iPhoneに向かって正座する妹

そうま

 

 晩ご飯の後、リビングでくつろいでいると、ダイニングテーブルの席に着いていた妹が、椅子の上で正座を始めた。

 YouTubeで動画を再生していた私はそれを一時停止し、イヤホンを装着して目を閉じている彼女を見た。20分ほどして、彼女は目を開き、足をくずして、椅子に座りなおした。


「何してたの」


と、さかんにスマートフォンの画面をスワイプする彼女に聞いてみた。彼女は耳からイヤホンを外して、


「音楽聞いてた」


と返事した。ということは、音楽を聞くためにわざわざ正座したということか。


「なんで正座なんかしてたの」

「てきとうな気持ちで聞きたくないから」


彼女は当たり前のように言った。はて、わが妹は音楽にたいしてそこまでこだわりがあっただろうか、と疑問が浮かんだ。



 別の日、いつもと同じようにリビングで食後を過ごしていた。トイレから戻ってきた時、妹はテーブルに着いて、イヤホンを耳につけていた。しかし、今度は正座はしていない。爪を切りながら、となりには食べかけのポテトチップスの袋がひろげてあった。テーブルの上のスマートフォンの画面には、なんらかの音楽を再生している表示がされていた。


「いいの?正座しなくて」


 イヤホン越しでも聞こえるように少し大きい声で言うと、妹は、


「てきとうに聞いてもいい曲だってあるじゃん」


と返した。ずいぶんな態度のリスナーだ。



 また別の日。夕方に帰宅すると、リビングのソファで妹が寝転がりながら本を読んでいた。有名なミステリ小説だった。


「名作を読んでいるわりには、だいぶ適当な姿勢じゃないの」


 妹は私に向かって読んでいた本を投げた。

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