黒の歴史は顕現される
れいとうみかん
第1話 プロローグ
桜が舞い散る季節、高校へと入学した
書くと決めてからの行動は早く、その日から早速始めていた。ジャンルは流行りの異世界ファンタジーなら自分でも簡単に面白く書けるのではないかと、この時は考えていたんだ……。
今まで一度も書いたことがないにも拘わらず、俺は自信満々で取り掛かかった。
内容は主人公がゲームのキャラクターと一緒に異世界へ行くという、在り来りなものだ。
タイトルは『ゲームキャラと異世界へ〜でもチートがあるから大丈夫〜』というそれっぽいタイトルをつけた。
登場人物の主人公とゲームキャラは自分が考え抜いた末に理想の設定を盛り込んだ。放課後と休日の時間を費やし、一ヶ月書き進めたことで物語が一区切りつくことができた。
物語をある程度書き終えた時、ここまで無我夢中で書いてきた小説に登場する主人公とゲームキャラを自分の手で描きたいという気持ちが湧いてきた。
絵は小説よりも自信があったため、主人公とゲームキャラの三人を最高の絵にしようと思って描き始める。
しかし、現実はそんなに甘くなかった。理想の絵を描くことが出来ずに時間ばかりが過ぎ、ネットの記事や動画を参考に描き進める日々が続いた。
描き始めて三ヶ月が過ぎようという時、ついに理想の絵を完成させることができた。
小説を書く時間よりも絵を描くことに時間を費やしたことで、季節は残暑に忍び込む秋風を感じ始め、既に夏休みも終わっていた。
自信のある小説に完璧なイラスト、思わず「ぐへへ……」という声がでそうなくらいだった。これなら、ネットに投稿しても人気がでるのではないかという気持ちを抱いていた。
一旦冷静になり途中まで書いていた小説を改めて読み返していると、あんなに自信満々だった小説からは面白さを感じることができず、無駄に長い文章が書かれているだけの内容だと自分自身で思ってしまった。
あの無我夢中に描き進めた一ヶ月はなんだったんだろう。こうして一ヶ月の努力は水泡に帰することとなった。
(なんであんなに自信満々で書いていられただ......)
夢中となって書いていた時は何も思わなかったが、三ヶ月経ち冷静になった今では違っていた。
唯一の救いは主人公とゲームキャラの三人を理想の絵として描くことができたことだ。改めて見ても素晴らしいものと思えた。これだけは大切にしようと心に誓った。
異世界ファンタジーなら簡単に面白く書けるなんて考えていた頃の自分を殴ってやりたい。そうして、手書きの小説は押し入れの奥深くに入れて記憶から消えていくはずだった。
その日の夜、ベッドで深い眠りについていた時、不意に声が聞こえてきた。
「マスター!」
「ソウヤ様ーー」
誰かに名前を呼ばれる声がして、ぼんやりしていた意識が覚めていく。
そこにいたのは、俺が押し入れに眠らせた小説の登場人物でゲームキャラの二人だった。
「……ソリシアとアルニス?」
確認するように二人に声をかける。
「そうですよー。全然起きないので心配しました〜」
「一応言いますが、俺がアルニスで横にいるのがソリシアです」
「え、夢? 俺の絵が夢の中で再現されてる?」
消し去りたい過去だったが、主人公とゲームキャラの絵は自分でも完璧だと思えたから、夢に現れたのかと最初は思った。
「夢じゃなくて現実ですよー! マスターと私たちは異世界に来たんです」
「ええ、そうです。 夢ならこんなふうに痛みはないですよ」
そう言って、アルニスが俺の頬をつねった。
「痛い……。現実なの!? もしかして小説の中に入ったのか?」
そんな馬鹿な! と思い自分の姿を見ると寝る前と同じパジャマ姿だが、周りは木に囲まれていた。
「本当に異世界に来たんですよ! マスターが書いたように」
本当に小説が現実になったのか?
未だに現実を受け止めきれていなかったが、二人に聞きたいことを問いかける。
「仮に現実だとして、どうして俺を知ってるんだ?」
「それは私たちを書いてくれたじゃないですか。一生懸命に私たちの絵を描いていたマスターの記憶がちゃんとあります!」
「そうですよ。ソウヤ様が自分自身を主人公のように見立て、物語を書いていたので名前の同じソウヤ様が俺たちと一緒に異世界に来たんだと思います」
熱心に書いている時のことを二人に知られていたことは。確かに小説の主人公は俺の宗矢という名前からソウヤにしていたが、まさか主人公の代わりに自分が異世界に来るなんて。
改めて、ソリシアを見る。
戦女神ソリシアという俺がつけた名前。
サファイア色の美しい瞳に透き通るような白い肌。プラチナブロンドの髪はポニーテールにしている。
服は白い長袖のブラウスに黒のロングスカートという自分好みで描いた、誰が見ても美人なキャラクターそのままだった。
もう一人の男は聖騎士アルニスと名付けていた。
綺麗なエメラルド色の瞳に肌は白く、銀髪のショートヘア。スラッとした長身と端正な顔立ち。服は白銀の鎧を纏い、所々に黄金の装飾がされている。
本当に二人とも絵に描いた通りの人物だった。
「……二人に会えて本当に嬉しいよ。あの三ヶ月描いた絵が現実になるなんて」
神様、厚かましいですが俺は自分で描いたイケメン主人公にしてほしかったです。
「こうして会えたので、ソウヤ様が俺のために考えた技を披露しましょうか?」
そう言ったアルニスは笑みが口角に浮かんでいた。
なんだって??
「んーごめん、なんのことかな?」
そんな馬鹿な……あれは、、あれは俺の消し去りたい過去なんだ!!
「
やめてくれぇぇぇ!!!
こうして俺は自分が描いたキャラクターの二人と異世界に来てしまったのである。
黒の歴史は顕現される れいとうみかん @yoru_19a
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