第3話 意外な内面
彼女はすぐ見つかった。
知り合いと思われる男性に声をかけられている。
「高木さん、次の時間、講義ないよね?一緒にコーヒー飲もうよ」
「すみません、用事があるので」
冷たく言い放つ女性だが、男性はしつこく付き纏っている。
「この前の対局でききたいんだよね。コーヒー奢るからさ」
「勉強しなきゃいけないんです、すみません」
口調は冷たいが、今一突き放しきれていない。
聡は下心満載の男については思考読む気にもなれなかったし必要も感じなかったが、彼女がどう思っているのか気になって思考を読んでしまった。
(ううう、どうしよう、どうやって断ればいいのー)
一瞬、思考する対象を読み違えたかのような思考が流れ込んできた。
凛とした佇まいの彼女からは想像もできない、テンパりようである。
「こんなところで話していてもさ、疲れるだけじゃん。行こうよ」
「いや、行きません」(チャラいし、そんなにかっこ良くないし)
「ちょっとだけだからさ」
「結構です」(うー、困る。精神力が鋼でできてるんじゃないのかなあ。話が通じないよ)
はっきりと断っているように見えてかなり困っていることが読み取れた聡。
思わず割り込んで助けに入る。
「あのー、すみません」
「何?邪魔しないでもらえるかな?」
「ああ、先程の方ですか」(あ、さっきの昼寝してた人。ナイスタイミング!助けて)
表情と思考のギャップが面白くて、つい吹き出してしまいそうになる聡。
「っ」
「何がおかしいんだい?」
「どうかしましたか?」(あれ、なんでこの人笑ってるんだろ)
「ああ、すみません、これ落としませんでしたか?」
笑いを堪えて、先程拾った詰将棋の本を女性に渡す聡。
「ああ、私のです。ありがとうございます」(え、わざわざ届けてくれたの?すごくいい人じゃん。)
「いえ、追いついてよかったです」
「用は済んだ?じゃあ邪魔しないでほしいな」
「いや、できれば将棋教えてもらおうと思ってたので用事まだあるんですよ」
「将棋指されるんですか?」(しかも将棋愛好家!?将棋好きな人に悪い人はいないよね)
「君、プロに教わるほどの腕前なのかい?」
「いやほとんど将棋指したことがない、ってプロ!?」
思わずびっくりして声をあげる聡。
「高木さんは新進気鋭のプロ棋士だよ」
「女流棋士なので、男性プロ棋士とは違いますが。そして本当に用事があるんです」(なんで私のことをこの人が自慢してるのかしら……無理なのに、どうしよう)
「仕方ないね。高木さん、また今度」
男は今日のところは難しいと判断したらしく、手を振りながら去っていった。
「すみません、絡まれてたみたいだったので割り込んじゃいました」
「いえ、助かりました」(やっぱ助けてくれたんだね。神だわ)
「……」
「……」(あ、えっと、何喋ればいい?あー、もう将棋の話だったらいくらでもできるのに)
「あの、俺神野って言います。名前聞いてもいいですか?」
「ああ、自己紹介してませんでしたね。私は高木伽耶です。女流棋士です。」(あ、私が将棋していることを知らないんだ。それで助けてくれるの普通にいい人じゃない?)
「将棋のプロ棋士なんですか?すごいですね」
「世間でいうプロ棋士と女流棋士はちょっと違うんですが」(将棋指さない人って違いとか興味ないわよね……)
「どう違うんですか?教えてくれませんか?」
「えっとですね」(興味持ってくれてるのかな。どうやって説明しようかな)
会話が弾み出したところで伽耶のスマホアラームが鳴る。
「すみません、本当に用事があって。これで失礼しますね」(いいところだったんだけど……残念だなあ)
聡としても伽耶ともっと話したい。
相手からも好印象なら押しの一手と判断して踏み込んだ。
「あの、よければ連絡先交換しませんか」
「……そうですね、よろしくお願いします」(わー。初対面の男の人と交換しちゃった)
SNSの連絡先を交換して頭を下げて去っていく伽耶。
聡はなんとか目標達成した安堵感と共に彼女を見送った。
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