-1:はじまり

「移り気な月が変わらぬ闇を愛するものか」


「君にもそういう宝物が、現れるかもしれないじゃないか。月は姿を変えるけれど注ぐ光は変わらない」


 かつての友は、失った愛する人間と共に朽ちようとしていた。

 哀れな美しい獣。俺の友。

 だが、興味を持った。

 俺を恐ろしい化物だと知りながら、愛するものなんて本当にいつか現れるのか。


血を吸う鬼祖なる者は獣に血を与え、血を吸う獣俺たちを作った。

 俺たちの血を人に与えればどうなる?

 美味い血を持つ人が作れるのか、強い人が出来上がるのか。

 ……血を吸う鬼祖なる者は眠りに就いた。俺たちの役目もしばらくないだろう。

 蝙蝠は仲間も増やした。それに、俺がいなくとも、烏や狼が彼の方の想い美とをきっと見つけるために尽力するだろう。

 ならば、俺は楽しい創造という娯楽をするのも悪くないだろう。

 これは賭けだ。古い友のいうような愚か者が本当に現れるのか試してみよう。

 化物を好きになる哀れな獲物が現れなければ極上の餌として食ってしまえば良い。


「俺の宝物。しっかり育つんだぞ。時間は三百年たっぷりある。俺がお前の一族を守る獣となり、富をもたらせてやろう。さあ、契約を交わそうではないか。お前らの仲から俺を愛する愚か者が生まれるかどうか、楽しみに待つとしよう」

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血を吸う獣と銀の月 こむらさき @violetsnake206

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