第9話 発掘成功

 この発掘におけるプロイセン隊の士気は、正直それほど高くなかったように見えた。


 無理もない話だ。そもそも、遺跡の存在が半信半疑だったし、駆り出された理由も理由だ。


 バイエルン王が急にやる気になったことで、バイエルン王推しのビスマルクが博物館に圧力をかけ、結果編成されたというわけだからな。


 それでトルコまで行くとあっては溜まったものではない。


 しかし、実際着いてみると考古学者達には何かしら分かるものがあったのだろう。急にやる気になって発掘を始めて、三日で早くも遺跡の一部を掘り当てたという。



「これは本当に大昔の遺跡かもしれない」


 彼らは大喜びで、ベルリンとミュンヘンに向けて電信を送っている。


 彼らは遺跡の何か所かをスケッチにしている。21世紀なら全て写真に撮るのだろうが、この時代はそういうわけにはいかない。


 スケッチを何枚か渡された。


「これを成果物として、宰相閣下とバイエルン王にお渡しいただきたい」


 と、責任者である俺に渡してくれる。



 うーん。


 いや、まあ、凄いものなんだろうけれど。


 これを見てルートヴィヒが「やったぞ!」って言うかな。


 実際にトロイアまで来て、この遺跡を見ればまあまあ面白いとは思うが、これにしても本人の趣味と適合しているかは分からないし。


 これは、とりあえず先にビスマルクに見せた方が良いだろうな。


 先にベルリンに立ち寄るとなるとかなり遠回りにはなるけれども……



 ということで、学者達には引き続き発掘を任せて、俺は一回ドイツに戻ることにした。


 東ヨーロッパのあたりは鉄道がないから移動に時間がかかる。およそ10日かけてミュンヘンに戻り、そこからベルリンに向かう。


 既に電報は届いているから、ビスマルクを呼ぶとすぐに現れた。


「随分と簡単に見つかるものなのだな……」


 自分達の手配が報われたから嬉しいはずなのだが、ビスマルクは今日もムスッとしているし、俺に対しては呆れるような、警戒するような視線を向ける。


「わしは考古学には詳しくないが、そんなものなのかね、ヘル・ミヤチ?」


「いやぁ、どうなんだろう。ルートヴィヒの勘なんじゃないか?」


 どうも俺が一発で場所を当ててしまったものだから疑っているようだ。


 いや、でも、割と分かりやすい場所にあるだろ。海に面していて、丘になっていたし。


 とりあえずルートヴィヒの手柄にしておくと、「そういうものなのか」と納得したようだ。


「で、これが見つかったものというわけか」


 と、遺跡のスケッチを眺めている。


「……わしにはよく分からん。博物館のレプシウスに見せてくれ」


 非常に正直な答えが返ってきた。


 まあ、そうだろうな。


 ベルリン博物館の人に聞くのが一番早いだろう。



 博物館に行って、副館長のレプシウスに見せることにした。


 こちらも電報の情報は既に届いているので、手ぐすねを引いて待っていたという雰囲気だ。


「どれどれ……? むむっ!?」


 スケッチを見た途端に、目を大きく見開く。


「電報を見ても半信半疑だったが、本当にあったのか……」


 たちまち、秘書らしい人物を呼び寄せる。


「こうなると私が陣頭指揮を取らなければならん。トルコに行く準備を本格的に進めるように」


 そう命令を出した。


 あれ、この人、自分はエジプトが専門だからギリシャのことは分からんと文句を言っていたような。


「エジプトがギリシャ系だった時代もある。これだけの遺跡があるとなると、あの若僧共では心もとない。責任者として私が行かなければ……」


「えぇぇ……」


 自分はエジプト云々というのは、サボる口実だったということか。


 偉い奴は信用できないなぁ。


 ともあれ、レプシウスが本気になったことで、ベルリンでは評価が確定したようだ。



 この成果は、次々とベルリンの新聞などに載ることになった。


 これがミュンヘンの方にも伝わって、ルートヴィヒも成功したと分かったようだ。


 ただ、ベルリンからミュンヘンに移動して、ルートヴィヒに見せた時の反応は複雑なものだった。


「……これだけだと何だか分からんな」


「やっぱり、直接現地に行って、見ないと分からないんじゃないかな?」


「うむ……そうしよう」


 ルートヴィヒは多忙(怪しいが)の合間を縫って、トルコに行くことにしたようだ。



 その間に、俺はストックホルムに行ってノーベルに会いに行くことにしよう。


 ミュンヘンは南の方にあるが、それでも鉄道がある分、バルト海の方が圧倒的に近いし、ギリシャまで行くルートヴィヒと比べると遥かに早く戻ってこられるはずだ。

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