4:とある初デート(前編)
●●●
「ねね見てみて露璃! このどうぶつルームライトかわいくない? 触ったら柔らかい素材なんだって」
「え……? あ、ホントだ、もちもちしててかわいい……猫かな」
「え、クマじゃない?」
「ちょっと、揺花に似てるなって思ったんだけど」
「じゃあ猫じゃなくて、あたしじゃん」
「そうなんだ……!」
「いや知らんけど。でもかわちぃ~」
よくわかんない丸っこい生き物の頭を、二人でつんつん突っつきながら、よくわかんない謎会話。
露璃、美術品みたいに隙のねぇ真顔なのに、いつもよりちょっとテンション高そうにも見えるんだよな~……なんて、ちらちら横顔観察してたら。いつの間にか、ぷにぷにするところが重なって、派手なネイルと控えめなネイルの先っちょ同士が、ごっつんこ。指相撲か?
「ちな、これは露璃」
「……ふふ、これは揺花」
やっぱ謎会話。でも楽しっ。
だって美術品と違って、顔がいいだけじゃなくて、あたしが変なこと言う度に、優しく笑ってくれるんだぜ!
「えへへ。ね、あっちのも見てみよ」
「うん」
はーヤバ。今日どんな感じになるのかなって、昨日の夜からドキドキしてたけど……めっちゃいい! 露璃がちょー近い気がする!
なんか休日まで露璃と一緒に過ごせてるってだけで、今もちょっとドキドキしててえぐい。
露璃の私服も新鮮だし。今日なんてもう、会ってすぐ写真撮っちゃった。襟大きめのブラウスにワイドパンツっての、シンプルに甘辛な感じがオシャでかわいいし、バッグはちょっと大人っぽい感じなのも似合ってる。
リップもいつもよりちょっと明るめの色選んでくれてて、あ! 気合い入れてきてくれてんじゃ~ん! って思ったらヤバい嬉しいし!
いやいいわこれ。もっと露璃とデートしたいわ。まだ始まったばっかなのに。
「ねぇ、揺花」
「ん? なになに、なんかいいのあった?」
「ううん、そうじゃないんだけど……ここの雑貨屋さん、よく来るの?」
「え、うん。てかここのモール、割と結構来まくってるんだけどさ、露璃と一緒に来たかったんだよね」
「そうなんだ」
「そーなの。ちゃんとデートって言ってデートするの初めてだし~、せっかくなら、デートっぽいデートしたいじゃんって思って、色々考えてたんだけどさ~」
「……私のために、考えてくれたんだ」
「へへ、二人のためね!」
「うん」
それをもっとわかってほしくて、思わず、露璃の手掴んで隣にくっついちゃう。
「なんだけどっ、なんていうか、あたしのデフォな感じのこと、知ってもらいたいってのもあったわけ。ほどほどにね。で、まずはここって感じ」
「そこは、ほどほどなんだ」
「いやほら、あんま生活感ある感じとかさ、かわいくないとこは、別に見せたくないじゃん?」
「それは、わかる……でも、揺花のそういうところも、私はかわいいと思うけど」
「おっ、油断させる作戦かー!」
「えぇ……えっと、油断してくれても、いいよ。私といる時は」
「わ、やば、口説くじゃん」
「そんなつもりじゃなくて……」
「え~、いいじゃん、口説いてよ~」
「じゃあ……好き、です」
「ぶは、思ったよか力業でギャップじゃん」
「えぇ、どうすればいいの……」
「あははっ、露璃はその感じなのがいいよ~。あたし、好きって伝えられるの大好きだよ」
「もぅ……」
別に他のお客さんなんて誰もこっち見てないし、今のだってどうせ、まわりの話し声や流れてる音楽で、あたしたちの距離でしか聞こえてないと思うんだけどな。露璃ってば、きょろきょろ様子伺ってる。
大丈夫だよ、全然変じゃないよ、どんな口説き文句でも、あたしには届くし、あたしにしか届いてないから!
……なんて言うと、また気にしちゃうかもだから、黙っとこ。
てか、自信なさそうな時の露璃は、ちょっとだけ小さく見える。いつも背筋ピンってしてて、そうじゃなくてもあたしより背が高くて、頼れる委員長って感じでかっこいいのに。でもそういうとこも、かわいいんだよなぁ。あたしにだけそういう顔見せてくれてるのかなって思うと、やっぱなんかいい。この特別感ヤバじゃん。
「……なに、にやにやして」
「んふふ、ないしょ」
こういうことでも失敗を気にしてるとこ、かわいいからだよ、とか言ったら、なんかそっぽ向かれちゃいそうだし。
「むぅ……」
あ、向かれたわ……。
でもこうやって、露璃の新しい一面、魅力、知っていけるのは、全然よき。
普段は、強くて、まっすぐな自分を持ってて、かっこいい。あたしの憧れ。だけど、それだけじゃないって感じがさ、しゅき。
見守ってたいとか、助けてあげたいとかも、思わせてくれるわけ。多分、あたしだけの特別なわけ。
「てかさてかさ聞いて? あとね、他にも理由あって、遠出とかもいいんだけど、夏休みまではお金貯めときたいじゃん? 水着のフェア始まったら、また来ないとだし」
「泳ぎに行くの?」
「え、行かない?」
「ううん……行く」
「はい約束~! もう言ったからね、絶対だからねっ」
「ふふ、そんなに念押さなくても、ちゃんと行くよ」
よかった、機嫌悪くなったとかじゃないっぽい。
「いやさ~、夏休み前に付き合って、夏休み終わったら別れてた~みたいな感じの人たちもいるじゃん?」
「ふーん……私たちは、どう?」
「いや絶対ないね! 別れてもその後フツーに仲いいってこともあるけどさ、そもそも別れたくないね!」
「……よかった。私も、ないと思ってた」
「おっ、だよね~、約束ね」
「うん、約束」
そんでまた、露璃との新しい約束が増えたの、嬉しみ深い。
変な心配しなくていいって、露璃からはっきり言ってもらえるのも、なんか心強いし。いや真面目に答えてくれるのホントありがたい。
こんなマジに付き合ってくれてるんだから、あたしも、露璃にいっぱい嬉しくなってもらいたくなっちゃうわけよ。
「てか次、服見に行こうよ。あたしも見たいのあるし、露璃のコーデも考えたいしさっ」
「うん。揺花、お洋服の話する時、すごく楽しそうだね」
「え、そりゃテンション上がるっしょ。かわいい服はね~、着てもよし、着せてもよし、見てるだけでも楽しい!」
「その服も、すごく似合ってるもんね。かわいいと思う」
「えっ! ちょっともーそんなら早く言ってよ~! めっちゃ嬉しいじゃん!」
「え……? うん、ごめん……?」
このバルーンスリーブのシャツに、ミニ丈のラップスカートあわせるの、めっちゃかわいくない? って自分でも思ってた!
「春だしさ、トップスはボリュームのある袖がいい感じかなってのと~、それだと、ちょっとタイトめのボトムスがバランスいいかなってので、選んだんだけど!」
「う、うん……すごくいいと思う……!」
もっとじっくり見てもらいたくて、目の前で、くるくる回って見せてあげる。
あとね、ミニリュックもチャーム付きのお気にだし、ショートブーツもこないだおろしたばっかで、実はウッキウキで履いてきたやつ!
「えっへへ~、露璃に気に入ってもらえてよかった~!」
自分の好きなもの、こだわったもの、こうやって褒められるの、ちょーキュンなんだけど。ときめくってこういうことかよ。かわいい露璃に褒められるの好き。ってまた、あたしの方が嬉しくなっちゃってるじゃん!
「てかそう、露璃もそのパンツ似合ってるよね。スタイルいいの際立つし、めっちゃいいと思う!」
「そ、そう……? ありがと……」
お、あんま顔に出ないけど照れてんな? スカートの裾の代わりに、袖のフリルいじるんだ。ヒラヒラしたもの触ると精神統一できるの……?
「やっぱ背ぇ高いとね、ファッションはばひろでいいよね。服選ぶの絶対楽しいよ」
「私は、その辺あんまり自信ないから……じゃあ、揺花、選んでくれる?」
「えっ、いいよいいよ! まっかせて~!」
やる気マン参上!
「今の感じのパンツあわせだと、シアーシャツとキャミってのも合いそうだし、季節的に明るめのカーデとかも映えそうだよね! でも身長活かすなら、ロングスカートか、キャミワンピとかでもシルエットきれいにまとまりそうだし……あでも逆に、むしろ足出してった方がつよつよか……!?」
「えっと、そんな、一度にたくさんじゃなくても、いいからね……?」
「えへへ、わかってるって~! ほら、行こ行こっ」
「うん……!」
こういう当たり前のはずのやり取りでも、なんか二人っきりで、しかもデート中だって思うだけで、特別な意味があるみたいに思えちゃう。てかもう、そういうことでいいんじゃん?
楽しい場所で、露璃と一緒にってだけで、思ってた以上にテンション上がっちゃってるのかも。自分でも気付かないうちに、なんか早足になっちゃうし。
だからさ、はぐれちゃわないように、露璃と手、しっかりつないどかないとね!
●●●
「ねぇ、揺花、さっきの服、買わなくてよかったの? せっかくいいの見つけたって言ってたのに」
「んん~~……いや、また今度! 水着買うお金残しときたいし」
自分のも露璃のも、いろいろ試してコーデ考えるのめっちゃ盛り上がっちゃったけど。結局、欲しいの多くて全然決めらんなかった……。
だって、全部いい感じなんだもん! 選択肢多すぎ! あたしと露璃がかわいいのが悪い。いやいいけど。
「てか服もそうだしさ~、あと、デザイン凝った靴下とかも高いよね。消耗品のくせにね」
「え……ものにもよるような気もするけど」
「それにさ、今日はまだ、一緒に回りたいお店いろいろあるし」
「そっか、他にもあるんだね」
「うん、アクセとか、プチプラのコスメとかも、結構ここで揃えること多いんだよね。だからその辺も回ろうかな~って」
あたし的にはお決まりのコースって感じだし、るなちたちともよく来てるけど、露璃と二人っきりでってのは初めてだからね。これはこれで、なんかいつもと違う景色になりそうじゃん。
それに今日は、あたしが案内してる側だしね。だから迂闊に無駄遣いもできないわけよ。こーいう計画立てるの、苦手なんよな~。行き当たりばったりマンは、いつもそこにいる。
けど、露璃にちゃんと楽しんでもらえるように、まだまだしっかりエスコートするぞ~!
「てか露璃こそ、よかったの? 自分のだけでも買っとく?」
「ううん。せっかくなら、揺花と一緒にって思って」
「へへ、そっか。でもやっぱ、露璃に似合う服選ぶの楽しかったよ~、あんがとねっ。ちょーかわいかったし!」
「そんな、こちらこそだよ」
「自分と誰かとじゃ、似合うもの違うしさ、人にお勧めした服がばっちし似合ってた時とか、めっちゃ楽しいし嬉しくなるんだよね」
「なら、よかった。私は、自分じゃ、似合う似合わないとか、よくわからないし……」
「えー、まぁ、いろいろトレンド調べたりってのもそうだし、単に自分が好きな感じの選ぶだけでいいじゃんってのもあるけどね」
「でも、揺花のセンスは信じてるし、揺花に選んでもらえたら、それを着るの、きっと楽しみになると思う」
「それわかる~! じゃ次は露璃、あたしの選んでねっ」
「えっ……責任とれないよ……?」
「あははっ、そんな大げさに考えなくていいってば。あたしほら、まぁまぁかわいいから、結構似合うの多いし、逆にダサいのもおしゃれってことで、着こなすからさ!」
「う……じゃあ、自信ないけど、頑張るね……!」
お互いの選んだもの身につけるって、それだけでなんかもうエモだしさ。思い出にもなるし。
逆に、露璃の選んでくれるコーデ、楽しみってのもある。今日の格好見る限り、全然だいじょぶそうなんだけど……またいつもみたいに、自分でハードル上げちゃってんのかな……?
いやでも、クソダサファッション選んでくれても、それはそれでおもろいんだけどな……それでるなちたちを一生笑かしたい。や、でも、露璃気にしちゃうかもだから、それは流石にか……?
「じゃあ、今日は下見だったってことで、また今度やろうねっ」
「……うん、そうだね」
「んじゃ次は、何見に行こっかな~。あ、疲れてない? だいじょぶそ?」
「うん、全然平気。行きたいところ、全部見て回ろ? 揺花のお気に入り、教えてほしい」
「よ~し、どんどんいこ~!」
「ふふ、お願いしまーす」
●●●
「あ、ここネイルショップ入ってんの。見てかない? 見てっていい? ちょっとだけ!」
露璃に見せたいの半分、自分の欲求半分くらい。いやでも、ここのお店もかわいいんだって。
「うん。……すごい、カラフルだね。こんなに種類あるんだ」
「ね、びっくりするよね。いつもは、さかなこに教えてもらってさ、ネイルキット揃えたりしてるんだけど、ガチの専門店は、もっとすごいんだって」
「へぇ……榊さん、あれ全部セルフでやってるんだね」
「すごいよね~。露璃はあんまやんないよね?」
「うん。普段は、ちょっとケアするくらい。あとは、ワンカラーのジェルネイルくらいしか、試したことないかも」
「確かに、派手なのしてるイメージない」
「揺花は、ラメとかストーンとか、もっとたくさん載せてる感じなのかなって、思ってたけど」
「それな~。がっつり盛るのも憧れるんだけどね~、あんまデコりすぎるとさ、生活やばくなるから」
「金銭的に?」
「それもあるけど、もの持ちづらくなるし」
「でもやりたいんだ」
「かわいいじゃん」
「ふふ、うん」
「てか、さかなこが器用すぎなんよ。あたしは不器用だから無理~」
そんな感じであれこれ話しながら、ジェルやネイルパーツ、ケア用品なんかをうろうろ見て回ってるんだけど。気付けばお互い、視界の外では、相手の好きなところを確かめ合うみたいに、つないだ手と手で触れ合ってて。
別にそれで何か言うわけでもないし、特に意味があるってわけでもないんだけど。なんか安心するし、そうじゃないと寂しいような気もするから、結局自然とそうなっちゃう。
そういや今日は、なんかいつもより長く、手ぇつないでるような気がするな~。
「……今の揺花の手、私は好きだけど。かわいくなろうって、頑張ってるところとか、いろいろあわさって、揺花っていう感じがする」
「へへ、そう? 露璃の手も、肌白くてきれいで、あたし好き。露璃っぽい感じがしてさ」
「……いつも、私の手を引いてくれるから、かな」
「え~、じゃあ、放さないでいてくれるから、かな~」
自分でも、なんだそれって思うけど、別に大した意味なんてないし。なくてもそうなんだから、しゃーないじゃんね。
飾らなくても、まっすぐに気持ちを伝えてくれる、すべすべの指。
飾った自分を包んでくれる、優しい手。
そんなの、なんでもいいから理由をつけて、触っていたくなっちゃうじゃん。
●●●
「ここは……香水、置いてるんだね」
「そ~。ここも専門店みたいな種類はないけど、プチプラメインだから、あたしのお小遣いでも手ぇ届くのはこの辺かな~って。見るだけならタダだし」
「そうだね……このボトルとか、ピンクでかわいいよね」
「ね~! デザイン見るのも楽しいんよ。気分に合わせたり~、出かける時の目的に合わせて変えるのも、テンション上がるよ」
なんかこう、見えないとこのおしゃれまで行き届いてる感あって、モチベ爆増っていうか、やれてる自分感演出できるのがよき。もはや第二の下着よ。
自分の内側からも外側からも、なんか全体的にQOL高まる気がするんだよね~。
「……もしかして、今日、つけてる?」
「お、気付いた?」
「ん~……ちょっと待って、確かめる……」
「え」
不意に、ほんのちょっとだけかがんだ露璃が、あたしの耳元辺りまで、すげー自然な仕草で顔を寄せてくる。
そりゃ、香水の匂い確かめてるんだってのは、わかってるんだけどさ。セクシーに目ぇ閉じちゃってるもんだから、なんか一瞬、キスされんのかと思っちゃったじゃん……!
いや、人前でいきなり強引にってのも、あたしは結構、ありだけど? アリ寄りのアーリオ・オーリオですけど?
「んぅ……あんま嗅がれるのも、なんか恥ず……」
「あ、ごめんね……!」
慌てて、さっと離れながら、何事もなかったふうを装う露璃。
手つないだままだと、実際そんな距離変わんないのにね。
「えへへ、いいよいいよ。それよりさ、テスターあるから、なんか試してみる?」
「えっと……じゃあ、揺花のおすすめとか、あれば」
「オッケー! んじゃあね~……あ、これとかどう? 前使ったことあるんだけど、あたし的には結構おすすめ。トップノートが柑橘っぽくて、甘いんだけどすっきりさわやか系で、ちょうどいい感じなの」
知識はさかなこの受け売りだけどさ。あたしなりに、あたしのイメージで、露璃に似合うの選ぶんだって考えると、なにこれめっちゃアガるじゃん。一緒感上がるじゃん。露璃がもっとあたし好みになっちゃうじゃん~!
「あとは~、もっと甘い系だと、お菓子みたいな匂いのもあるし、あーでも、露璃にだったら、フローラル系とかが似合うかもな~」
「……おいしそうな匂い、好きなの?」
「え、うん、そだね、そうかも!」
「なんか、揺花っぽくていいね、それ」
「えへ、そう? あんがとっ。あ、てか最初は、練り香水とかでもいいかも。つけすぎた~ってなりにくいし、そんなに匂い強くないから」
「そうなんだね……じゃあ、そうしてみようかな」
「おけおけ、んじゃとりあえずこれ、試してみよっか。とりま手首かな。耳の後ろとかでもいいけど。これぐらい軽めに付けとけば、自分と、あとは近くにいる人がギリ気付くかな~ぐらいだと思うよ」
「なるほど……」
「で、時間経つと、ちょっとずつ香り変わってくるから、楽しんで」
「うん……すごいね、揺花。おしゃれのこと、なんでもわかってるみたい」
「え? あ~、ん~……そうでもないかも。ブランドのデパコスとかさ、ママの使ってる高っけぇいいやつ、たまに借りたりするけど、あんまし違いわかんないんだよね」
「でも、すごいよ。また教えてね」
「でへへ、任せたまえよ~!」
誰から頼りにされても、そりゃあ嬉しいは嬉しいけどさ。それが露璃からの信頼ってだけでもう、自己肯定感爆上がり。
もち、マウント取ってるみたいに思われたくないし、全然そんなつもりなんてミリもないから、そこは気をつけなきゃなんだけど。でも露璃だったら、なんかなんでも受け入れてくれちゃいそうで、つい甘えが出ちゃう。だからほら、もっと褒めて褒めて! 調子に乗らせて!
「あ」
「え?」
お腹鳴った。はず。
「やば、おいしそうな匂いでお腹空いてきたかも。お腹空かない? いやめっちゃ空いてきた!」
「あぁ、そうだね……ふふっ。そういえばお昼、結構過ぎちゃってたね。どうしよっか」
普通に時間忘れてて。普通に来慣れた場所のはずなのに。家族と来るのとも、友達と来るのとも、やっぱり全然違う、この空気感。
朝の待ち合わせから、もうずっと楽しいんだけど。それなのに、まだ楽しい時間は続くんだって事実だけで、もっとわくわくしてきちゃう。
だって、一日中露璃と一緒に過ごせるとか、それだけでちょっとしたイベントじゃん。
「じゃあさ、ここに入ってるカフェの、盆栽みたいなタピオカがめっちゃ映えで、しかも期間限定なんだって。行ってみよ?」
「そこまで、下調べしてくれてるんだ」
「あ~、あはは……。ランチもデザートも、めっちゃおいしかったから、これは絶対みんなに教えなきゃと思って~! って、パンちゃんが教えてくれたんだよね」
「そうなんだ。じゃあ、楽しみだね」
「うんっ、だねっ」
そりゃ勿論、これからもいっぱいデートしてさ、それが当たり前になって、でも毎回新しい嬉しいことがあって、ってのが理想だけどさ。
その一歩目ってとこで、まずは目の前の腹ごしらえからだよね!
あ~、てかこの後も、露璃楽しんでくれるかな~。一緒に楽しいを、わけわけできるかな~。めっちゃ楽しみっ♪
☆後編につづく!
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