第3話 燐介、ルートヴィヒと会う
「全く、燐介はどうしようもないね」
琴さんが呆れたように溜息をついた。
「君は本当に、色々なところに首を突っ込み過ぎるし、事件を呼び込み過ぎるんだよ。私も甘く見ていたとしか言いようがないね」
そう言って、佐那に「どうする?」と尋ねた。
佐那も「はぁ」と呆れたように溜息をついた。
「……男子たるもの、頼まれたことは優先しなければなりません。早く行ってきなさい」
「あ、あぁ……」
これは理解してもらったということなんだろうか。
あるいは、見限られてしまったんだろうか。
うわぁ、それは嫌だなぁ。
とにかく、2人はさっさと片付けてこいとだけ言って、そのままロンドン市内へと帰ってしまった。バイエルンまで来てはくれないらしい。薄情な話だ。
結局、ロンドンに着いたばかりなのに、またサウサンプトンに立ち戻り、ベルギーへの船に乗ることになった。
ドイツというと、マルクスの故郷だな。
ただ、あいつは出禁処分だったから立ち寄ることもできないみたいだ。
現代ならともかく、この時代でどこまで出禁処分などが通用するのかと思うが、あいつが変装するとも思えないし、な。
ベルギーのアントウェルペンからドイツ西部のケルンまでは鉄道が走っている。
ドイツはまだ統一されていないから、それぞれの公国やら王国が勝手に鉄道を作っているから、飛び飛びで行かなければならない。気分としては、バス旅行の旅のようなものだ。
護衛兼通訳をエリーザベトがつけてくれたので彼の案内に従いつつ移動する。
三日かけてバイエルン王国の都であるミュンヘンへと到着した。
紹介状を貰っているので、そのまま国王がいるという宮殿に押しかけたが、ルートヴィヒはワーグナーと共に劇場にいるという。
「まあいいや。待つことにするよ」
相手は国王だし、いきなり押しかけてきて無理矢理会いに行くのも、と思ったが。
「いいえ、皇后エリーザベト様の紹介状を持っている方をお待たせするわけにはいきません」
と、廷臣達が呼びに行った。
エリーザベトの紹介状、凄いな。
あるいは、ワーグナーが嫌われていると言うから、切り離す口実が出来てラッキーくらいの感じなのだろうか。
待つこと一時間。
「全く、あの人は本当にいきなりなんだから」
というような感じのドイツ語が聞こえてきた。
そしてスラッとした美形男子が現れる。
でかいな。190くらいありそうだ。
「ワダスが……、コホン。私がルートヴィヒだ」
ドイツ語で自己紹介しようとして、俺がイギリスから来たと思い直して英語に切り替えた。
もっとも、それほど得意ではないようで、もっぱら通訳を介して行うことになる。
「……おまえのことは知っている。ギリシャ国王の陪臣だそうだな?」
おっ、ルートヴィヒも俺のことを知っているのか。
自分で言うのも何だが、俺も有名になったものだなぁ。
もっとも、その視線はあまり友好的なものではない。
「元々、ギリシャは我がヴィッテルスバッハ家のものだった。それをクーデターで奪い取った後にデンマーク王子がかっさらっていった。おまえはその一味というわけだな」
おっ、おっ? 何か敵対意識丸出しだぞ?
そういえば、前のギリシャ王オソン1世はバイエルンから来たという話だったっけ。
うまいことコントロールできなくて追い出されて、その後、国民投票の結果も受けてゲオルギウスが国王になっていたけれども。
「ギリシャ王オットーは我が叔父だ」
これはまずいな。
エリーザベトの奴、そんなこと全く言ってくれなかったが、ルートヴィヒにとって俺は歓迎せざる相手という雰囲気に見える。バイエルンにとっては未だ前の王が正当なギリシャ王で、デンマークから来た新しい国王など認められない。だから、その部下である俺も認めない様子だ。
ただ、緊張を強めた瞬間。
「……そんな事情もあるが、まあ、それはどうでも良い」
どうでも良いんかい!
だったら、遺恨めいた感じで言うなよ!
「皇后の魂胆は分かっている。私は誰とも結婚しない」
あ、そういう話なのか。
エリーザベトは「男が好きなようだ」とルートヴィヒを評していたが、結婚させようとしているんだな。それを分かっているから、ルートヴィヒも皇后からの使いを警戒しているようだ。
ただ、俺が頼まれたのはそういう話ではないからな。そもそも、結婚寸前でお預け食らった俺に、女を紹介できるはずがない。
「いや、どちらかというと浪費が荒いことを注意してほしいと言われて来たのですが」
「それは私の勝手だろう。他所の国から来た者に言われたくはないな」
うおお、確かにその通りだ。
金遣いの荒さを直す雰囲気はゼロ。
となると、エリーザベトが言っていたように方向をオリンピックに向けさせる方が良いかもしれないな。
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