第2話 二人の出会い
聡は人の思考を読み込む力を持っている。
幼いころから、“よく気がつく子”だった。
しかし、小学生くらいの頃から両親や先生が言葉にだしていない本音を発言するようになり、周囲から気味悪がられるようになる。
ある時、聡が親の(気味が悪い)という思考を読み取ってしまった。
その時、聡は自分の持っている能力が特殊であることを知ったのである。
彼にとっての救いは、同時に親がちゃんと愛情を持っていることも読み取れたことであった。
聡も親が好きだったので、彼らに気味悪がられる様なことはしたくないと思うようになる。
以降、聡は普通な生活を心がけるようになった。
それなりの成績で普通であるようにつとめ、普通の大学生というポジションにおさまることに成功した。
ただ、聡は能力を使うことをやめていない。
ばれないように注意深く使うようになったのだ。
勉強もしない。試験でも教師や周囲の思考を読めばそれなりの成績はおさめられる。カンニングを疑われないように注意を払うくらいが試験対策である。
能力の甲斐あって大学合格。進学と同時に一人暮らしを始め、バイトをしながらゆるりゆるりと学生生活を満喫しているのであった。
ポーカー対決を制し尋問をやり過ごした聡は、休憩スペースから出て構内のベンチがあるスペースに向かう。
聡にとって、人の多い空間は居心地が悪い。
読もうと思わなければ思考が勝手に流れ込んでくることはないのだが、気になると読もうとしてしまう。
結果、知りたくない情報や自分に対する悪感情などを知ってしまい憂鬱になることも多いのだ。
目標のベンチに到着し、昼寝でもしようかと横になろうとする聡。
と、そこに一人の女性がやってきた。
(うわ、美人だ)
シンプルな服装に、長く黒い髪を後ろに束ねている。
少しキツめだが凛とした眼が印象的な整った顔立ちの美人だ。
彼女もベンチを目標としていたらしく、横になりかけた聡と目があった。
「すみません、人がいらっしゃると気づかず。お邪魔してしまいました」
「いえ、こちらこそなんかすみません」
美人の登場に落ち着かない聡。
彼女は謝ると踵を返し、颯爽と立ち去っていった。
(あー、しまった、少しだけでも思考読んでおけば良かった)
好みのタイプすぎて、思考を読むことを思いつかないほどテンパっていた聡。
後悔していると、目の前に一冊の本が落ちていることに気づく。
(『実践詰将棋7手詰〜15手詰』。詰将棋の本か?)
聡は将棋をほとんど知らない。
小さい頃に駒の動かし方を本で読んで知っている程度で真面目に取り組んだわけでもない。
(将棋も対人系のゲームだもんな)
相手の思考を読むことができる聡にとって、ポーカーなどの対人系ゲームはかなりつまらない。
刀とライフルくらいの戦力差はあると思っていて、事実勝負にならないのである。
(これ、さっきの子が落としたのかな。……もしかして、これお近づきチャンスか?)
近づくきっかけを得た聡は、本を片手に彼女が立ち去っていった方向に向かって走り出した。
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