第2話 きらきら星とキラキラガール 

学校へ向かう通学路、を走る車の中から見ていた。


「自分は…ちゃんとできるだろうか」


声はつたなく、どこか儚さを感じさせる青年はそう不安を口にした。


「私は、光輝様ならできると思っています。」

「うん…」

「心配なのは仕方ありませんが相手は違法薬物に手を出した輩ですから、そのようお顔をしては相手に見くびられてしまいますよ。

私は貴方様を応援しています。」


大きく息を吸い、吐いた。

自分を学園の星である”光輝”に変えるため気合を入れるのだ。

毎日車の中で行う日課である。

彼の気持ちなどお構い無しに学校へと向かう車の中に居る彼が街路樹で見えなくなった瞬間だった。



変わる、目に無数のハイライトがはいる。

黄色い星形のハイライトが特徴的な青い目だった。

夜空の色をした髪がラメを振りかけたように

満天の星空のように輝く。

先ほどまで憂鬱そうな顔をした青年はもう

どこかに消えていた。



「俺が世話をしてやるその輩、話が通じる者だとよいな。

どちらにせよ、俺は輝き続けるが。」


「まったくそのとおりでございます。」


車が止まり執事が車のドアを開ける。

俺を待つ歓声、車の中ですら目立っていた紺色の短髪が陽光を浴び蒼天のように輝くどこからともなく現れた薔薇の花弁が自身の肌の白さを引き立てるように舞う

女生徒の甲高い悲鳴にも近い声が響き渡りさながらその様子は乙女ゲーや夢小説のよう


というのも、どうしてこのような場面ができるのか

いくらイケメンだろうが絶世の美貌を持っていようが学校に入った瞬間に

薔薇の花弁が舞い、女生徒の悲鳴が飛び交うというのは創作物の中のエフェクトにすぎない。


ここは通称、アニメ学園


立派なキャラクターになるために日々学生たちは切磋琢磨する。

己を磨き、主役の座を奪い合うそんなところ。


俺もまたその学園の生徒である。


今日は、とある1人の生徒を迎えることになっている。

なんでも違法薬物「転生ひまわり」の症状から回復した男の面倒を見るように言われたのだ。


転生ひまわりはその名の通りで転生したような夢、幻覚を見る毒を持つ植物、年々転生ひまわりに関連する事件は増えており、死者も多い。


そんな中、12年も目覚めなかった1人の男が偶然奇跡的に起きた。

彼はアニメ学園の生徒であり、当時は優秀な生徒であったと聞く。


正直、面倒事を押し付けられたという他ない。


だってそうだ。俺はすでに1人、面倒事を押し付けられている。



「おっはよ~ぉ!」

この耳障りな声の持ち主は花蕾 砂糖(からい さとう)

名前すらもう面倒、書きにくいし読みにくい鬱陶しい。

髪の色も目の色もオーロラ色で目に優しくない、夜の空にかかるオーロラ。

カメムシ色と言ったら頬を叩かれるし酷い。


「無視か~?考え事か~?」

「この星である俺の隣に居ることでより輝く魂胆か。」


思ってもない、輝くとかどうでも良い。

絶対そんな魂胆ないし


「そんな魂胆はナッシングとぅまっち!

allなっしんぐ!!」

「全く無いということか」

「そそ、ない!」


会話に知能が感じられん、そもそもnothing too matchはあまりそんな感じじゃないよ。ってことだし、少しはあるってことじゃないか。絶対意味わかって使ってないだろ。


「そもそもなぁ、気難しいこと考える光輝の近くに居たところで気難しい悪口言われるから隣に居たい奴なんてそうそう居ないよぉ」


「脳みそがマシュマロの小娘に言われたくないな」

「えへ~、脳みそマシュマロになったげようか」

「なるな、俺は甘いものが苦手だ」


好きです。甘いもの好きです。

学園内じゃキャラにならなきゃ駄目だから断ったりするけど飴玉ちゃんを部屋に常備してます。


「おぅ、そぉだぁ!今日は例の男の子が来る日だから緊張してるんだ!だからきらきら星になりきれてないんだ~!超人間味~」


「お前のような問題児をまた任されるかも知れないと思うと輝けないだけだ。」


そうだよ、いつもより輝き2割ダウン中だ。

本当に問題児だったらどうするんだよ。

コイツはまだマシだよ。


この学園は小動物に優しくないタイプのヤンキーとか世界の終焉司る奴とか腕がカッターの病み野郎とか居るけど実害ないだけコイツはありがたい。


「考えてること超絶くらすめーとに失礼かもだけどわかりみふかふか~」


多分とてもよく理解できると言っているのだろう、ふかふかってなんだ。

やはりコイツはマシュマロだ。



廊下を歩き、その生徒の待つ空き教室の前に来る。


「さてそろそろ御対面だ。

どんな野郎だか面を拝ませて貰うとしよう」


「野郎だなんておくちわるだね。」


やけに重い両引き戸を開ける。


先生が居る、先生の隣に窓の外を覗く少年が居る。


自然な緑色の髪、その色から原生林に生える美しい苔を連想してしまうが、自分の例えは人を不快にさせる場合があると花蕾が来たときに知ったので言葉を飲み込む。


「来ましたか、光輝くん。」

先生がこちらに来るように手招きする。


「さとうさんも一緒なんですね。」

「いっしょだよ!」


先生がその生徒に耳打ちすると彼はこちらに向き直した。


「初めまして、お世話になります。」


この挨拶だけでわかる、まともだ…



「この子があの噂のこなのぉ!?

ヤクやっちゃったってゆう!?

ぜんぜぇんみえないんどけどぉ!」


マシュマロがうるさいが気にしない。


「俺は光輝だ。この学園で優秀ということはかなりクセの強い人間が来ると思っていたが中々まともなようだな」


「貴様の面倒を見ることになっているからよろしくな。」


初対面の相手に上から目線なのは失礼だと知っている、でも自分はこういうキャラなのだから仕方ない。


「それじゃあ光輝くんよろしくね。」

そういうと先生は教室から出ていってしまった。


「ねぇねぇ~苔くん行こう!学校案内だよッ!!!」


花蕾はまるで散歩に行くと声をかけられた散歩好きの犬のようにはしゃいでいた。


「こっ…こけって僕ですか…?」


困惑するのも仕方ない、自分も最初は悩みましたし物凄く困り果てましたし役を引き受けたことを物凄く後悔しましたよ。


「貴様のことだろうな、この女…花蕾は変なあだ名を勝手につけるし変な行動ばかりとるが割といい奴だ、困った時などに俺が居なかったらコイツを頼ると良い。喜ぶぞ。」


「さぁ頼るが良ぃこけくん!!!」


「じゃあ案内をお願いします、花蕾さん」


コイツ適応力良いな、流石当時この学園で優等生だったというだけはある。

なろう系やギャグ漫画、高嶺の華とか幼なじみの女の子とのラブコメ漫画に出てそうなさえない主人公感が凄い滲み出ている。


「花蕾さんだって!良い響き!!さいこう!!」


しかしその自然な姿もきっと演技なのだろう、立派なキャラになるためにはキャラ付けが大事だが要素が多すぎても困る。


「あの、……光輝さん?」


だからこそ無駄を削りきったようなタイプ

どノーマルな顔や性格の主人公はキャラ付けしやすいために古今東西のアニメや漫画で人気なのだろう。


「あの!」


「おっと、すまない。少し考えごとをしていた。では行こうか、この学園を案内するよ。」







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