第3話 苔と呼ばれて

目がさめて、白い天井が見えて、すぐに起きあがろうとした、起きれなかった。

点滴が見えてここは病院なのだと直感した。

気付いた突端に様々記憶が流れ込んでくる。

そうだった、自分はこの学園の生徒で、本名は◼◼◼◼

学園名は樹原 東樹(きはら とうき)だ。

何故寝ているのか、思い出すこともできた。

あのよくある脚本設定のせいだ、学校にテロリストが入ってくるなんていう妄想がよくあると思うが、自分はそれに巻き込まれた。

クラスメートの1人が考えたことが実際に起こるという能力を持っていたから、

そいつがきっと考えたのだろう、急に学校にテロリストが突っ込んできた。


でも別に負けるわけがない、なぜなら自分のいたクラスの生徒は皆、主人公補正を持っていた筈で、自分も含めて死ぬことなどほぼあり得ないに等しかった。

そこで使われたのは多分「転生ひまわり」だったのだろう。

主人公補正があるやつが転生しやすい、何事かに巻き込まれやすいというのはこの世の常である。



廊下からバタバタと足音が聞こえてくる。

ドアがガラリと開き白衣の男がこちらを見ている、あり得ないという表情をしていたがすぐに優しげな表情に切り替え質問を繰り出す。

「はじめまして、君はどうしてここにいるかわかるかな?」


はい、テロリストに占拠されて、多分転生ひまわりつかわれて…


「…………」声が出なかった。


「あ〜!そうだった、10年以上植物状態じゃはなすのも厳しいか、喉の筋力が衰えてしまったみたいだね、念話はできるかな?あそこの生徒さんならたしか使えるよね」


念話…懐かしいスキルだ。

アニメ学園では1年で習う必修スキルだった、よく友人たちと授業中に念話で話していた思い出が蘇る。


「…はい、念話使えます。…」


「…よしじゃあまずは話すんだけど、、、…」


医師先生の話の内容を要約すれば

自分を転生させたのは転生ひまわりで間違いなかったこと。

転生している間に12年の時間が経ってしまったこと。

他にもまだ目覚めていない子もいること。

自分は目覚めたら、そのまま学園に戻れるということ。


学園に戻れるというのはとてもありがたい話だった、12年も眠ったままで、いつ起きるかわからない生徒など退学があたりまえだし、学園に戻れるというのはとてもありがたい話だった、12年も眠ったままで、いつ起きるかわからない生徒など退学があたりまえだし、そのままどこかの施設で一生を過ごすことにでもなれば、死んだのと何も変わらないからだ。

「それで、僕以外の生徒たちは? みんなどうなっているんですか?」

「それは……私も詳しくは知らないんだ」

「……え?」

医師先生は先ほどよりも申し訳なさそうに話を続ける。

「私は君の担当だからね、他の生徒には他の先生がついているから」

「でも、」

「そもそもこの病院にいない子もいるからね、ごめんね。欲しい答えをあげられなくて」

「全然いいんです!」

800年も異世界で生きてきた筈だった、だんだんボケてきてうまく物事を認識できなくなって、病気なのか何なのか呼吸があらくなって、久しく症状がおさまって自分の見た目が気になって、弱々しく鏡を持ち上げて見てみれば見たこともないしわしわの顔が汗ばんでいて、気づけばぽっくり死んでいた。


精神だけ転生して長く生きてもあんまり自分は変わらなかったみたいだ

「それじゃ、これからリハビリ頑張ろっか!」


リハビリは大変だった、足も手も最初はほとんど動かなかった。

沢山転びかけたし、そのたびに医師先生もといユヅキ先生がサポートしてくれて1週間である程度歩けるようになった。

アニメキャラの回復能力の速さのおかげなのか眠り続けた12年なんてものはなかったかのように病院の庭を翔けることができるようになった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界で、異世界を作る。 なうもち @now181210

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ