第57話 VS神

 何処までも続く白く広い空間、そこには巨大な柱のみが存在していた。


 その場所の中心であろうか、巨大な椅子に腰かけ、頬杖を突く人物が鎮座していた。


「こんにちは」


 その人物に対し、気軽に声を掛ける。


 声の主に対し、上空から雷が降り注ぐ。轟音の後、焦げ臭いにおいが辺りを漂ってくる。


「随分なご挨拶ですね」


「ふん、偽善者が何を言うか」


 いきなり攻撃を仕掛けて来たのはこの世界の神、攻撃を受けたのは渉であった。


「偽善、ですか?」


「違わないだろう?何せ艦隊や軍事基地を破壊しておきながら、人だけ別の惑星へと転移させておる。何故殺さぬ、偽善者以外の何者でもあるまい」


 そうこの世界の神の中心である人物は渉に問いかけた。顎に手をやり考える様子を見せながら渉は答える。


「生かすことが偽善とお考えならば間違いでしょう、それは整った環境であればこそです。俺が彼らを運んだ星には該当しません。文明に慣れた人々は、あの環境自体がかなり過酷な事となるでしょう」


「殺す方が何倍も楽であろう」


「殺すのは簡単でしょう、ですが生かしておくことで何倍も苦しむこともあります。殺してお終いは俺の主義では無いのです」


「して何用だ?」


「もちろん貴方に灸を据える為に来ました」


 我が国の神々が、他国の神々より受けた依頼を完遂するため、そのために渉はここまで来ていた。


「面白い事を言うな、神である我に対し灸を据えるとな?」


「ええ、地球の神々からの依頼ですから」


「地球、か。何故あのような星が有るのだ?一つの惑星に飽和した神々、あの星は一体なんだ」


「さて何でしょうね、私は知りたいとは思っていません」


「ふん」


 そう答えると、正面に座る神は手を頭上に掲げ、真下へと振り降ろす。


 どこから現れたのか、それとも取り出したのか。気が付けばその手に剣が握られており、振るった剣から放たれた衝撃は空間を切断していた。


 渉は右足を軽く円を描くように後ろへと引く、半身だけ身体をずらすと空間切断を回避していた。


「あっさりと躱すではないか」


「ははは、あの程度であれば当然躱しますよ」


「ならばコレでどうだ」


 ニヤリと笑いかけると今度は真横へと剣を振るう神、避けるならば上か下であるのだが、渉の視線の端には次の攻撃準備を整えた神の姿が写っていた。


 避けた方向へと次の一撃を放つ準備をしている。


 ならば、と渉は足を振り上げその衝撃を蹴り飛ばす。とてつもない衝撃が生まれ、辺り一面に衝撃波が生まれる。


 この場に別の人物が居れば、その衝撃波だけで吹き飛ぶどころか死んでいただろう。


 だが、空間を割る程の威力を軽く振り上げた足で蹴り飛ばした渉の足には傷一つ付いていなかった。精々靴に傷がついた程度である。


 次を仕掛ける準備をしていた神は目を見張る。


 軽い動作であっても込めた力は自身の半分に及ぶ力であった。それをあっさりと退ける渉に思わず椅子から立ち上がり、構えを取る。


 素早い連撃、今までの様な手加減を加えることは無い。


 自身の出せる力を目いっぱい乗せ放つ。


 しかし渉に通じない。


 体捌きで交わし、手足でいなしていく。まるでここに攻撃が来ると予測した動き、発生した衝撃波のここを叩けば逸れていく、それがわかった動きであった。


 神の連撃は加速していく、しかしどの攻撃も当たらない。


 ならばと衝撃波に合わせ、天より雷を落とす。


 だが…。


 それすら渉は予測しており、躱していく。自然体のまま、のらりくらりと躱している。


「貴様は、貴様は一体なんなのだ!?」


「それは俺が聞きたい」


 休めることなく攻撃を続ける合間、思わず渉に問いかけるもあっさりとした返事であった。

 忌々しそうに渉を睨みつけるも攻撃の手を休めない。


「そのような力!地球の神々は何故貴様に持たせておるのだ!」


「だから神々に聞いてくれと言っている」


 涼しい顔で攻撃をかわし続ける渉。


「我はこの世界の神ぞ!!」


「そうですね、ですが…」


 攻撃を躱し続けていた渉が此処で初めて構えを取った。次の瞬間。


「我々の世界の神ではない」


 その言葉は神の耳元で発せられた。


 ぞくりと背筋にはしる冷たさ。


 先程迄正面に居たはずの渉が神の背後に居た。


「何かやるのであれば自分の世界だけにして下さい。唯でさえ自身の世界に干渉ししぎているのに、他の世界にまで干渉するとは、神としてどうなんだって話ですよ」


 冷汗がとまらない。神である身がこれほどの恐怖を感じるなど有り得ない。


 渉が耳元度で囁く言葉一つ一つが恐怖を煽っていた。


 すでに勝負は決している。


 どうあがいても勝てる相手では無かった。


 自身の存在を否定するかのような相手。


「本当に、何故貴様のような存在がいる……」


 この世界の創造神である自分が、こうも手玉に取られるのだ。自分の部下である神々を呼び寄せた処で結果は変わらないだろう。


「何度でも言いますよ、それは私を作り出した神々に聞いてください」


「神々の飽和した星の神にそこまで力が有るとは思えぬ」


 曲がりなりにも創造神である。そんな存在を手玉にとる者をつくりだすなど本来なら考えられないのだ。


「さて、それは正解であり間違いでもありますね」


「……どういうことだ?」


「我々の世界、星である地球ですが確かに神と呼ばれる存在が多い。ですがイコール力が弱いという訳では無いのです」


「何だと?力の弱さを数で補っているのでは無いのか」


「いいえ、その考え自体が間違いですね、力ある神がほとんどです。それこそ貴方程度であれば地球では中の中程度でしかありませんよ」


「我は創造神ぞ」


 渉の話を聞いて思わずそう答えてしまう神。


「何といえば良いのか、あの星ってとてつもなく神話が多いんです。これは俺の考え何で無視してもらってもいいですが、当時の地球は神々の遊技場だったのではないかと思っています。多くの神々が集まり、話し合ったり戦ったり、その中には力ある神も力無き神もいたでしょう、当時の人類にはその光景はまさに天変地異、そんな神々が好き放題した結果、神話だけが残った。そんな星だと思っています」


「……」


 渉の話を黙って聞き続ける神。そんな星があってたまるか、そんな考えに及ぶも、事実あの星には多くの神々が居る。それは否定できないのだ。


「我々の世界には多くの伝承が残っており、その中には神と共に暮らす人々の伝承もある、現代でも判明していない謎が多い。神の存在を示唆していても、その存在を認識している人は少ない、それは神々が干渉をやめたからとも言われている。俺自身もそんな多くの人々の1人だったくらいだ」


「何故だ、何故干渉を止めた?何故今回は干渉してきた?」


「干渉を止めた理由は解らない、だけど今回干渉してきた理由はわかる。それは同じ神である貴方が我々に干渉してきた他ならない」


 背後からのプレッシャーが強くなる。


「別世界の神に自身の世界を荒らされる。それは神のプライドに関わる事じゃないのか?」


 確かにその通りであった。自分が良かれと思って作り出した世界、そこに横槍を入れて来られれば自分でも怒るであろう。


「あ~、時間切れ。かな…」


 突然背後からのプレッシャーがなくなる。思わず倒れ込みそうになるも何とか踏み止まったのだが、背後に感じていたプレッシャーを遥かに超える何かを感じ取ることが出来た。


「灸を据えるのは俺の役目じゃなかったんですか?」


 そんな渉の台詞に答える者が居た。


「そう言うな、オレだって最後まで我慢するつもりであったのだが、中国の神がなぁ…」


「いやいや、それ絶対言い訳ですよね?インドラ様直々に迎えに来るなんて、このつもりですか?」


「それも一時は考えたがな、天照の視線がなぁ、あの冷めきった視線がきつかったから考え直した」


「あぁ~考えたんだ…」


 気軽に話始めた1人と1柱であったが、この世界の神は身動きが取れなかった。


 会話の中に出て来た台詞。銀河を割る、それも正面の神であれば可能であろう。それほどまでの力を感じていた。


「わざわざここ迄出向ていいらっしゃったのであれば、俺はお役御免でいいのでしょう?」


「おう!後は俺に任せて戻っていいぞ」


 渉は巣の言葉を素直に受け取ると、地球へと帰還する準備を始めた。


「さて、この世界の神よ。少々俺に付き合ってもらうぞ」


 背後に聞こえたその台詞を聞き、身震いしながら渉は思った。


 きっと俺なんかよりきっつい仕置きが待っているのだろう。


 ちなみに神々の少々は年単位である。






 

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イセカイカ しだゆき @nbtmms

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