抱きついていっちゃうわけで。
「あっ……!」
別にさ、るなちはいつもこんな感じだしさ、特になんも考えてなくて、ただの仲いい子同士の挨拶レベルって感覚なのは知ってるけどさっ。でもずるいじゃん! あたしだってしたいじゃん!
「あ~っ! ちょっともー! るなちストップストップ!」
「へ? あごめ~。あっはは~」
るなちってば、いつも距離感バグってるんだからも~! いや、そこもるなちのいいところなんだけどさ~!
「んも~、露璃にいきなりぎゅってすんの、なしだからね!」
「へぁ~い」
るなちが約束忘れないように、これからもっと、露璃の側で見張っとかないとね! そこはあたしの場所だかんね!
「じゃあつーさんさぁ~、うちらがゆっかにぎゅ~するのもダメ?」
「え……えっと、私とするより、長い時間じゃなければ」
「えっ」
「「「ひゅぅ~~!!!」」」
あーもう、そんな理解はあるけど独占欲は隠しきれてない的な感じ出すから、みんな沸いちゃったじゃん。くっそ、露璃いつの間にこんな無敵になったんだ……!
や、でも、スカートの裾いじってるから、きっとまた表情に出てないだけで、緊張してたなこれ。
ふふふん、そこは秘密にしといてあげよう。
「あーもう、なんか恥ずくなってきたし……雨ん中走って帰ろっかな~……」
「あ、私、折りたたみ傘あるよ?」
「えっ、んもー露璃ナイス! てか早く言ってよ~!」
「う、うん……!」
勢いで、今度はあたしがぎゅ~しちゃう!
「お、本場だ~」
「何がだよ」
へっへっへ、るなちには悪いけど、他の女の匂いは上書きさせてもらうぜっ……!
……な~んて考えてたら、また猫みたい~とか、言われちゃうかな?
でも、さすがに抱き返してはくれないまでも、腰の後ろに回した手を背後でこっそり握り返してくれてる辺り、露璃もきっと嫌じゃないんだろ~な~。そうであれ。
「あ、でも結局、傘足んないか……?」
「待て待て、ゆっか、アタシの置き傘貸してやるから。で、委員長、折りたたみ借りていい?」
「おっ、さかなこも天才~!」
普通の大きさの傘なら、露璃と相合い傘できるじゃん! さかなこマジ感謝~!
「じゃあ露璃、傘一緒に入ろっ?」
「うん。榊さん、ありがとうござ……ありがとう」
「あー、いいっていいって」
「じゃあわたしは、自分の折りたたみ使えばいい感じ~?」
「えっ、じゃあるなは~!?」
「ハゲろ」
結局、パンちゃんが自分の傘でさかなこと一緒に帰って、露璃の折りたたみはるなちに貸してあげる感じになった。
あの二人はいつもくっついてるし、折りたたみ傘でも狭くないのかな……?
あれ、てかこれ、そもそもだべってた意味なくね……?
まぁ、いろいろ楽しかったからいっか~!
☆後編につづく!
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