第7話 燐介、発掘許可を求める
ロンドンに急いで戻ると、早速オスマンの大使館へと向かった。
アブデュルハミトに会わせてほしい旨を伝えると、すぐにやってくる。
「どうしたんだ?」
不意の来訪にけげんな顔をするが、ひとまず空いている部屋に案内された。
そこでバイエルンとプロイセンから頼まれて、トロイア遺跡を発掘したい旨を説明する。
例によって、人を小ばかにするような視線を向けてくる。
「跳んだり走ったりするような大会を開くと言い出したかと思えば、今度は穴を掘るのか。おまえもつくづく変わった奴だな」
「余計なお世話だよ。ど素人に掘らせて破壊してしまうとマズいから、専門の連中を連れていきたいんだが、どうやれば許可がもらえると思う?」
「僕にそんなことを聞かれても困るが……」
ふ~と呆れたような溜息をつかれ、椅子にふんぞりかえるように座る。
「……まあ、今の大宰相一派は改革派・開放派の連中だ。普通に頼めば大丈夫じゃないか?」
「おまえも一筆添えてくれよ」
「……」
また、ジロッと睨みつけてくる。
「悪いが、それはできない」
「何でだよ。恩が売れるじゃないか?」
「……目立つことをすると、スルタンに睨まれる。スルタンに睨まれてまで、一筆書くようなことはできないね」
「あぁ、そうか……」
確かに、外に出る自由は認めてもらっているものの、現在のスルタン・アブデュルアジズからするとアブデュルハミトは自分を追い落とすかもしれないライバルだった。迂闊に政治的な行為はできない、というのはもっともか。
「イスタンブルのそばでないなら、地面を掘る許可はすぐに貰えるだろうと思う。まあ、金はそれなりに要求されるだろうが、な」
「まあ、そうだな」
念のため、トルコに行く前にルートヴィヒにどこまで出してくれるか確認しておこう。
「あと、トルコの通訳も連れていきたいんだが」
「……勝手にしろ。後で駆り出した日数分の支払いはしてもらうぞ」
「分かったよ」
ということで、現地で役立つ英語とトルコ語のできる人物を1人連れ出し、ベルリンへととんぼ返りだ。
ベルリン博物館に行くと、レプシウスが30人単位の発掘隊を編成していた。
「……ちょっと待て。随分揃えたな……?」
こんなに大人数とは思っていなかった。
これだけの人数の許可が取れるかな。取れるとしても、すんごい賄賂とか必要になりそう。
「……おまえと別れた後、宰相閣下が、リンスケに馬鹿にされるような真似は許さん。プロイセンの威光を見せつけろと強く言ってきたので、な」
レプシウスは呆れたように肩をすくめる。
というか、ビスマルクは何で俺に対してそう喧嘩腰なんだ。あいつはもう50過ぎているだろう。息子みたいな俺に全力対決で情けなくないのかね。
……まあ、俺の前世を合わせると45年分くらいの記憶があるから、そう変わりがないといえばそうかもしれないが。
責任者は2人とも若い学生上がりだ。
そうは言っても、年齢自体は俺と変わらないだろうけれど。
フリードリヒ・シュリー、ハインリッヒ・ハイデマンという2人だ。共に考古学をしっかり勉強しており、イタリアあたりに調査に出たこともあるらしい。
「トルコは初めてですが、問題ないと思いますよ」
全員、自信満々の様子だ。
頼れるメンバーではあるが、であるだけに資金がどこまで出るかだけが心配だ。
これでルートヴィヒが「予算はいくらまでだ」とか言い出したら、幻の最強メンバーとかになりかねない。
幸い、ルートヴィヒはそんなちゃちい人間ではなかった。
いや、税金を納めるバイエルンの国民からするとどうなのかという問題もあるが。
「古代ロマンを発掘できるのなら、余の宮殿を担保に入れても金は用意しよう」
と、頼もしいのか危ういのかよく分からない発言だ。
とりあえず、何かあったらバイエルンに請求できるから安心してトルコに向かうことにした。
もっとも、俺は発掘作業に関してはシュリーマン以上の素人だから、許可さえもらえばお役御免。
ただ、発掘を眺めているか、あるいはどこか別の場所に過ごすだけとなるのだが。
トルコに行くついでにギリシャにも立ち寄ろうかとも思ったが、最終的にはやめることにした。
ルートヴィヒも言っていたが、前ギリシャ王はバイエルン王家から出ている。ゲオルギオスにとっても複雑な心境になる相手だろうし、バイエルンの資金援助を受けた部隊を引き連れているというのは気分の良いものではないだろう。
直接トルコに乗り込んで、イスタンブルへと向かった。
アブデュルハミトの予想通り、外国への開放政策を取っていることもあり、許可自体はすんなりともらえた。発掘保護という名目で賄賂を要求されたので、それはバイエルンに送る。
早速発掘開始だ!
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