第6話 ビスマルクと考古学
ビスマルクが睨みつけてくる。
やばいなぁ、俺、オーストリアのスパイと勘違いされていそうだ。
ビスマルクは表情を変えないまま聞いてきた。尋問のような口調だ。
「ヘル・ミヤチ、この紹介状にはトルコの発掘がどうのこうのと書いてあるが、どういうことなのだ?」
「あぁ、それは書いてある通りだと思うんだが……」
しかし、その書いてあることも受け取り方によっては国際問題になりかねないことではあるわなぁ。
トルコに入ってどうのこうのと言うのも、結構怪しいことだし。
遺跡発掘なんて言い訳にしか思えないだろうし。
やばいな、ルートヴィヒに「ベルリンで陛下の紹介状を持った奴がこんなことをほざいているが、本当ですか?」とか問い合わせが行って、フォローしてくれるだろうか。
「そんな奴は知らん」とか言われかねない気がする。
どうしたものかと考えていると、ビスマルクが後ろを向いた。
部下が入ってきたらしい。何か耳打ちしている。
こういう時の耳打ちってすごく気になるが、何なんだろうか?
ビスマルクは無言のまま、机へと向かった。
何だ? めちゃくちゃ気になるんだが……
数分して、何か書き上げると、それを手にして近づいてきた。
「博物館の場所は分かるか?」
「博物館?」
「副館長のレプシウスに、適当な者がいないか聞けば良い」
「えっ、えっ?」
ということは、調査に協力してくれるってことか?
戸惑っていると、また睨みつけてきた。
「それでヘル・ミヤチ、トルコの協力を得られるというのは本当なのだな?」
「あ、あぁ、それはまあ……」
「ドイツから東欧・トルコ方面へと鉄道を繋ぐ計画はいずれ出て来ることだろう。うまくやってくれ」
「……はあ」
何だかよく分からず、気の抜けた声を出すと更に険しい視線を向けてきた。
「まだ何かあるのか? 用件は終わったはずだが?」
「あっ、わ、分かった。失礼しました!」
慌てて宰相室から出た。
博物館に向かいがてら、俺は考える。
確か第一次世界大戦の前にドイツに3B政策というのがあった。ベルリン、イスタンブル(旧称はビザンティウム)、バグダードを結ぶ線だ。
これがイギリスの3C(カイロ、ケープタウン、カルカッタ)と相対するものとして嫌われたという。
バクダードまで行くのはともかく、トルコにはドイツも関心があるということのようだ。俺の許可で発掘してうまくいけば、その他でプロイセンが色々オスマンに要求できるかもしれない。
……と考えると、俺はビスマルクの都合の良いように動くことになるわけか。ルートヴィヒにも恩が売れるからビスマルクとしてはそれも有難いだろうし、な。正直気持ち悪いが……
まあ、仕方ないか。
あまりウダウダ言うと、あのビスマルクのことだ。「それなら独房に入っていろ」とか言いかねない。
とりあえず博物館に急ごう。
博物館について、ビスマルクの手紙を渡す。
こちらも効果は抜群のようで、すぐに会えることになった。
ベルリン博物館の副館長カール・リヒャルト・レプシウスはプロイセンにおける古代エジプト研究の第一人者らしい。
20年近く前にはプロイセンの調査隊を指揮してエジプトからシリアに至るまで発掘作業をしたというから、確かに適任そうだ。
もっとも、手紙を出すと最初は難色を示された。
「宰相殿も無理を言われる」
と言い、そこからくどくどと文句を言い出した。
同じ古代でもエジプトとギリシャでは全く違う。作業の前提も違うし、文字も違うだのうんぬんかんぬん、と。
知らねーよ。
言葉が通じない奴に長時間説教してどうするんだ、おまえは。
文句があるなら、自分の宰相に言ってくれ。
「しかし、プロイセンの考古学調査力が伸びるのであれば悪くはない。適当な人間を探すから一週間ほど待ってくれ」
散々文句を言った後にこれだ。
もっと早くやってくれよ、と言いたくなる。
一週間か。
まあ、発掘隊を編成するとなるとそのくらいはかかるだろうな。
となると、待つ間にロンドンに一度戻って、アブデュルハミトから許可を貰ってくることにするか。ついでにトルコの通訳も必要だろうし、な。
アブデュルハミトはきびきび動いてくれるだろうし、10日で戻れるだろう。
俺はレプシウスに10日後に来る旨を伝えて、博物館を後にした。
今度はロンドンへの急ぎ旅だ。
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