隣の暗い女に関する考察および妄想

うみのもずく

第1話

 俺の隣の席の白井さんははっきり言うと暗い。笑顔を見たことがないし、声すら授業で指された時以外聞いたことがない。休み時間はいつも文庫本に目を走らせている。きっと友達がいないのだろう。何とも寂しい話だ。まあかくいう俺も友達はおらず、1人虚しくこんなことを考えているわけだが。


 暗いとは言ったものの、失礼を承知で言わせてもらうなら彼女は顔立ちはわりと整っている方だし、案外皆に受け入れられるのではないだろうか。同じぼっちとは言え、そこが俺との大きな違いである。


 俺は授業を真面目に聞くようなタイプでもないので、よく下らないことを考えて過ごす。隣の白井さんは最近のマイブームだ。彼女のことはほとんど何も知らない。それだけに想像が搔き立てられる。家ではどんな感じなんだろう等の取り留めの無いものが多いが、俺は思春期男子、想像が妄想へと突き進んでいくのも無理からぬ事だ。


 あんなに暗く人を寄せ付けない雰囲気の白井さんにも実は恋人がいたりするんだろうか?全く想像ができないが、だからこそ想像したくなる。我ながら気持ち悪いとは思うが、頭の中で考えるだけなら許されるだろう。……許されるよな?


 白井さんが彼氏とあんなことやこんなことをする姿をいけないとは思いつつも考えてしまう。明るく元気な子のそういう姿よりも、地味で暗めな子の方が興奮するものだ。ふと横をちら見すると、白井さんは真面目に授業を聞いているようだ。頭の中の考えが読まれるはずもないが、少し安心する。


 引き続き白井さんのあられもない姿を妄想する。授業中に何を考えているんだと自身に呆れつつもやめられない。そんな時であった。ふと視線を感じて横を見ると、何と白井さんがこちらを見ている。これは白井さん妄想歴一ヶ月の俺にとって初めての経験であった。まさか妄想がばれたのか?いやそんなはずはあるまい


 冷や汗を流しつつ、おそるおそる白井さんの方を見ると、不思議と視線が合わない。彼女は俺の顔よりもやや下の方に視線を向けていた。まさか。


 そこで気付く。妄想をしたらどうなるか。当然ながら生理現象が起こる。もう一人の僕が屹立していたのである。座っているから周囲からは分からないだろうと高をくくっていたが、白井さんの席からはちょうどよい塩梅に見えてしまっていたのだ。彼女はじっと僕の股間を見つめ、やがて視線を上げた。目が合う。そして彼女は薄っすらと笑った。初めて見る笑顔であった。ああ、白井さんはこんな顔で笑うんだなあ。この笑顔を知っているのはきっと俺だけなんだろうなあなどと勝手なことを思う。俺の愚息のおかげで彼女の知らない一面を見られて少し嬉しかった。息子を笑われたことに少し快感を覚えた気もするが、きっと気のせいだろう。そう思うことにした。

 

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隣の暗い女に関する考察および妄想 うみのもずく @umibuta28

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