第6話 エドワード・ザクセン=コーブルク=ゴータ①
今年の2月25日から始まった、諸外国親善訪問は五か国目を迎えた。
イタリアだが、国王との面会は三分程度で終わった。
今の俺は世界の爪弾き者状態だ。
迎え入れてくれるのは昔からの知り合いのみ。
逆境にある時、付き合ってくれるのが真の友人という。
逆境にある俺を迎えてくれる、オーストリア皇后エリーザベトは真の友人だ。
「いや、さすがの私も、例の件は擁護できないわよ。というか、何やってんのアンタは、って話よ」
「め、面目ない……」
例の件というのは、俺が通っていたハリエットという準男爵婦人が、夫から不倫を理由に離婚裁判を起こされた件だ。
生まれた子供が夫の子供でない、ということを理由に離婚裁判を起こされ、そこに通っていた男ということで俺も出廷することになってしまった。
不倫騒動に皇太子が絡んでいたということで世間からは非難轟轟。
出廷後すぐほとぼりを冷ますために諸外国親善訪問に追い出されてしまったが、相手国もそうした事情を知っているから扱いが悪い。
俺の子ではないんだ、俺の子では。
ただ、俺が証明できるのはそれだけだ。通ったこと自体は事実だし……
「イギリスではこの機に女王が死んだら王室を廃止すべきだ、みたいな話も出ているって新聞に出ているわよ」
「それは新聞記者どもが騒ぎ立てたフェイクニュースだ」
いや、実際にロンドンでもそんなことを書かれているのは事実らしいが。
針のむしろとはまさにこのことだ。
「自業自得よ」
エリーザベトが冷たい視線を向けながら、溜息をつく。
「全く、メキシコから逃げ帰ってきたマックスといい、バーティーといい、リンスケの抱える委員はダメ王族の集まりの様相を呈しているわね」
「くっ、そんなことは……」
「あと、誰がいるんだっけ?」
「トルコとロシアの皇太子と、前アメリカ大統領だったかな。あと、アジアも誰かいたかもしれないが、一々覚えていない」
「ニコライは結構立派よね。トルコの皇太子もオーストリアにいる2人よりはマシか」
いや、シシィ姉はアブデュルハミトの暗さを理解していないから、そんなことを言えるんだ。
というか、あっちの世界は妻が四人まで持てる。羨ましいなぁ、と今更ながら思う。
「どうすんの? 今からギリシャに行くの?」
「いや、まだ大会まで3ヶ月もある。仮にもプリンス・オブ・ウェールズがギリシャで3か月も4か月も時間つぶししていると、それはそれで問題になる」
「戻る頃には元プリンス・オブ・ウェールズになっているから問題ないでしょ」
「うわああ!」
だ、大丈夫なはずだ。
現在の首相はグラッドストンだ。
あいつは、俺と同じで女王から嫌われている。
女王のお気に入りのディズレーリであれば俺を見捨てるかもしれないが、グラッドストンとは嫌われ者同盟で仲良くやっている。今回も、「殿下、ほとぼりを冷ますためにしばらく諸外国を訪問しましょう」と勧めてくれたのはグラッドストンだ。
多分、何とかしてくれるはずだ。
しかし、グラッドストンからの連絡が何もないのは気になるな。
グラッドストンだけではない。母はもちろん、アレクサンドラからも手紙も電報の一つも来ない。
ロンドンでは現在、何が起こっているのだろうか?
ロンドンのことも気になるが、あと3か月ほどをどうしようか。
スエズ運河が出来たというし、エジプトに視察に行こうか。
ついでにトルコに行ってもいいが、アブデュルハミトからも「馬鹿な奴だ」と冷たい目をされるだけだろうからなぁ。あいつに馬鹿にされるのは悔しい。
「フランスに行ったら?」
「いや、フランスには行きたいんだけど……」
俺個人としてはフランスに行きたいが、グラッドストンはじめ政府の全員から「フランスとブロイセンには絶対に行くな」と言われている。
というのも、俺がブロイセン嫌いなのをみんな知っている。フランスに行って、反プロイセン発言をしたり、プロイセンに行って喧嘩することを恐れているわけだ。
「あぁ、分かったわ。要は」
シシィ姉がにこやかに決め顔で言い放つ。
「バーティーは世界の爪弾き者ということね」
「やめろぉぉぉぉ!」
そんなことはない!
そんなことはないはずだ!!
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