第4話 不純な動機
その日の夜、聡の頭の中は彼女で埋め尽くされていた。
「たかぎかや、っと」
スマホの検索画面に彼女の名前を入力して検索してみる。
すると、かなりの検索結果がヒットすることに驚く聡。
「画像付き!?ていうかウィキあるぞ!?」
プロ棋士と女流棋士は制度が違うとはいえ、共に将棋で生計を立てていると言う意味でプロである。
一目惚れ、一思い惚れした相手が思った以上に有名人で社会人であることに気づいてうめく聡。
色々まずいのかな、と思ったときにスマホに通知が入る。
『昼間はありがとうございました。神野さんは将棋は指されますか?』
将棋に関する知識はほとんどない聡。
さらにうめくが、見栄を張ってもしょうがないと思いすぐに返信。
『駒の動かし方くらいです。将棋面白いですか?』
既読になった途端、すぐに返信がくる。
『面白いですよ。是非やってみてください。アプリとかでもできるんで』
『やってみようかな。どうやって勉強すればいいですかね?』
『このサイトとかおすすめです。もしよければ将棋入門の本お貸ししましょうか?』
『あ、嬉しいです。貸してもらえますか?明日大学行きます』
『私も大学行きます。お昼休みに昨日お会いしたベンチでどうでしょう?』
『わかりました、お願いします』
怒濤の如くやりとりをして、ふっと連絡が来なくなる。
(会話終わらせちゃったかな。追撃鬱陶しがられたら嫌だな。どうするかな)
思考が読める分、SNSのやりとりなど思考が読めないコミュニケーションについては下手な自覚がある聡である。
どうやりとりをしたら良いのか考えながら眠ってしまった。
次の日、昼休み前の授業もなかった聡は朝一の授業を終えてベンチに直行していた。
当然、早く着きすぎたため、ベンチに横たわり目を閉じる。
穏やかな陽気もあってすぐに眠ってしまった。
しばらくして、眠っている聡に声がかかる。
「今日もお昼寝ですか?」
「うおっとぉ」
いつの間にか昼になっていたらしい。
待ち合わせした人物がそこに立っていた。
「ここはお昼寝の場所なんですね」
「はい、あ、どうも」
「これ、昨日お話しした将棋の本です」
「ありがとうございます」
将棋入門の本と、詰将棋の本2冊を差し出す伽耶。
寝起きで慌ててつつ受け取る聡。
「……」
「……」
目的を達成して2人の間に流れる沈黙。
聡はようやくここで相手の思考を読むことを思いつく。
「……将棋面白いと思うので、是非やってみてくださいね」(あー、何話せばいいのおお)
「っ」
やはりギャップが面白く吹き出しかける聡。
「?」(あれ、なんか私やらかしちゃった?)
「改めると何話していいかわからないですね」
「ほんとうですね」(ほんとそれ)
「将棋やってみようと思うので、もしよければ教えてもらえませんか?」
「もちろん。聞いてくださいね」(将棋に興味持ってもらうのは嬉しいな)
「やった。プロの人に教えてもらえるなら強くなれそう」
「でも、ご自分でも勉強しないと強くなれませんよ」(あ、余計なこと言ったかな)
「了解です。もらった本とか読んで勉強してみますね」
「それがいいです」(よかった、怒ってない。ちゃんと聞いてくれた)
話が盛り上がってきたところで伽耶のスマホが鳴る。
「すみません、私この後用事があって」(あー、時間になっちゃった)
「いえ、また今度」
「はい、それでは失礼します」(また会えるかな)
頭を下げてその場を去っていく伽耶を見送った。
(やっぱりかわいいな。けど……)
聡の中での伽耶に対する想いはますます強くなっていた。
しかし、2人の仲は想いに対して深くなっていない。
本を借りた以外については前日と殆どおんなじ様なやりとりをしていることを聡は自覚していた。
(次会って話すとして、何の話ができるんだ……?)
うつむき、彼女から手渡された本に目を落とす。
目を背けているが、結論は一つしかなかった。
(将棋するか)
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