第11話 燐介のイタすぎる1日①
翌日、俺はエドワードに連れられてイードアンドレーヴェンスクロフトにいた。
17世紀に作られたロンドンでも屈指の老舗ブランドだ。
「こいつにビシッと似合う服を仕立ててやってくれ」
というエドワードの声とともに、専門の仕立屋が寸法を測って、服を作っていく。
本当に3万ポンドがポンと入ってきた。
しかも、これが最後というわけではない。むしろ、これは始まりに過ぎない。
今後イギリス、アメリカ、フランスで工事がなされる度にライセンス料が入り、その3割が俺の取り分になる。
なるほど、ノーベル賞なんて出来るわけだ。凄い金だ。
ルートヴィヒに頼らなくても自前でオリンピック開催に行けそうな気もするが、その前にやりたいことがある。
つまり、これは俺が佐那と琴さんに対して名誉挽回を行う最大のチャンスなのだ。
ここで、ビシッと佐那をエスコートして、「燐介はやる時はやるのだ」ということを見せてやるのだ。
問題はその独り言をエドワードに聞かれてしまったことだ。「(将来的には)101人の愛人と寝る男」なだけに「俺に任せろ」と色々プランを練っている。
王室ご用達の最上級職人も、こいつなら顔が効くだけに有難いのか厄介なのか……
「買い物はハロッズとフォートナムアンドメイソンがいいだろう。何なら貸し切りにするか」
「いや、それはさすがにやり過ぎだろ……」
「最後はロイヤル・オペラハウスの最上級席でオペラ鑑賞だな」
「今は何がやっているんだ?」
尋ねると、エドワードはどこから持ってきたのか、資料を開いて探している。
「ヴェルディの『リゴレット』だな」
「それって良いムードになりそうなオペラなのか?」
「呪いと悲劇がテーマじゃなかったかな?」
「おい、こら」
こういう時は甘いムードの演劇を見るのが自然だろうが。
呪いと悲劇がテーマの演劇を見させるんじゃないよ。
そもそもオペラって大抵が悲劇だった。デートには向かないだろう。
そうこう二時間。
「よし、まずスタートはバーバリーだ」
現代でも有名なバーバリーブランド。そこの仕立職人トマス・バーバリーに時間を空けてもらい、色々な服をデザインしてもらう。
「で、午前中はフォートナムメイソンに行き、そこで食事だ。午後になったら、ハロッズに行ってショッピングさせるといい。それが終わったら、シンプソン・イン・ザ・ストランドに行って、ゆっくりアルコールを楽しみながら優雅なひと時を過ごす。これで決まりだ」
「どのくらいかかるんだろう?」
「貸し切りをしないから500ポンドあれば十分だろう」
500ポンドと気軽に言っているが、昨日までなら考えられもしない金額だけど、な。
宝くじで大金が当たった人間が破産するなんて話をよく聞くけど、こんな調子でやっていると本当にそうなるかもしれないな。
まあ、ここまでやるのは今回だけ、ということで。
準備が整ったので、早速、佐那と琴さんに電報を出す。『次の土曜日は1日一緒に過ごそう。朝8時に迎えに行く』と。
2人からは『分かった』と返信があった。
土曜日の朝、俺はイードアンドレーヴェンスクロフトから届けられたタキシードのようなスーツを着て、エドワードが用意してくれた馬車に乗り込み、佐那のいるホテルへと向かう。「外国の要人の出迎えに使う馬車だ」というだけあって、装飾も大したものだ。
それをホテルに乗り付けると。
「えっと、燐介……。これは……?」
玄関にいた佐那の目が完全に点になっている。
「もちろん、今日のために用意したのさ」
と答えると、佐那は中を覗き込むように首を動かす。
「殿下かアブデュルハミト様がいらっしゃるのですか?」
「何を言っているんだ。今日は俺が君のために用意したんだよ」
予想した反応とちょっと違うが、確かに王族でもない俺がいきなり豪華な馬車で来たのだから驚くのは無理もない。
佐那は後ろにいた琴さんとけげんな顔をしながら、話をしている。
「あ、借金なんてしていないよ。事業が大当たりしたんだ」
事業と言って良いのかは分からないが、まあ、今後も継続してライセンス料が入ってくるから、別に間違ってはいないだろう。
俺の話は無視されているようで、琴さんが首を傾げながら言う。
「邪魔にならないようにするから、私もついていっていいかな? 護衛もいるだろう?」
「あ、それはもちろん、大丈夫ですよ」
どうやら、琴さんもびっくりして、どんなVIPデートになるか見てみたくなったのだろう。
もちろん、琴さんも見返すチャンスだから断る理由はない。
「じゃあ、まずはバーバリーに行こう」
「バーバリー?」
佐那も相変わらず首を傾げている。
「そう。せっかくだから、いい服をプレゼントするよ」
「……燐介、おまえ、頭を打ったわけではないですよね?」
佐那はしきりに首を傾げている。
「もちろん。俺はいつも正気だよ」
「……それなら構いませんが」
依然として佐那は不思議そうにしているが、反対はしなかった。
よし、豪華デートの始まりだ。
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